2025/05/04

VOL.15寄稿者&作品紹介08 山本アマネさん

今回が初寄稿となる山本アマネさんのことを私(←発行人)が知ったのは、昨年10月初旬の、小雨まじりの木曜日。その日私は都内でいくつか用事があり、早い夕方、四谷で開催されていた「出張1003@ニューアーバン」──小誌をお取り扱いいただいている兵庫県神戸市の書店・1003booksのイベント──にも顔を出しました。店主の奥村千織さんにご挨拶をして、店内に並んだ本を眺めていたら、綺麗なイラストを配したピンク色の本が...なんか、“呼ばれた”ような気がして購入したのが、山本さんのつくった『chapbook ちっぽけな話』でした。帰宅して拝読。日記スタイルの身辺雑記、と言って良いかと思いますが、とにかく装丁と装画が美しく、静謐なテキストには映画と読書と音楽への思いが滲んでいて、それでもところどころ、仕事観や世情に関する私見なども織り込まれていまして...Instagramを拝見すると《illustration / collage / graphic design / writing》と自己紹介なさっており、全部一人でこなしてしまう方なのか、と納得。その後、寄稿依頼のメールをしたためまして、良いお返事をいただけたのでした。




寄稿作「いつも読書の途中」ではおもに昨年のできごとがふたつ、その間の山本さんの読書体験と重ねながら語られています。〈編集者のKさん〉のお別れ会にまつわる逸話では、Kさんのメモにあった詩人・エドモン・ジャベスの一文が引用され、言葉(や物語、芸術など)と向き合うことについてのスタンスが考察され、作品後半では帰省して母親と過ごした日々について...こちらの逸話の中にも、アン・モロウ・リンドバーグの『海からの贈物』が出てきます。


本作を読み終えると、あらためて作品冒頭に記された「現実の酷いニュースばかりを追っていたら、なにを読んでも頭に入ってこず、心も動かなくなり」という状態の、筆者にとっての辛さが伝わってきます。みなさま、ぜひ小誌を手に取って、山本さんの「昨年のできごと」を追体験してみてください。 


ウィッチンケア第15号(Witchenkare VOL.15)
発行日:2025年4月1日
出版者(not「社」):yoichijerry(よいちじぇりーは発行人の屋号)
A5 判:276ページ/定価(本体2,000円+税)
ISBN:978-4-86538-173-3  C0095 ¥2000E



「あ、さいあく」母が口を押さえながら言った。二人で昼食を食べているときである。ブロッコリーを噛んだ途端に、差し歯が欠けてしまったようなのだ。母がにやりと微笑むと、ちょうど前歯の乳歯が抜けたばかりである甥っ子の口元とお揃いで、吹き出してしまった。 
 私が小学生の頃、母は仕事で多忙を極めていたのに、寝る間を惜しんでアイザック・アシモフのファウンデーションシリーズを読破し、身体を壊したことがあった。正確に言うと、疲労で歯が抜けてしまった。いま欠けてしまったのは、そのとき抜けた歯の差し歯である。このエピソードを、母はいつも笑い話にしているけれど、私は胸がちくりと痛む。仕事に子育てに、それだけではない、母には大変な心労があっただろうと、大人になったいまならば想像できるからだ。休む時間を削ってでも、自室に篭って油絵を描いたり、読書をする時間を確保したかった気持ちも、痛いほどわかる。

~ウィッチンケア第15号掲載〈いつも読書の途中〉より引用~

 

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Vol.15 Coming! 20250401

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