2026/04/21

vol.16寄稿者&作品紹介01 柳瀬博一さん

 ウィッチンケア第5号からの寄稿者・柳瀬博一さんは今号の巻末にある《参加者のVOICE》欄で「これからは土木っす!」と記していますが、これは勤務先の大学(柳瀬さんは東京科学大学リベラルアーツ研究教育院教授〈メディア論〉なのです)で2024年から推進している、横浜キャンパスに「ホタルが暮らせる谷」を再生・創造するプロジェクトについてのコメント。柳瀬さんのnoteには進行具合が克明に記録されていて、小誌への原稿執筆頃の写真には、土木作業に勤しむ柳瀬教授の勇姿も。今年の夏には、すずかけ池の棚田にホタルが戻ってくることを祈ります。みなさま、ぜひアクセスしてみてください!




そんな柳瀬さんの今号への寄稿作が扱っているテーマは、ほんと、誰にとっても他人事ではない問題です。ダブルケア、とは二つの世代(親と子)をケアする、の意、平たく言い換えれば、子育てと親の介護が同時進行の人。柳瀬さんは、該当するのは「現在40台半ばから60代前半」の過半数、という見立てで持論を展開しています。政府が2016年に見積もったダブルケア当事者人口は25万人。しかし、この調査におけるダブルケアの定義は①要介護の親を持ち ②未就学児の子供を持っている当事者、だと。「ダブルケアの当事者として言わせてもらうが、この政府の試算ではダブルケアの実態から大きく乖離する」との柳瀬さんの意見に、私も肌感で同意です。だって、小誌寄稿者のなかにも、この問題と向き合いつつ生活を成り立たせている方が、少なくもなくいらっしゃるし。


「①まだ社会に出ていない高校もしくは大学までの子供 ②65歳以上の老人、の親であり子である世代」という条件で、柳瀬さんがAIに算出させたダブルケアの当事者および予備軍の数! ぜひ小誌を手にしてお確かめください、びっくりですよ。ただでさえ少子高齢化が進む我が国の、「なぜか政府もメディアもはっきり可視化させない問題。あまりに巨大であるがゆえに。日本の未来の行く末を左右する問題」。さらに寄稿作後半では「ダブルケア・クライシス」とともに「介護帰省クライシス」にも触れられていて...自分の場合(東京と千葉の夫婦/子供なし)、いかに軽負担なのかと思い知らされました。それでも、実父母義父母をおくるまでは諸々たいへんだったのですけれども。


ウィッチンケア第16号(Witchenkare VOL.16)
発行日:2026年4月1日
出版者(not「社」):yoichijerry(よいちじぇりーは発行人の屋号)
A5 判:272ページ/定価(本体2,000円+税)
ISBN:978-4-8-6538-180-1 C0095 ¥2000E



 というのも、「子育て」と「親の介護」はもっともっと幅の広い「仕事」だからである。
 政府の算出したダブルケアの当事者は、要介護の親と、乳幼児(赤ちゃんから未就学児)を両方持った世代、という見立てである。この条件でダブルケアの当事者をカウントすると確かに25万人程度かもしれない。
 しかし、この定義は、子育てというケアと、親の介護というケアを、非常に小さく見積もっている。実際に子育てをしている人は全員頷くはずだが、子育ては生まれた瞬間から、子供が学校を卒業して就業するまで続く。
 ケアというのは、赤ちゃんを抱っこするような行為だけではない。学校の選定、PTA活動、サッカークラブ、塾の送り迎え、受験対策、そして何より学校費用の負担。いじめ問題もあるかもしれない、不登校だってあるかもしれない。
 物理的、金銭的、時間的、心理的コストがかかり続ける限り、子育ては終わらない。万が一子供が引きこもりになった場合は、学校を出てからも「ケア」が継続する。一般的に考えても、子供が高校もしくは大学を卒業する18歳から22歳まで、金銭的、肉体的、心理的ケアは、ずーっと続く。
 一方、親のケア。かたときも目を離せない「要介護」の段階で初めて生じるわけではない。むしろ一見軽くみえるけど、実は「命に関わる問題」が見逃されている。それは、子供が親と離れて暮らす場合の、年老いた親の買い物難民、とりわけ「食品が買えない問題」である。
 農水省がシビアな数字を出している。
 全国の食品アクセスが困難な老人がどれくらいいるのか。2020年に算出したのだ。結果は、──2020年における食料品アクセス困難人口は、全国で904万人と推計され、全65歳以上人口の25.6%であった。このうち75歳以上では566万人、全75歳以上人口の31.0%であり、食料品アクセス困難人口のうち75歳以上の占める割合は63%であった。

