2025/05/13

VOL.15寄稿者&作品紹介22 かとうちあきさん

 横浜の阪東橋近くで「お店のようなもの2号店」を営むかとうちあきさんの小誌今号への寄稿作は「宇宙人に会った話」と、タイトルからしてなんかどえらいストーリー性を感じさせますが、入稿時に私(←発行人)があまりビビらなかったのは、やはり前号への寄稿作「A Bath of One’s Own」の結末に驚愕し過ぎたからかもしれず...いや、でも、やっぱり今作も充分に奇想天外な、でもちょっともの悲しいお話でございました。主人公の「わたし」がその宇宙人と遭遇したのは〈五、六年ほど前の冬、風が強く吹いていた夜〉だそうで、場所は〈帰るのが面倒な時、まだちょっと呑み足りない時、定期的に野宿をしていた都心の公園〉なのだと。「わたし」に対してのファースト・コンタクトは宇宙人側からで、意思疎通は、どうやら日本語でOKのよう。会話を通じて宇宙人の正体が徐々に明らかになっていくのですが、なにが真実なのかは、なんとも雲を掴むような、なんとも。




ネタバレしないように紹介したいので、この宇宙人がどこの星雲のどんなできごとの末に地球に辿り着いたのか、みたいなことはここで詳らかにはしませんが、しかしこの出会いと、その後のちょっとした交流によって、「わたし」の平常心は浸食されてしまいます。作品後半にある〈「やれやれ、でも面白かったな」って咀嚼しやすい体験からはみ出たものを見てしまっているって動揺〉という一文が、「私」の心境をよく表しているように感じられました。蓋をしたくてもできない...やはりこれは浸食された、としか。


と、本作の核心部分には触れないままここまで書いてきましたが、もう読了後の方にはぜひ、作中の「宇宙人」って言葉、けっこう汎用性が高くて代替可能なんじゃないか、のようなことにも思いを馳せてみてほしいな、とも思うのです。たとえば「アメリカ人に会った話」でも「芸能人に会った話」でも...「死人に会った話」でだって成立しそうなところが、本作のやっかいな(と、いうか優れた)ところ。みなさま、ぜひ小誌を手に取って、宇宙人の正体をお確かめください!


ウィッチンケア第15号(Witchenkare VOL.15)
発行日:2025年4月1日
出版者(not「社」):yoichijerry(よいちじぇりーは発行人の屋号)
A5 判:276ページ/定価(本体2,000円+税)
ISBN:978-4-86538-173-3  C0095 ¥2000E


 その公園にはおそらくほぼ毎日まだ薄暗い四時くらいから掃除をしに来る人たちがおり、決まって六時半にはラジオ体操が行われています。
 定期的に野宿をしているもんだから、掃除をする人たちには「たまに寝ているへんなやつら」って認識され「よっ」って声をかけられる。ラジオ体操をする人たちとも顔見知りです。
 身体を動かして清々しい気持ちになったり、起きられずにごろごろしながら眺めたり。いつもラジオ体操の輪の真ん中にいるのは、指導士のユニホームである白いジャージ上下を着た七十代後半の女性で、その方のきりっとした動きを確認、ちょっとした会話ができると、うれしいなと思う。
 そのような公園のルーティーンに身 をゆだねたのち、わたしもおうちへ帰りました。汚部屋と言ってもまあ過言ではない、じぶんの部屋に。


~ウィッチンケア第15号掲載〈宇宙人に会った話〉より引用~


かとうちあきさん小誌バックナンバー掲載作品:台所まわりのこと〉(第3号&《note版ウィッチンケア文庫》)/〈コンロ〉(第4号)/〈カエル爆弾〉(第5号)/〈のようなものの実践所「お店のようなもの」〉(第6号)/〈似合うとか似合わないとかじゃないんです、わたしが帽子をかぶるのは〉(第7号)/〈間男ですから〉(第8号)/〈ばかなんじゃないか〉(第9号)/〈わたしのほうが好きだった〉(第10号)/〈チキンレース問題〉((第11号)/〈鼻セレブ〉(第12号)/〈おネズミ様や〉(第13号)/A Bath of One’s Own〉(第14号)



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Vol.15 Coming! 20250401

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