2026/05/15

vol.16寄稿者&作品紹介26 我妻俊樹さん

 前号(第15号)には〈スクールドールズ〉と題された、学園もの(と言っても、一筋縄ではいかない...)の小説をご寄稿くださった我妻俊樹さん。今号への寄稿作は、さあたいへんだ。私(←発行人)は本作をどのように読み解けばいいのでしょうか? あっ、その手がかりになりそうな、我妻さんご自身のXでのポストがあったんだ。〝文芸誌『ウィッチンケア』16号に「インゲッピシ・ドトオフロップシェ」という小説を書きました。インゲッピシ・ドトオフロップシェが色んなものと戦ったり、花のような匂いがしたりします。インゲッピシ・ドトオフロップシェ、私も覚えられませんが一体何者でしょう?〟...「一体何者でしょう?」って、筆者から謎かけられても、なんともうまく説明できないのですが、とりあえず格闘技ものの主人公、と捉えて、以下では本文の中から「何者なのか?」のヒントになりそうなところをピックアップし、紹介してみたく存じます。それにしても、小誌内で本作の最後(P157)に配置した草野庸子さんの写真。これは作品のイメージカットとして、とても良く似合っていると思っています。


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インゲッピシ・ドトオフロップシェのコンディションについて、作品前半では何箇所かで言及されています。〝たしかに前評判は上々だった。今年のインゲッピシ・ドトオフロップシェは仕上がってるぞ! と言われつつ期待倒れに落ち着いていくのがいつものパターンなのに、その兆しが見えない〟〝色分けを信じることでインゲッピシ・ドトオフロップシェの集中力はナイフのように研ぎ澄まされる。あるいはもしかしたら、去年までのていたらくはこの集中力が妨げられていたことが理由かも、という説もあって〟等々。とにかく、作中のインゲッピシ・ドトオフロップシェは昨年と違い、好調なようです。
作品中盤にはインゲッピシ・ドトオフロップシェの性格につて触れられた記述もあります。〝もともとインゲッピシ・ドトオフロップシェはパーティー好きな陽気な性格だったけれど、あの一撃で背中側の記憶胞が半分近くつぶれて中身を床にぶちまけてからはパーティーを一度も開いていない。以後は別人格と言っていいほどで、かわりにペットを飼いはじめたと聞いているが、恥ずかしがって見せようとしないからそのことは噂の域を出なかった〟元パーティ好きで、いまはペット好き。...ということで、インゲッピシ・ドトオフロップシェのコンディションと性格については多少解き明かせたような気もしますが、まだまだ謎だらけ。みなさま、ぜひ小誌を手にとって、さらなるインゲッピシ・ドトオフロップシェの全貌に迫ってみてください!


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ウィッチンケア第16号(Witchenkare VOL.16) 発行日:2026年4月1日
出版者(not「社」):yoichijerry(よいちじぇりーは発行人の屋号)
A5 判:272ページ/定価(本体2,000円+税) 
ISBN:978-4-8-6538-180-1 C0095 ¥2000E


 とても暑い日に、ささやくように蝉が鳴いているようだとインゲッピシ・ドトオフロップシェは思った。それに「思う」という動詞をあてがうことが妥当なのかは措くとして、インゲッピシ・ドトオフロップシェには物思いにふけっているとしか思えない時間がしばしばあった。勝ち負けの世界のむこうにひろがる荒涼とした地形に視線を向けたまま、すごいスピードで扇状の名もなき部分を震わせているところを見ると、やはりインゲッピシ・ドトオフロップシェも今日は暑いのだなと思ってしまう。しかしそのことと物思いの深さのようなものは両立し、その幅の中に少なくとも今年のインゲッピシ・ドトオフロップシェは存在している。王者の風格などという俗な表現は避けたいし、勝ち負けの話に意味を持たせすぎるのもその逆もどうかと思うが、勝つことの味がひとつではないと理解したのが現在のインゲッピシ・ドトオフロップシェなのだとしたら、王者とはそういうものだと理解したくもなる。空には虹が出ていた。雨上がりに鳴く蝉は中身が真新しく洗われてきた時計みたいだ、ずっと最新の時間を知らせて鳴っている、とインゲッピシ・ドトオフロップシェは思う。虹は薄れて空から出ていった、今まで見えなくなったもの、聞こえなくなったものはみんな自分の中に入ってしまったのだという気がした。それくらい自分というものが大きくて、死角だらけだと感じていたからだ。この場所にはいつも花の匂いが立ち込めているが、それが消えないのは花なんてどこにもないからで、というのも同じことの裏表の話だった。インゲッピシ・ドトオフロップシェは花のような匂いがする。どんな花の匂いをかいでもインゲッピシ・ドトオフロップシェを思い出すことはない。


