久禮亮太さんが東京都品川区(東急目黒線「不動前」駅近く)にフラヌール書店をオープンさせたのは2023年の春。開店に至るまでの詳細を綴った「フラヌール書店ができるまで」はウィッチンケア第13号に掲載されています。お店の坪単価、初期費用、目標の年商、書棚の収容冊数と制作方法、さらに取次会社との交渉の仕方まで、かなり具体的に記されていまして、今後、いわゆる「独立系書店」を志す方には、ぜひ目を通していただきたい内容です。そして、同作で印象的だったのは、最後のあたりに「これからどのように書店を育てていきたいかについては、あえてあまり具体的には決めていません」との一文があったこと。...時は流れ、そんな久禮さんの小誌前号(第14号)への寄稿作は「フラヌール書店一年目の日々」、そして今号(第15号)には「フラヌール書店二年目の日々」。お店がすくすく育っていく様子が伝わってくる、定点観測的な一篇です。地元に根ざしつつ、イベントや店内のギャラリーでの展示会なども積極的におこなって...あっ、先月から今月にかけて(4/3~5/6)、フラヌール書店では小誌第15号の全ヴィジュアルを担当した圓井誓太さんの写真展「SALT AND SUGAR」を開催してくださいました。ここで改めて感謝致します!
拝読していると場所柄か、作家さんや出版関係者がお客さんとしてふらりと来店することも多いようです。また店主・久禮さんが音楽好きなこともあって、ミュージシャンや楽器に関する話も、少なくなく。四月二十五日での記述、〈雑誌「きょうの料理」を定期購読しているご近所のSさん、『じゃじゃ馬娘、ジョニ・ミッチェル伝』(亜紀書房)を目に留めて買ってくれた〉...素敵な話。その女性が「Paprika Plains」をBGMにシチューをコトコト煮てたり、なんて想像したりして。また作中には蟹ブックスの花田さん、誠光社の堀部さん、本屋titleの辻山さんなど、ウィッチンケアを取り扱ってくださっている書店の方々のお名前も出てきて、「個人書店の同業者ネットワーク」での展開の今後にも、興味津々です。
お店を開いていると想定外の出来事も起こるのだなぁ、と感じさせたのが、四月二十九日の記述。謎のおじさま...それでも筆者が「嫌な感じはしなかった」と書いてるのは久禮さんのお人柄ゆえでしょうか!? きっと、おじさまの話を理解しようと、優しく接していたのだと思います。他にも面白いエピソード満載なので、ぜひ小誌を手に取ってお楽しみください!
四月二十九日(月) 閉店間際に謎のおじさまが来店。近所の和食屋さんで飲んできた帰りらしい。とにかく饒舌で、話があちこちに飛んで半分くらい何を言っているのかわからないが、嫌な感じはしなかった。とにかく本が好きで、とても詳しいことはわかった。作家の保坂和志と花見で同席して保坂さんがブルーハーツの「リンダリンダ」を熱唱したというエピソードのあと、なぜか店内でそのモノマネですと熱唱して、「あ、お呼びでない、こりゃまた失礼しました」と植木等スタイルでお帰りになったと思いきや、「あ、もう一つ忘れてました」と刑事コロンボ風に戻ってきて笑ってしまった。誰だったのだろうか。
~ウィッチンケア第15号掲載〈フラヌール書店二年目の日々〉より引用~
久禮亮太さん小誌バックナンバー掲載作品:〈鈴木さんのこと〉(第6号)/〈フラヌール書店ができるまで〉(第13号)/〈フラヌール書店一年目の日々〉(第14号)
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