小誌第13号からの寄稿者・加藤一陽さんはカルチャー系コンテンツカンパニー「株式会社ソウ・スウィート・パブリッシング」の経営者です。昨年は『読書と暴動 プッシー・ライオットのアクティビズム入門』(ナージャ・トロコンニコワ/翻訳・野中モモ)を紹介しましたが、その後も好書を世の中に送り出し続けておられまして、昨年お目にかかったさいには、次は西寺郷太さんの『J-POP丸かじり』、みたいなことを話していた記憶が...こちらも無事刊行され、さらに先月には『読むラジオ屋さんごっこ』も、と怒濤のリリース攻勢。そんなお忙しいなか、小誌へもきっちりお原稿を届けてくださり、感謝致します。さて、そんな加藤さんの寄稿作「俺のヰタ・セクスアリス」なのですが、令和の金井湛(森鷗外)...もとい、加藤さんの性知識にまつわる来し方が自伝的に、かなり直截に語られています。なぜに!? それは本作の中盤以降を読めば明白なのですが、私(←発行人)はこの前半部分を「筆者は“土俵の外から物言いをする”みたいな態度を避けたのだろう」と読み取りました。
芸能界のスキャンダル...一昔前までは、電車に乗ると中吊り広告が教えてくれる、といった感じでしたが、いまや各人のスマホに直撃弾が。作中には〈芸能事務所が潰れたり、時代の顔役のタレントが辞めたり、外国のメディアに詰められたり、バーベキューをした理由を説明させられたり〉という一節があり、まさにそういうことがメディア(ネット含む)で取り沙汰された2024~2025年の初春だったな、という記録にもなっていますが、でも同じような案件、その後もさらに続いていて、最近なら、なぜオレは新宿に向かう小田急線内で、アイフォーンに写し出された「手繋ぎ写真」を見せられ...いや見ているんだ、みたいな。
それにしても、筆者のテキストは含有成分(!?)豊かでして、それに気付けるとおもしろさが倍増するのです。たとえば〈性が絡むトラブルのニュースや万引きGメンの特集番組などを見ていると、加害者が自身の精神状況について「魔が差した」と解説することがある。ミシシッピの四辻で悪魔に魂を売ったブルースの神様 みたいな言い方に聞こえなくもないが〉...ここでの「神様」について多少でも知識があると、思わずニヤリ、みたいな。私としては、本作の中で、鷗外に匹敵する文豪を探してみるとか、ちょっとオススメしたく存じます。