~ウィッチンケア第16号掲載〈インゲッピシ・ドトオフロップシェ〉より引用~


我妻俊樹さん小誌バックナンバー掲載作品:〈雨傘は雨の生徒〉(第1号)/〈腐葉土の底〉(第2号&《note版ウィッチンケア文庫》)/〈たたずんだり〉(第3号)/〈裸足の愛〉(第4号)/〈インテリ絶体絶命〉(第5号)/〈イルミネ〉(第6号)/〈宇宙人は存在する〉(第7号)/〈お尻の隠れる音楽〉(第8号)/〈光が歩くと思ったんだもの〉(第9号)/〈みんなの話に出てくる姉妹〉(第10号)/〈猿に見込まれて〉(第11号)/〈雲の動物園〉(第12号)/〈北極星〉(第13号):〈ホラーナ〉(第14号)〈スクールドールズ〉(第15号)

 ※ウィッチンケア第16号は下記のリアル&ネット書店でお求めください!
 

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2026/05/14

vol.16寄稿者&作品紹介25 トミヤマユキコさん

 前号(第15号)には〈ひとりっ子という生き物の宿命〉という、家族関係にまつわるエッセイをご寄稿くださったトミヤマユキコさん。あれから約1年経ちまして、ウィッチンケア第16号への寄稿作は前回の話の続き...なのですが、なんと、想定外の展開が! 〝父親の病気をきっかけに、六年におよんだ山形での教員生活に終止符を打ち、東京に戻ってきた〟〝なんかあったらすぐ実家に駆けつけられる環境を整えた自分、なかなかやるじゃん。いい娘じゃん。とはいえ、己の人生も大切だ。無理せずマイペースにやっていこう。そんなことを思っていた矢先に、自分がぶっ倒れて救急搬送されてしまった。なんてこった〟...いやほんとうに、なんということでしょう。私(←発行人)は昨年9月、あるイベントで筆者とお目にかかり直接話を伺いまして、その時は多少回復なさっていたようですが、でも症状が完全に消えたわけではない、と。


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作中では病名を「PPPD(Persistent Postural-Perceptual Dizziness/持続性知覚性姿勢誘発めまい)という名の慢性めまい症」と明記。。この病気の症状、以前から確認できてはいたものの、医学界では2017年に初めて国際診断基準が提唱された、比較的新しい病名とのことです。対処法のデータや知識も医者によって個人差があり、〝ドクターショッピングのようなことはできればしたくない〟と考えていたトミヤマさんですが、結果的に何人もの医師のもとを訪ねたようで、その際の逸話も書かれています(ネタバレしませんが、ひどいこと言うお医者さんだ!)。
...と、ここまで読んだ多くの方、もしかしたら今作が深刻な闘病記なのでは? と思ったりするかもしれませんが、いいえ、ご心配なく。こんなシリアスな題材なのに、作品としての本エッセイ、どこをどう読んでもおもしろ過ぎて、なんという筆力なのかと驚嘆するしかないです。とくに、医学と併行してスピの世界にも心が動かされていく過程とか、病気になってあらためて政治に怒っているところとか。みなさま、ぜひ小誌を手にとって、トミヤマさんの回復を祈念しつつ、思わずくすくすしちゃってください。