~ウィッチンケア第16号掲載〈ダブルケア・クライシス問題〉より引用~


柳瀬博一さん小誌バックナンバー掲載作品:〈16号線は日本人である。序論〉(第5号)/〈ぼくの「がっこう」小網代の谷〉(第6号)/〈国道16号線は漫画である。『SEX』と『ヨコハマ買い出し紀行』と米軍と縄文と〉(第7号)/〈国道16号線をつくったのは、太田道灌である。〉(第8号)/〈南伸坊さんと、竹村健一さんと、マクルーハンと。〉(第9号)/〈海の見える岬に、深山のクワガタがいるわけ〉(第10号)/〈富士山と古墳と国道16号線〉(第11号&《note版ウィッチンケア文庫》)/〈2つの本屋さんがある2つの街の小さなお話〉(第12号)/〈カワセミ都市トーキョー 序論〉(第13号)/〈湧水と緑地と生物多様性 ~「カワセミ都市トーキョー」の基盤~〉(第14号)/〈日本は東京以外でできている〉(第15号)

※ウィッチンケア第16号は下記のリアル&ネット書店でお求めください!

 
 
【最新の媒体概要が下記で確認できます】
 




2026/04/17

正式発行から2週間ちょいほど経ちまして(ウィッチンケア第16号)

 今号が拙宅と取次会社(JRC)に納品されたのは3月26日。毎年「桜が先か、完成品が先か」なのですが、2026年は桜の完勝でしたね。おかげさまで初直販だった28日の玉川学園「さくらめぐり・はなびら市」も好天に恵まれ、幸先の良いスタートとなりました。





さて、正式発行から2週間と少しが過ぎました。今年もまた、某大手ネット書店での販売が躓き気味にスタート。昨年のようなことではありませんでしたが、この2週間で《在庫なし》状態が数日あり...あっ、現在は通常の「プライム会員なら翌日配送」になっていますので、みなさま安心してお買い求めください!


amazon.co.jp/dp/4865381805


3月30日、本サイトなどにアップした「【暫定】ウィッチンケア第16号が手に取れる書店」は、週明けにでも【暫定】をはずそうと思っています。新たなお取引先が増えたり、諸般の事情でお話がまとまらなかったり...以前、本の流通に詳しい方に言われたのが、「年一回の定期刊行物って難しいよ。せいぜい季刊ぐらいのスパンで、書店とコミュニケーションをとってないと」。たしかに、と実感しますが、しかし小誌は年一体制。それでもお付き合いくださっている書店さまには、感謝しかありません!


https://note.com/yoichijerry/n/n7e7d32b036a0


【お知らせ】

小誌を第2号からお取り扱いくださっている双子のライオン堂さんにて、来週の木曜日に小さなイベントを開催予定です。


⽂芸創作誌「ウィッチンケア」第 16 号 発⾏記念イベント
<謎に⻑続きしてるウィッチンケアはなぜこんなに⾃由なのか?>


謎って...そんな、ミステリアスな秘訣みたいなものがあるわけではないんですが、「書き手にとっての自由」をテーマに、第2号からの寄稿者・木村重樹さん、第3号からの寄稿者・仲俣暁生さんとともに語り合ってみようと思います。ご都合のつく方、ぜひご参加ください(配信もあります)。


https://peatix.com/event/4953050


そして小誌は表紙に内容を示唆する文言などがないため、ネットに掲載した【もくじ】以外は「読んでみてのお楽しみ」なのでありますが、もう少ししたら恒例の《寄稿者&作品紹介》を公式ブログ(とnote)で始めます。今号は寄稿者が46名。5月中にはコンプリート、の予定です。


