2025/05/09

VOL.15寄稿者&作品紹介14 早乙女ぐりこさん

 今回が「ウィッチンケア」への初寄稿となる早乙女ぐりこさん。ご著書「速く、ぐりこ! もっと速く!」(百万年書房/2024年)のことは、発行後すぐに小誌寄稿者・うのつのぶこさんがFacebookで絶賛していたので私(←発行人)も気になっていまして、その後、SNSにて早乙女さんが小誌第14号を入手してくださったことを知り、昨年春の文学フリマ東京でブースを訪ねて、ご本人からサイン本を購入。さっそく拝読しまして、そのパワフルさと繊細さを兼ね備えた筆致のファンになってしまいました。また、秋の文フリでも少しお話しする機会があり、そのさいに手に入れた「ハローアゲイン」の巻末を見たら、「速く、ぐりこ!もっと速く!」以外にも自主制作の単著が(その時点で)15冊、共著も2冊! これはもう、小誌も「新しい試みの場」としてご利用いただきたい、と次号の構想が固まった時点で寄稿依頼のメールをしたため、良いお返事をいただきまして、そして...2月初旬に届いた作品が、寄稿原稿として初めての小説「蜘蛛と鬼ババ」なのでありました。




物語の舞台は九月下旬の、南伊豆の温泉地にあるゲストハウス。一人旅でのこの地を訪れた主人公「真知」の4日間の様子が、静謐なトーンで綴られています。エッセイ/日記形式の作品では私=筆者、と直結させて事態の顛末(恋愛や対人関係/喜怒哀楽)を読んでしまいがちですが、三人称の小説というスタイルでは、人物の行動に秘められた内面(心理)が徐々にしか伝わらない...作者はそのじれったさをうまく積み重ねて、南伊豆の風景とともに「真知」の心象をも描写していきます。


終盤で明かされる、「真知」が旅に出た理由が、なんとも。排水口の大きな水音が耳に残ります。そして、作中に「……もしかして、わざと私の視界に入ってきている?」と蜘蛛に心で問いかける一節があるのですが、これは逆、と私は読み取りました。ある事情で4日間日常を遮断して心細くなった「真知」が唯一〈なにかと繋がっている〉と感じた相手が、初日の浴場で偶然見かけた蜘蛛だったのだ、と。みなさま、ぜひ小誌を手に取って、早乙女さんの小説世界に誘われてみてください。



ウィッチンケア第15号(Witchenkare VOL.15)
発行日:2025年4月1日
出版者(not「社」):yoichijerry(よいちじぇりーは発行人の屋号)
A5 判:276ページ/定価(本体2,000円+税)
ISBN:978-4-86538-173-3  C0095 ¥2000E



 リビングの棚に置かれた観光マップをふと手にとると、ここから歩いて行ける距離に町立図書館があると書かれていた。その図書館には石垣りん文学記念室が併設されているという。石垣りんという詩人の名前は高校時代に国語の授業で聞いたような気がする。真知はそのマップを片手に図書館に向かった。
 小さな展示室に入ると、ベレー帽に柄物のブラウスを着て穏やかに微笑む晩年の詩人の大判写真が飾られていた。室内で流れていたインタビュー映像には、やわらかな口調で「私は鬼ババです」と話す詩人の姿が映っていた。私も鬼ババになれるだろうか、と真知は思う。置かれた詩集をぱらぱらとめくっていると、「シジミ」という詩にも〈鬼ババの笑い〉という言葉を発見した。夜中に台所のすみで、買ってきたシジミたちが口をあけているのを見た〈私〉は、〈夜が明けたら/ドレモコレモ/ミンナクッテヤル〉と思い、〈鬼ババの笑い〉を浮かべる。しかし、そんな〈私〉も、実際にはシジミたちと同様に〈うっすら口をあけて〉寝るだけの無力な存在なのだった。
 
 夕食後、真知が離れの風呂を上がり、勝手口から戻ると、例の大きな蜘蛛がさっと一緒に家の中に滑り込んだ。白い壁にさらさら這い登った蜘蛛と、スリッパを履いて廊下に上がった真知は、しばらくじっと向き合った。


~ウィッチンケア第15号掲載〈蜘蛛と鬼ババ〉より引用~


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https://note.com/yoichijerry/n/n9089f16965e1
 
 
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Vol.15 Coming! 20250401

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