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ウィッチンケア第16号(Witchenkare VOL.16) 発行日:2026年4月1日
出版者(not「社」):yoichijerry(よいちじぇりーは発行人の屋号)
A5 判:272ページ/定価(本体2,000円+税) 
ISBN:978-4-8-6538-180-1 C0095 ¥2000E


 わたしの辛さ、苦しさがわかるやつはいないのか。誰でも、何でもいいから助けてくれ。ぶっ倒れて間もない病気の素人にとって、この不安、この寄る辺なさが一番ヤバい。なぜならかなり自然な流れでスピってしまうからだ。医学の領域でやれることをやったら、もうスピるしかないじゃないの。きちんと調べたのに何も出てこないなら、それはもう呪いとか生き霊とか大殺界とか、そういうところに原因を求めるしかないじゃないの。元気なひとは変な理屈だと思うかもしれないが、心身の弱った人間というのは、変でもなんでもいいから、治りたいのである。そんなわけで、わたしのスピへの警戒心は、どんどん薄れていき、医学を否定せぬまま、そこにスピをトッピングする生活に突入したのだった。
 最初は、霊視ができる占い師のところに行った。なんにも言ってないのに「首から上に気をつけろ」と言われて「先生すごい!」と感動したまではよかったが「クリスマスは誰と過ごすのか」「外国でのロマンスに期待せよ」と言われたのには笑ってしまった。結婚して10年経っているので、ロマンスは正直どうでもいい。あと、恋人のいない独身中年女性、という先生の見立てに関しては、占いぜんぜん関係ないと思う。

~ウィッチンケア第16号掲載〈めまい──ふつうの中に苦しみがある〉より引用~

トミヤマユキコさん小誌バックナンバー掲載作品:〈恋愛に興味がないかもしれない話〉(第10号)/〈俺がお前でお前が俺で──マンガ紹介業の野望〉(第11号& note版ウィッチンケア文庫)/〈わたしはそろそろスピりたい〉/第12号/〈変名で生きてみるのもええじゃないか〉(第13号)〈人体実験み〉(第14号)〈ひとりっ子という生き物の宿命〉(第15号)


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2026/05/13

vol.16寄稿者&作品紹介24 多田洋一(発行人)

 それにしても毎号毎号、他の寄稿者/作品についてなにか書くのは楽しくてしょうがないのに、自分の書いたものとなると「あれに書き尽くしたので、もう屋上屋を重ねるようなことは」と、いつも億劫(いや、「横柄」かも)に。...スイマセン、一人でも多くの方に読んでもらいたいです。なので、紹介文、いきます。「ウィッチンケア」創刊号からの寄稿者である多田洋一さん(←私/発行人)の第16号掲載作は、新宿という街を小田急線目線(!?)で描いた〈楽しい未来への思い出〉という小説。このテキストをなんのプロンプトもなしでGeminiに読ませたら、「Shinjuku Memories and the Changing Cityscape」と題され、「回想録的なエッセイ」と。ちょっと、「引っかかったな!」と嬉しくなりました、私。というのも、筆者は全10ページ中の9ページ目下段(「♡」マーク以降)からの展開だけを先に決めて、のちに、そこに至るまでを構成したので。おっさんの昔話だと思ったら、エッ!? と感じていただければ、本望です。


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「近松」という女性は、第9号に掲載した〈銀の鍵、エンジンの音〉にも登場していますので、そちらも併せて読んでいただけますと、ああ、「僕」とはそういう関係なのですね、と別の楽しみ方もできますが...拙作「幻アルバム+α」に収録されております。そして、最後の方に出てくる映画は出演者名で検索すると特定できるかと存じますが(奥田瑛二の「瑛」が「英」なのは誤植ではありません)、今回何十年ぶりにDVDで見直してみるまで、本当に結末を覚えていなかったことに、自分でもびっくりでした(その少し前のシーンは、記憶に残っていたとおり)。