そしてそして、来月5月4日に開催される「第42回文学フリマ東京」に、今年も「ウィッチンケア書店」(L-75)として出店しますので、ぜひご来店ください。


https://bunfree.net/event/tokyo42/


この機会に、リアルでご挨拶できていない方とも、ぜひお目にかかりたいです。みなさま、2026年4月1日に正式発行となりました文芸創作誌「ウィッチンケア」第16号を、引き続きどうぞよろしくお願い致します!


【書店さまへのお知らせ】


「ウィッチンケア」は㈱JRCを介してすべての取次への出荷が可能です。

https://jrc-book.com/list/yoichijerry.html


また版元との直取引用に、今号から《Google注文フォーム》も開設致しました。

forms.gle/N3zzLopPgBCJQ9GP6


それに伴い、BOOKCELLARでのご注文は5月21日をもって停止となります。

https://www.bookcellar.jp/publishertop/list/740


以降は㈱JRCまたは《Google注文フォーム》をご利用いただけますと幸いです。どうぞよろしくお願い申し上げます!





ウィッチンケア第16号(Witchenkare VOL.16) 発行日:2026年4月1日
出版者(not「社」):yoichijerry(よいちじぇりーは発行人の屋号)
A5 判:272ページ/定価(本体2,000円+税) ISBN::978-4865381801 C0095 ¥2000E


【寄稿者/掲載作品】〜もくじ〜より
  008  柳瀬博一/ダブルケア・クライシス問題
  016  山本アマネ/時間と自由
  020  佐々木 敦/A君のこと
  026  絶対に終電を逃さない女/今「売れている」私の現状
  030  稲葉将樹/斜視と平面世界
  036  姫乃たま/負けないで 〜閉鎖病棟入院日記〜
  046  武田 徹/蛙たちの戦争 〜草野心平と詩的無責任をめぐって〜
  050  美馬亜貴子/2047年のフジロック
  058  宮崎智之/文学は社会の役に立つのか
  062  蜂本みさ/パッチワークの傭兵
  068  九龍ジョー/ホットケーキ
  072  モノ・ホーミー/ペトラルカと二人の弟
  076  武田砂鉄/クリーク・ホールディングス 漆原良彦CEOインタビュー
  082  うのつのぶこ/見てる人は見てる
  090  鶴見 済/アメリカのフィメールラップにはまる
  094  早乙女ぐりこ/祖父の陣
  100  矢野利裕/ブルーな音楽の地平──ダニエル・シーザー、カサンドラ・ウィルソン、ジョニ・ミッチェル、ときどきネオソウル
  106  綿野恵太/会津、天空橋、丸の内
  110  星野文月/裂け目
  116  竹永知弘/幽霊と踊る男
  120  オルタナ旧市街/ファッションとくらしのフロア
  126  渡辺祐真/まさか空海にハマるとは思わなかった
  130  野村佑香/からだは覚えている
  134  多田洋一/楽しい未来への思い出
  148  トミヤマユキコ/めまい──ふつうの中に苦しみがある
  152  我妻俊樹/インゲッピシ・ドトオフロップシェ
  158  小川たまか/性格が悪い
  164  長谷川町蔵/四谷の地下コインロッカーにて
  170  藤森陽子/動かない文字たちへ
  174  中野 純/植物虐待より光れ自分!
  180  木俣 冬/猫が消えた。
  186  荻原魚雷/ブログの話
  190  3月クララ/はりこ
  194  仲俣暁生/スローラーナー
  200  かとうちあき/中年になってわかった
  204  コメカ/ゲームセンター
  210  加藤一陽/俺の生活の柄
  214  吉田亮人/「癒えない光」を訪ねて
  218  ふくだりょうこ/朝の温度
  224  武藤 充/スペースSachiのその後と「ハラヨンの再開発」
  228  久保憲司/レント・パーティー
  234  谷亜ヒロコ/大人の友達の作り方
  238  木村重樹/あくまでもデビル──〝悪魔〞表象/いま、むかし
  242  すずめ 園/旅するわたしの広場恐怖症
  250  久禮亮太/ブックカルテはじめました
  256  東間 嶺/生成された憎悪と悪意と敵意について、自分自身とサイゼリヤから配信するためのダイアローグ・メモ
  264  参加者のVOICE
  270  バックナンバー紹介


