ウィッチンケア第14号からの寄稿者・星野文月さんは先月、全編書き下ろし、3年ぶりの新刊となる「不確かな日々」(ひとりごと出版)を上梓されました。ご自身のSNSには“思うようにいかない日々の中で、自分の現在地を確かめるように、書きながら暮らした半年間の記録”との一文が。私(←発行人)は5月11日に開催された文学フリマ東京40の会場にて、星野さんにお目にかかって入手、サインもいただきました。さて、そんな星野さんの小誌第15号への寄稿作は「野良犬に月」と題された、ベトナム(ハノイ)〜インドネシア(デンパサール)の旅行記...というか、旅行時の身辺雑記とも言えそうな一篇。たとえば「タンロン遺跡の巨大な石造りの門が〜」とか「エメラルドグリーンに輝くハロン湾の絶景は〜」とかみたいな記述はなくて、夜の町のどこかの食堂で〈ぶよぶよした米の麺を啜った〉り、道端で買ったハート型のバルーンをホテルの窓から放ったり。でも、こんな些細なエピソードを交えて記されたハノイという町の風景(と質感)がリアルに感じ取れるのは、語り手である「私」の平常心での観察眼と、なによりも筆者の筆力によるものだと思いました。
ハノイからデンパサールへと飛行機で移動して、ここで旅の目的が語られています。「そもそも長野が寒すぎるという理由でここにやってきたのだけれど」と。なるほど、この旅は「居場所を移してみる」ことが目的なのか、と読んでいて私は思いました。避寒、と語られてはいいますが、おそらくメンタルのリフレッシュが必要、みたいなこともあって、日常生活のベースから離れてみた、と(あくまで推察ですけれども...)。
作品後半、「私」は少しずつアクティヴになります。転機とも言えそうな、暗闇のウブドを一人で歩くくだりはひときわ印象的で、たくさんの野良犬と遭遇したこの時の心象がタイトルへと繋がっているのは、きっと雲が晴れて見えた満月が、頼りがいのある光を放っていたからなのだろうな、と。その後の「私」は日本の友だちと会ったり、日本語ができるタクシーの運転手に勧められて...あっ、この先はぜひみなさま、小誌を手に取ってお確かめください。
私は英語をあまり話せないけれど、必要に迫られてコミュニケーションを取るといつもより強気な自分があらわれてちょっとおもしろい。日本語で話す私はすぐ言い負かされそうな感じがある。
~ウィッチンケア第15号掲載〈野良犬に月〉より引用~
星野文月さん小誌バックナンバー掲載作品:〈友だちの尻尾〉(第14号)
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