今作での「調べもの」ではかなりAIを使いました。個人的に一番役立ったのはアンソロピック社のClaude。Free(無料)で始めたけれども、容量などが全然足りなくて一ヶ月だけPro($20/月)と契約しました。ときどきしれっと嘘をつくが、慎重に向き合えば強い味方。おっさんの昔話みたいなことを書いた人が言うのもなんですが、時代はもう後戻りできないですね。でっ、そのAIに「この小説を酷評してください」ともお願いしてみました。以下が、Geminiによる要点。




1.主人公の「老害的」な懐古主義と選民意識
2.ストーリー性の欠如と「自分語り」の羅列
3.衒学的な固有名詞の多用
4.結末の唐突さと「雰囲気」への逃げ


...たしかに、私にも、そのようにも読めるが、それでもこのように書きたかったのですよ! みなさま、ぜひ小誌を手にとって、Gemini様の言ってることが正しいかどうかご判断ください。


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ウィッチンケア第16号(Witchenkare VOL.16) 発行日:2026年4月1日
出版者(not「社」):yoichijerry(よいちじぇりーは発行人の屋号)
A5 判:272ページ/定価(本体2,000円+税) 
ISBN:978-4-8-6538-180-1 C0095 ¥2000E


 換気塔の脇を通って東口に出る。
 えっ!?
 猫がいる。
 百果園とアルプス堂の間にいつのまにかできた薄いビルの上から、巨大な三毛猫がこちらを見下している。しばらくは呆然と眺めたが、でもそんな紛い物より、僕は煙草が吸いたかった。幸いにも角筈ガード横の喫煙所は使えるようで、少し急ぎ足で中を覗くと三密、ってほどでもなくて安心した。マスクを外し、紀伊國屋の一階の加賀屋で買ったケースから一本手にして火を点けた。
 いまはちっとも盛り上がらないオリンピックが絶賛開催中で、本来なら東京がもっと外人だらけになっていたのかもなんだけれども、街を埋めているのはマスク顔の日本人ばかり。なんだか日本って、あのでかい地震以来、何もぱっとしたことのない国になってしまったようにも思えたりして。
 煙を吐き出しながら、アイフォーンで猫の素性を調べてみた。
 クロス新宿ビジョン。企画制作/株式会社オムニバス・ジャパン。クリエイティブディレクター/山本信一。CG制作主担当/青山寛和を中心としたVFXチーム。
 さらにGoogleで検索すると、まあ、いろいろな風に語られていること。
 新宿東口から消えゆく景観が、記憶だけでは保てなくなることを前提に設置された、視認性を最優先する新たなランドマーク/その可愛さで街を和ませるのではなく「ここに注意を向けよ」とだけ指示する、東口が商業行為を中心とした空間から視覚消費を中心とする空間へ移行したことを示す装置……とかなんとか。
 でも、一番ピンときたのは「渋谷のハチ公に対抗する、新たな新宿の令和猫」というSNSでの書き込みだった。


~ウィッチンケア第16号掲載〈楽しい未来への思い出〉より引用~



多田洋一小誌バックナンバー掲載作品:〈チャイムは誰が〉(第1号)/〈まぶちさん〉(第2号)/〈きれいごとで語るのは〉(第3号)/〈危険な水面〉(第4号)/〈萌とピリオド〉(第5号)/〈幻アルバム〉(第6号&《note版ウィッチンケア文庫》)/〈午後四時の過ごしかた〉(第7号)/〈いくつかの嫌なこと〉(第8号)/〈銀の鍵、エンジンの音〉(第9号)/〈散々な日々とその後日〉(第10号)/〈捨てたはずのマフラーどうしちゃったんだっけ〉(第11号)/〈織田と源〉(第12号)/〈パイドパイパーハウスとトニーバンクス〉(第13号)/〈優しい巨人と美味しいパン屋のころ〉(第14号)〈山崎さんの殺人事件〉(第15号)


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【付記】
「これはエッセイではなく小説」とプロンプトで認識させたうえで、昨年と同じGemini/NotebookLMにも解説をお願いしました。筆者にも思いつかない読み方をしてくれていて...これも、びっくり。下記タイトルをクリックしてみてください。