編集/発行:多田洋一
写真:草野庸子
Art Direction/Design:太田明日香
取次:株式会社JRC(人文・社会科学書流通センター)
印刷/製本:株式会社シナノパブリッシングプレス


《2010年4月創刊の文芸創作誌「ウィッチンケア(Witchenkare)は今号で第16号となります。発行人・多田洋一が「ぜひこの人に」と寄稿依頼した、46名の書き下ろし作品が掲載されています。書き手にとって、小誌はつねに新しい創作のきっかけとなる「試し」の場。多彩な分野で活躍する人の「いま書いてみたいこと」を1冊の本に纏めました。》

★下記を読むと第16号の全体がまるまる、ざっくり見渡せます!


2026/04/02

ウィッチンケア第16号(Witchenkare VOL.16)、2026年4月1日正式発行!

 えらく先走りの桜満開、かと思ったら、風雨の激しい東京。週末にはもう葉桜でしょうか?

ウィッチンケア第16号(Witchenkare VOL.16)は本日(2026年4月1日)正式発行です! みなさまどうぞよろしくお願い致します。


ウィッチンケア第16号(Witchenkare VOL.16) 発行日:2026年4月1日
出版者(not「社」):yoichijerry(よいちじぇりーは発行人の屋号)
A5 判:272ページ/定価(本体2,000円+税) ISBN::978-4865381801 C0095 ¥2000E


【寄稿者/掲載作品】〜もくじ〜より
  008  柳瀬博一/ダブルケア・クライシス問題
  016  山本アマネ/時間と自由
  020  佐々木 敦/A君のこと
  026  絶対に終電を逃さない女/今「売れている」私の現状
  030  稲葉将樹/斜視と平面世界
  036  姫乃たま/負けないで 〜閉鎖病棟入院日記〜
  046  武田 徹/蛙たちの戦争 〜草野心平と詩的無責任をめぐって〜
  050  美馬亜貴子/2047年のフジロック
  058  宮崎智之/文学は社会の役に立つのか
  062  蜂本みさ/パッチワークの傭兵
  068  九龍ジョー/ホットケーキ
  072  モノ・ホーミー/ペトラルカと二人の弟
  076  武田砂鉄/クリーク・ホールディングス 漆原良彦CEOインタビュー
  082  うのつのぶこ/見てる人は見てる
  090  鶴見 済/アメリカのフィメールラップにはまる
  094  早乙女ぐりこ/祖父の陣
  100  矢野利裕/ブルーな音楽の地平──ダニエル・シーザー、カサンドラ・ウィルソン、ジョニ・ミッチェル、ときどきネオソウル
  106  綿野恵太/会津、天空橋、丸の内
  110  星野文月/裂け目
  116  竹永知弘/幽霊と踊る男
  120  オルタナ旧市街/ファッションとくらしのフロア
  126  渡辺祐真/まさか空海にハマるとは思わなかった
  130  野村佑香/からだは覚えている
  134  多田洋一/楽しい未来への思い出
  148  トミヤマユキコ/めまい──ふつうの中に苦しみがある
  152  我妻俊樹/インゲッピシ・ドトオフロップシェ
  158  小川たまか/性格が悪い
  164  長谷川町蔵/四谷の地下コインロッカーにて
  170  藤森陽子/動かない文字たちへ
  174  中野 純/植物虐待より光れ自分!
  180  木俣 冬/猫が消えた。
  186  荻原魚雷/ブログの話
  190  3月クララ/はりこ
  194  仲俣暁生/スローラーナー
  200  かとうちあき/中年になってわかった
  204  コメカ/ゲームセンター
  210  加藤一陽/俺の生活の柄
  214  吉田亮人/「癒えない光」を訪ねて
  218  ふくだりょうこ/朝の温度
  224  武藤 充/スペースSachiのその後と「ハラヨンの再開発」
  228  久保憲司/レント・パーティー
  234  谷亜ヒロコ/大人の友達の作り方
  238  木村重樹/あくまでもデビル──〝悪魔〞表象/いま、むかし
  242  すずめ 園/旅するわたしの広場恐怖症
  250  久禮亮太/ブックカルテはじめました
  256  東間 嶺/生成された憎悪と悪意と敵意について、自分自身とサイゼリヤから配信するためのダイアローグ・メモ
  264  参加者のVOICE
  270  バックナンバー紹介


