小誌前号には「かまいたち」という、ちょっとシュールで(ちょっと痛そうでもある)掌篇小説をご寄稿くださった武塙麻衣子さん。その後の武塙さんはとてもお忙しそうで、昨年6月からは「群像」誌上で「西高東低マンション」の連載がスタート。8月にはZineとして発行されていた「酒場の君」をアップデートした、書籍版「酒場の君」を書肆侃侃房より刊行。そして10月からはWebメディア「小説丸」で「一角通り商店街のこと」の連載も。おそらく、現在進行形の連載作品は、いずれ書籍としてまとめられるのだと思いますが、そんな武塙さんからWitchenkare VOL.15に届いた寄稿作のタイトルは「ひょうすべ」。おおっ、「かまいたち」〜「ひょうすべ」ときたら、次は「あまびえ」か「ぬらりひょん」とかなのかもしれず...なんだか小誌からも〈幻想もののけ短編集〉みたいなご著書が誕生しそうな気配がそこはかとなく漂い始めまして、これは発行人として、とても嬉しいことであります。
作中では主人公「わたし」の日常が丁寧に描かれていまして、日頃武塙さんのSNSをフォローしている方だと、思わず「わかる!」という感じになりそうな箇所も、そこここに。この何気なく平穏に展開している物語が、小さな謎を引き摺ったまま長崎へのフライトと繋がり、そして...なにが起こるかは、ぜひ小誌を手に取ってお確かめください。
本作にもちょっと行ってみたくなるような酒場が出てきまして、そこでの「わたし」と夫の会話がまた、この奇譚をさらなる奇譚へと導いていくのですが、でも、その不可解さが、むしろ心地好い読後感の要因だったりして。なんというか、人は不思議なできごとに遭遇した場合、不思議は不思議のまま受け入れて放っておく、くらいの胆力を備えていた方が、一度きりの人生を楽しめるのかもしれないなぁ、なんて思わせる一篇なのでありました。
小さなトートバッグに、財布とハンカチとスマホ、文庫本を一冊(イサク・ディネセン『アフリカの日々』)入れた。この本を読めば、わたしはいつだって落ち着いて淡々と行動することができるお守りのような一冊。それから、柔らかな布でくるんだ飴。ずいぶん迷ったけれど、バター飴と柚子飴、生姜の飴を選んだ。ひょうすべのことを考えながら。ルームキーと一緒にもらった地図を見てみると、目的地までは、歩いて行けるようだった。三年前にきた時は、どうだっただろう。わたしは歩いてあの狛犬のところまで行ったのだろうか。そしてあの時、ひょうすべは一体どこから現れたのだろう。
~ウィッチンケア第15号掲載〈ひょうすべ〉より引用~
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