2026/05/12

vol.16寄稿者&作品紹介23 野村佑香さん

 女優業と子育てを両立させつつ、最近ではテレビ東京夕方の生活情報番組『よじごじDays』でも、工場直売ハンター(リポーター)としてのご活躍をお見かけする野村佑香さん。ウィッチンケア第16号には〈からだは覚えている〉と題された、ちょっと不思議なテイストの一篇をご寄稿くださいました。登場するのは「わかめ」と「たらこ」と、グレゴール・ザムザとシヴァ神!? なんだか『マルドロールの歌』(「解剖台の上でのミシンと雨傘の偶然の出会いのように美しい」by ロートレアモン伯爵)みたいな展開なのかも、と思える...いやいや、本作は筆者の暮らしの中でのできごとを描いた、きわめて日常的な身辺雑記でございますが、でも、その読み心地は、やはりいささかシュールレアリスティック。


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小誌の巻末にある《参加者のVOICE》で、野村さんは〝この話を書こうと思ったのは、インフルBに罹り、身体が動かなくなった日々が4日ほど続いたからでした〟と記しています。ネタバレになっちゃいますが、本作中の「わかめ」とはインフルBのせいで高熱にうなされている野村さんご本人のこと。とても苦しかったであろうと想像するのですが、その時の自分のことを、味噌汁の椀の内側に貼り付いて〝ただ、ここでこれから乾いていくのを待つだけの存在〟だと。そして筆者はさらに、そのご自身の置かれた状態からフランツ・カフカの小説の主人公に思いを馳せて...。



では、それでは、「たらこ」とは? こちらはぜひ、小誌を手にしてお確かめください。比喩の面白さは「わかめ」に負けず劣らずですが、「たらこ」にまつわる野村さんとお嬢様との関係性、と言いますか、母親が成長過程の子供に向ける眼差しが、細やかな描写から、じんわりと伝わってくるのです。〝創造と破壊はいつもセットだ。シヴァ神と毎日踊り続ける〟...ほんと、毎日身近に接しているからこそ生まれてきた一節だと感じました。


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ウィッチンケア第16号(Witchenkare VOL.16) 発行日:2026年4月1日
出版者(not「社」):yoichijerry(よいちじぇりーは発行人の屋号)
A5 判:272ページ/定価(本体2,000円+税) 
ISBN:978-4-8-6538-180-1 C0095 ¥2000E

 熱に浮かされたまま、自分の輪郭が溶け、言葉が通じなくなり、意思とは関係なく別のものになってしまうあの感じ。もしそれが、成長期のある一時期に、ふいに訪れるものだとしたら、彼が虫になったのも、私がわかめになったのも、そう遠くない関係にある出来事なのかもしれない。

 成長といえば、毎日ミシミシと音を立てて成長をし続ける身体が我が家には2つある。娘たちをみていると、身体は、成長の途中で、勝手に何かを生み、また勝手に手放していくものなのだ、ということをまざまざと感じる。そして、私が忘れ去っていた身体の不思議を、ぎょっとする形で思い出させてくれる。蛹から蝶が生まれる前に血のような液体を出すことや、植物が花開く瞬間が、美しくもありグロテスクでもあるように。長女に奥歯が生えてくる前のことだ。

~ウィッチンケア第16号掲載〈からだは覚えている〉より引用~

野村佑香さん小誌バックナンバー掲載作品:〈今日もどこかの空の下〉(第6号)/〈物語のヒツヨウ〉(第7号)/〈32歳のラプソディ イン マタニティ〉(第8号)/〈二人の娘〉(第10号)/〈渦中のマザー〉(第12号)/〈おしごと ~Love Myself~〉(第13号)〈地中海の詩〉(第14号)〈はじめの一歩〉(第15号)