編集/発行:多田洋一
写真:草野庸子
Art Direction/Design:太田明日香
取次:株式会社JRC(人文・社会科学書流通センター)
印刷/製本:株式会社シナノパブリッシングプレス


《2010年4月創刊の文芸創作誌「ウィッチンケア(Witchenkare)は今号で第16号となります。発行人・多田洋一が「ぜひこの人に」と寄稿依頼した、46名の書き下ろし作品が掲載されています。書き手にとって、小誌はつねに新しい創作のきっかけとなる「試し」の場。多彩な分野で活躍する人の「いま書いてみたいこと」を1冊の本に纏めました。》

★取扱書店一覧(逐次更新中)

★下記を読むと第16号の全体がまるまる、ざっくり見渡せます!

★書店関係のみなさまへ

WitchenkareはBN含め㈱JRCを介してすべての取次に出荷が可能です。


ウィッチンケア第16号は下記のGoogleフォームからも直接ご注文可能です。


[公式SNS]

 


くれたこ(ノベライズ・ウィッチンケア第16号)

 僕が小学生だった頃、「戦争を知らない子供たち」という流行歌があった。
同じ頃、ジョン・レノンは「イマジン」を歌っていたはず。
あれから半世紀...最近耳に残った歌といえば、朝ドラ「ばけばけ」のオープニングだよなぁ。
日に日に世界が悪くなる〜♪
なんて、ぼんやり世を憂いていたら、きた! 今年も彼女が。


そもそも、僕が最初に彼女の「きちゃった」を被ったのは2015年でして、でもその後、世の中の風潮が変わってコンプライアンスとかポリコレとか囂しくなって...でもでも、数年ほど前からはその反動なのか、そんなもん関係ねーよ、みたいな無法者が世界を跋扈するようになって、困ったもんだ。


「お待ちどおさま。今年もできたよ、ウィッチンケア第16号。持ってきたんだから、隅から隅までちゃんと読んでね」

彼女が差し出したのは、黄色いスプーンが表紙になった本。これまで渡された中で、一番チャレンジングなヴィジュアルかもしれない。

「ありがとう。第16号、か。ほんと、短くもなく続いてるね」
「もう、たいへんなんですよ、紙の本の世界は。ちょっと、あなたもあいつにひとこと言ってやってよ!」
「あいつって、誰!?」
「ああ、あの、TACOとか呼ばれてる」
「決まってるじゃない。あの常軌を逸した米国大統領!」

それからしばらく、僕たちは世界情勢について語り合ってしまったのだ。

「...あのさ、今年も訊くけど、もし僕がこの本を読まなかったら?」
「殺します!」

そう言い切って彼女は去ろうとする。なんだかいつもより急いでいるみたいなので「次の予定でもあるの?」と尋ねると、
「ホワイトハウスに行って『オマエいい加減にしろ』と言ってくる」と。
唖然として彼女を見送った僕は、殺されたくないのでウィッチンケア第16号をじっくり読み始める。


ウィッチンケア第16号(Witchenkare VOL.16) 発行日:2026年4月1日
 出版者(not「社」):yoichijerry(よいちじぇりーは発行人の屋号)
A5 判:272ページ/定価(本体2,000円+税) ISBN::978-4865381801 C0095 ¥2000E

