「恋愛がもっとも盛り上がっている、あとから振り返るとほんの僅かな期間しか存在しない、そんな時期のひととき。」
「野宿野郎」編集長(仮)なのでアウトドアなイメージの強いかとうちあきさんですがTwitter、小誌への寄稿作品ではなぜかおうちネタ度が、高し。そして第3号掲載「台所まわりのこと」では、人より不気味な生命体の気配がむんむんでしたが、今回はのっけから人間登場! でもこの人も、なんだか蝉やウスバカゲロウのような、儚い生命体的な描写をされていまして...それにしても、冒頭(↑)の文章、どれだけ短い時間を示しているでしょうか? 「ほんの僅かな期間しか存在しない」時期のうちの、さらに「ひととき」ですから! しかも語られたエピソードは、その「ひととき」における「ひとこと」のすれ違い...切ないなぁ。
タイトルにもなったコンロという器具は前回寄稿作でも言及されていまして、「わたし」にとってはやっかいなものでありつつ、でもある種の聖域というか縄張りというか。...どうなんだろう、本棚や引き出しの中がカオス状態だからって、親しくなりかけてる人がいきなりアイウエオ順とかジャンル別に本や名刺を片付け始めたら、少なくとも20代の私は、絶対に嫌だったろうと思います(その後はいろいろ心境の変遷がありまして...まっ、いまでも自分の身につけるものはほぼ自分で買うような性格ですが)、って私の話はどうでもよくて大事なのはかとうさんの「わたし」でして、「コンロをすすんで掃除してくれるようなひとは、めったにいないらしい」...いやいや、きっとこれは気の持ちようだと思ったりもしまして、あっ、でもこの続きは、今度ぜひお会いしたときにでも!
わたしがどうも喜んでいる風でないのを察して、その男は謝った。
それから少し考えたのち、
「ごめん、勝手に掃除されたらいやだね」
と、さらに謝るのであった。ああ、とてもいいひとだ。
「びっくりしただけ。うれしいよ」
慌てて云ったのだけれど、しまったな。
相手が素直に反省し、すっかり意気消沈しているようにかんじられたからだ。
わたしは後悔した。
「やっちまった! これで金輪際、このひとは自らすすんで、わたしのコンロを磨いてくれることはないだろう」
ただひたすら、己の利益損失に気がついて後悔した。
よかれとおもってやってくれたそのひとの気持ちに対してすまなかった、とか、そういうことじゃないの。
「ああ、勿体ないことした!」
そういうことなの。
ウィッチンケア第4号「コンロ」(P070〜P075)より引用
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Vol.14 Coming! 20240401
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