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2026/05/11

vol.16寄稿者&作品紹介22 渡辺祐真さん

 前号(第15号)には〈無益評論家として生きていく〉という、書評家としてのご自身のスタンスについての一篇をご寄稿くださったスケザネさん、こと渡辺祐真さん。今回のウィッチンケア第16号への寄稿作は〈まさか空海にハマるとは思わなかった〉...じつは渡辺さん、昨日(5月10日)のXで〝『中央公論』6月号の特集「令和に読み直す司馬遼太郎」に寄稿しました!/テーマは、『空海の風景』!〟との告知。さらに、続けて〝ちょうど空海に関する本を出すので、本当に嬉しい仕事でした。(詳細はそろそろ出るはず)〟とも。じつは筆者と今号への原稿打ち合わせ段階で「空海に関する本を出す」とのお話は少しだけ伺っておりました。ある意味、今後さらに情報解禁されるであろう新しいご著書の、映画で言うところのtrailer? いや、きっと膨大な情報量の1冊になりそうなので、小誌寄稿作はそれよりもさらにサワリ的なteaser作品なのだと思います。そうだ、本作の冒頭近くにも〝空海や仏教に関連した本は百冊以上読み、高野山と海岸寺(香川県にある空海ゆかりの寺)に一週間ほど泊まり込んだ。現在それらの成果を生かして、空海に関する著書も準備中だ〟との一文がありましたね!


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空海。弘法も筆の誤りの、弘法大師様。NHKの大河ドラマでもまだブルーオーシャンな奈良〜平安初期時代のお方で、そんないにしえの偉人にスケザネさんはなぜ〝取り憑かれたのか〟? 筆者は、まず空海を〝「日本最古の哲学者」〟と捉え、そのめざましい功績として「即身成仏」という思想=〝この世に存在するあらゆる生命を救うこと〟に言及。そのうえで、空海の波乱万丈な人生について、独自の語り口で紐解いてくださるのですが...本作のおもしろさの核は、歴史の教科書などからでは伝わらない空海の人としての魅力を、スケザネさん語法で、スーパーヒーローのように描いていること、と私(←発行人)は感じました。



《熱意と才能と運に恵まれた空海の生涯》という小見出しを立てた章で、筆者は〝空海はすべて満点だ〟と述べています。満点、とは? 満点だと、なにが起きる? この、読書家ならではの満点評価については、ぜひ小誌を手にとってお確かめください。また作品後半では、空海とセットで学校の教科書に登場した、最澄についても触れられています。この2人の関係性などまったく忘れ果てていた私...あらためて勉強になりました。そしてそう遠くなく上梓されるであろう渡辺さんの新刊、ぜひ読んで、さらなる精進を思うのでありました。


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ウィッチンケア第16号(Witchenkare VOL.16) 発行日:2026年4月1日
出版者(not「社」):yoichijerry(よいちじぇりーは発行人の屋号)
A5 判:272ページ/定価(本体2,000円+税) 
ISBN:978-4-8-6538-180-1 C0095 ¥2000E

 まず、最古の哲学者という点である。あまり知られていないが、空海は膨大な著作を残している。筑摩書房から刊行されている『弘法大師空海全集』という著作集は全八巻で、ページ数は五千を超える(現代語訳、注釈など含む)。しかも仏教から、漢詩の実作、漢文や漢詩の執筆術、日本初の辞書など、ジャンルは広範。中国思想やインド思想の養分もたっぷりと吸収しており、極めて論理的に記述されている。だから語弊を承知ながら、「日本最古の哲学者」だと思う。
 最古とはどういうことか。空海は西暦774年に生まれ、835年に入滅した。つまり奈良時代から平安時代の初頭を生きた。紫式部や清少納言より百年程度、在原業平や小野小町より数十年は年長だ。同時代には初代征夷大将軍の坂上田村麻呂、平安京の遷都を行った桓武天皇らがおり、『万葉集』や『古事記』が成立した頃でもある。彼に先立つのは聖徳太子くらいだろうか。だがその仕事量に鑑みれば、空海が最古といってもいいと思う。

~ウィッチンケア第16号掲載〈まさか空海にハマるとは思わなかった〉より引用~

渡辺祐真さん小誌バックナンバー掲載作品:無益評論家として生きていく〉(第15号)

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Vol.16 Coming! 20260401

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