           
あいかわらず表紙を見ただけでは、どんな内容なのか皆目わからない。こんな本が書店で、惹句を掲げた他の本とともに並べられていたら...そこに発行人のなんらかの意志を感じ取れるものの、まあそれはそれとして、ロゴと号数の配置が絶妙なのは、エディトリアル・デザインを手がける太田明日香の美意識。ちなみに第10号まで表1に配されていた《すすめ、インディーズ文芸創作誌!》というキャッチみたいなのは、今号にも見当たらず。風の噂では発行人が「『インディーズ』とか『オルタナティヴ』とかいう意識がいつのまにかなくなっちゃったんで」みたいなことを宣っていた、とか。「文に芸のある人が創作したものをまとめた」から文芸創作誌、なのらしい。


ページを繰ると、ロゴだけのシンプルな扉に続いてモノクロの、風になびく木々の写真があり、草野庸子とのクレジットが目に留まる。これもまた風の噂によると発行人が長く草野のファンで、昨年の夏にはすでに、ある人を介してコンタクトを取り始めていた、とか。なんと、デザイナーの太田には一昨年から「第16号は草野さんに頼んでみたい」と発行人が言っていた、との情報も寄せられている。テキスト中心の文芸創作誌なのに、なぜ発行人は「本の見た目」に執着するのか? 謎は深まるばかりだが、今号のヴィジュアルイメージを支配している写真家・草野庸子については2026年3月21日にアップされた《写真家・草野庸子さんについて》に目を通してもらうのが一番だと思う。


片起こしの《もくじ》が始まる。次ページ見開きも《もくじ》が続いていて、寄稿者数は46名。作品名より人の名前が上なのは、創刊以来変わっていなくて...つまりこれは「誰が何について書いているか」(「誰が書いているか」だけ、でも「何が書かれているのか」だけ、でもなくて)、ということを強調した形式なのだろう。次の見開きにはハンドルを握った手の写真がどーんと。さて、どこに誘われるのか...いよいよ、寄稿作品が始まる。


