前号には〈蜘蛛と鬼ババ〉という掌編小説をご寄稿くださった早乙女ぐりこさん。ウィッチンケア第16号への寄稿作は、今年2月に上梓した小説「珍獣に合鍵」(KADOKAWA)に関連した、スピンオフ・エッセイとでも呼べそうな一篇です。今は亡き父方の祖父とご自身の関係を正直に語っておられるのですが、でもそれは同時に「作家・早乙女ぐりこ誕生秘話」でもあるような。...なんと言いますか、血は争えない、とか、メンタルな隔世遺伝、とか、蛙の孫は蛙(!?)、とか、いろいろな言い回しが頭に浮かんでくるような逸話が披露されています。もちろん早乙女さんも、その因果めいた関係性を認識しているので、文体は苦くすぐったいテイストを帯びていて、でも私(←発行人)が思うに、本作はあるできごとをきっかけに〝完全に心を閉ざした〟ままお別れになってしまった祖父に対する、少し遅れてしまった餞なのではないか、と。


出版者(not「社」):yoichijerry(よいちじぇりーは発行人の屋号)
A5 判:272ページ/定価(本体2,000円+税)
成せば成る成さねば成らぬ何事も成さぬは人の成さぬなりけり
成せば成る、と言われてもなあ。同意反復しているだけで、そりゃそうだとしか言いようがない。正しくは「為せば成る」だ。そしてこれは勝手な推測だが、「為せば成る」と「面白きこともなき世を面白く」は、世の老人たちの自伝に頻出する言葉ランキングの上位に入るのではないだろうか。
完成した祖父のZINEを、私は母から受け取って読んだ。読んでいて一番興味深かったのは、祖父が興した会社の経営が立ちゆかなくなった後のくだりだ。祖父に会社の倒産を告げられた祖母と父は、夜逃げ同然に家を出ることになる。祖父はひとり死を考えながら愛車のクラウンで当てもなく旅をする。このあたりのエピソードだけで丸一冊書けそうなのに、祖父はさらっと二ページくらいで書き流している。なんでだよもったいない。そこを掘り下げなくてどうするんだ。しかし、祖父にとっては向き合いたくない苦い思い出だったのだろう。
代わりにこのZINEに詳しく書かれていたのは、会社がうまくいっていた頃のバブリーな自慢話や、旅行や同窓会の思い出、そして自分の親族や友人たちの生い立ちや人柄などだ。ありとあらゆる人物が実名で登場する上、かなりセンシティブな内容も書き込まれており、プライバシーもへったくれもない。母によれば、祖父の記憶違いによる、事実と異なる記述などもあれこれあったのだという。
~ウィッチンケア第16号掲載〈祖父の陣〉より引用~
早乙女ぐりこさん小誌バックナンバー掲載作品:〈蜘蛛と鬼ババ〉(第15号)
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