今号のトップは第5号からの寄稿者・柳瀬博一。両親と子供の「ダブルケア」が必要な世代が体感する諸問題を鋭く解き明かした。次は山本アマネの、時間と自由にまつわるエッセイ。突然の解散総選挙で始まった2026年初頭の危うい空気感を刻印した一篇となった。佐々木敦は、小学生の時の同級生・A君についての忘れ得ぬ思いを私的エッセイに。続いて、絶対に終電を逃さない女は、自身2冊目の著書「虚弱に生きる」が売れて増刷を繰り返す日々についての雑感を率直に記した。稲葉将樹は、6月に控える斜視の手術を前に、「時計じかけのオレンジ」のあのシーンなども想起しながら過去の自分は平面世界に生きていたかも、と。久しぶりに小誌へ帰還した姫乃たまは、双極性障害をこじらせて入院した2020年夏の出来事を赤裸々に(負けないでよかった)。武田徹は、世間ではむしろ平和を象徴する詩人として知られる草野心平の、戦時下の実相について検証した。美馬亜貴子は、第1回から(関係者としても)関わってきたフジロックを題材に、近未来小説スタイルでロックの真髄に迫る。宮崎智之の今作での問題意識は明快だ。文学について、「感受」をキーワードとし、中原中也を例に引いて持論を開陳する。蜂本みさの今回の小説は、とにかく舞台設定からして一筋縄ではいかない。スキマバイトは戦いなのか? 九龍ジョーは、今号には小説での参加。「ホットケーキ」というタイトルからは想像しがたい人間関係の綾を描いた。今号が初寄稿となるモノ・ホーミーは、自身が最近のテーマとして追い続けてきたイタリアの詩人・ペトラルカについてのエッセイを。武田砂鉄は今号でも漆原CEOを架空インタビュー。言い合いバトルではなく、微妙に噛み合わない会話がそこはかとなく笑いを醸す。今年2月に町田市議会議員に当選したうのつのぶこは、初挑戦だった選挙のドキュメントを日付とともに記した。鶴見済は、近年ハマっていたアメリカのフィメールラップについて、独自の観点からその魅力について語る。早乙女ぐりこは上梓したばかりの小説「珍獣に合鍵」にまつわる、誕生秘話とも呼べそうなアナザーストーリーをエッセイで。矢野利裕は自身が「ブルー」と感じる音楽について、ジャンルの壁を取り払った考察を重ねてみた。綿野恵太は2025年の2月のある行動を日記形式で。これは、いずれ著書として世に問うための予告編感が濃厚に漂う一篇。星野文月は、夢とも現ともわからない「わたし」の意識の流れを精緻に描いていた小説を。今号が初寄稿となる竹永知弘は、たまらなく好きなあるマンガ作品についての愛を惜しげもなく披露しつつ、文学研究者として自身の矜持も。オルタナ旧市街の小説は、日常と非日常との境目が崩壊したような、身の回り感と途方もなさを兼ね備えたSF的作品。渡辺祐真のエッセイは、自分がなぜ空海にハマってしまったのかを、彼の歴史的な数々の偉業に照らして語った。野村佑香のエッセイからは、家族愛がひしひしと感じられる。作中の「わかめ」や「たらこ」は、いかなる事象の比喩なのか? 多田洋一の小説の舞台は新宿。たとえば、とくに説明もなく放り込まれている「スコッチ」...あれは1983年の出来事。トミヤマユキコは、生活環境の変化なども遠因で患ってしまった「めまい」について、率直な思いをしたためた。我妻俊樹の小説は、謎めいたインゲッピシ・ドトオフロップシェについて。これは生命体なのか、それとも? 小川たまかのフィクションは、タイトル通りかなり「性格が悪い」感が漂っていて、ある意味で人間研究における格好のテキストなの、かも。長谷川町蔵は、叔父の死に関わってしまった「ぼく」が、淡々とやるべきことをこなしていく様子を描いた、私小説的な一篇を。藤森陽子は「カンパコ」という、ライター仕事での、ある種の職人的技法について考察を重ねた。中野純は、近年巷で増えている植物のライトアップについて、多角的に疑問を呈する。木俣冬は近所の町猫が消えたことを語りつつ、専門分野である近年の朝ドラの傾向についても雑感を。荻原魚雷はSNSには一切手を出さず、でも長く書き続けているブログについて、思いを語った。3月クララの小説は、ちょっと不思議な状況で子育てをする夫婦の日常を、夫の視点から描いた。仲俣暁生は、自身の出版レーベル「破船房」でウィッチンケア過去掲載作を1冊にまとめた「自由について」のスピンオフ的なエッセイを。かとうちあきの小説は、自由に生きてきた「わたし」が、ふとした瞬間にもう若くはない、と感じた一瞬を書き留めている。コメカは、近未来のゲームセンターでの出来事を小説に。「接続されていない快感」という一節がリアルに響く。加藤一陽のエッセイは、日常の何気ない人との関わりを、自意識MAXで細やかに分析した。吉田亮人は、自身が設立した写真集出版社「Three Books」から出すことになったキム・ウンジュの写真集について、その背景を語る。ふくだりょうこの小説は、ある朝起きたら夫が見知らぬ女を家に連れてきていた、という修羅場展開...。武藤充は、前号でのアーティスト・足立幸子との逸話の後日談を、さらに詳しく書き記した。久保憲司の小説はレント・パーティという、日本ではまだ馴染みの薄い家賃収集方法にまつわる一篇。谷亜ヒロコは、大人になってからの友達の作り方について、男女の違いも含めて考察した。木村重樹は映画、とくにホラー系の作品について、かなり専門的に踏み込む。なお、冒頭で語られている「チェンソーマン」については本稿執筆後に終了を知った、とのこと。すずめ園は、自身が抱える広場恐怖症の生きづらさと、それでも旅をする楽しさを、率直な語り口でエッセイに。久禮亮太はフラヌール書店の店主として、ブックカルテ(選書サービス)を通じて顧客と交流する醍醐味を語った。東間嶺は前号に引き続き戯曲スタイル。自身を二分して対話させるという、実験的な作風の一篇だ。


46篇の書き下ろし後に、今号に関わった人のVOICEを掲載。その後にバックナンバー(創刊号~第15号)を紹介。QRコードが付いているのでWitchenkare STOREでその場で購入できるとは、世の中便利になったものだ。……こんなに読み応えのある本が、諸物価高騰の折にお値段据え置き(本体:2,000円+税)でして、お願いだから米国大統領、余計なことをしてこれ以上の迷惑をかけないでくれ!


それで、今回もまた繰り返すしかないのだが「ウィッチンケア」とは、なんともややこしい名前の本だ。とくに「ィ」と「ッ」が小文字なのは、書き間違いやすく、今号でも<ウイッチンケア>で検索すると、小誌を紹介してくださっているポストがいくつかあった。他には<ウッチンケア><ウッチン・ケア>...まあ、漫才のサンドウィッチマンも<サンドイッチマン>ってよく書かれていそうだし、そもそも発刊時に「いままでなかった言葉の誌名にしよう」と思い立った発行人のせいなのだから...初志貫徹しかないだろう。「名前変えたら?」というアドバイスは、ありがたく「聞くだけ」にしておけばよい。
そしてそもそも「ウィッチンケア」とは「Kitchenware」の「k」と「W」を入れ替えたものなのだが、そのキッチンウェアはプリファブ・スプラウトが初めてアルバムを出した「Kitchenware Record」に由来する、と。やはりこのことは重ねて述べておきたい、とだんだん話が袋小路に陥ってきた(というか、いつも同じ)なので、このへんにて。








2026/03/21

写真家・草野庸子さんについて

4月1日に正式発行となる文芸創作誌「ウィッチンケア」第16号に掲載されている写真はすべて、草野庸子さんの作品です。




小誌は第9号以降、テキスト以外は写真家の作品発表スペース(紙のギャラリー)となるようなレイアウトに変更。vol.9の菅野恒平さん、vol.10の長田果純さん、vol.11の岩田量自さん、VOL.12の白山静さん、VOL.13の千賀健史さん、VOL.14の張子璇(Zhang Zixuan)さん、VOL.15の圓井誓太さん、と号ごとに男性/女性と交互で続いてきて、発行人が「では、次号の女性写真家は」と動き始めたのが...じつはかなり早くて、一昨年のうちから、ぜひ草野庸子さんに依頼してみたい、と思っていたのでした。

草野さんの作品との出会いは、映画猿楽町で会いましょう』(2021年公開)のスチール(写真)でした。ややくすんだ色調の、主役2人と町の風景が、映画作品の世界観とマッチしていてぐっときてしまい、誰が撮影したのだろうと調べて、その後、草野さんのインスタグラムを拝見したり、写真集『Across the Sea』(roshin books)を入手したり...端的に言って、ファンだったのです。






【草野庸子さんのプロフィール】
1993年、福島県出身。桑沢デザイン研究所卒。2014年にキヤノン写真新世紀優秀賞(佐内正史選)選出。2018年、LUMIX MEETS BEYOND 2020 BY JAPANESE PHOTOGRAPHERS展に選出されAmsterdam Paris 東京と巡回展を行う。写真集に2017年『EVERYTHING IS TEMPORARY(すべてが一時的なものです)』(pull the wool)、2018年『Across the Sea』(roshin books)を刊行。




そんな草野さんの写真が1冊丸ごと詰まった第16号がつくれたこと、発行人として、とても嬉しいです。同時に、さらに多くの方に草野さんの作品を見てもらいたいし、新たに知るきっかけになれば、とも強く思っています。下記のサイトにも、ぜひアクセスしてみてください!

そこにある個性から滲む美しさを撮りたい




ここでは第16号に誌面ではモノクロだった写真を、カラーで掲載します。




ウィッチンケア第16号は現在印刷工程。次の週末には、そろそろ書店に並び始めるはずです。前号を取り扱ってくださった書店の多くからも、再びご注文をいただいています。またアマゾンでも予約受付中。みなさま、どうぞよろしくお願い致します。

★Amazon予約ページ





Vol.16 Coming! 20260401

自分の写真
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