今回が「ウィッチンケア」への初寄稿となる綿野恵太さんは、『「差別はいけない」とみんないうけれど。』(平凡社 2019年)『みんな政治でバカになる』(晶文社 2021年)『「逆張り」の研究』(筑摩書房 2023年)などの著書がある評論家です。以前から、どの本もタイトルがちょっと引っ掛かる...というか、気になってはいたのですが、昨年『「逆張り」の研究』を拝読しまして、あっ、私のいだいた「引っ掛かり」とは、つまり著者が逆張っていたりシニシズム的な気質なのではなく、社会の事象を分析する手段として、とくにネット界隈における「いわゆる逆張り的な言説」に注目して評論活動を展開している方なのだな、とわかりました。同書内にはご自身が某新聞社から「逆張りする側」みたいな取材を受けそうになってショック、みたいな逸話も掲載されていますが...いやいや、著者はあくまでも「逆張り」をキーワードとして思考実験的なエッセイをものしたのだ、と感じました。そんな綿野さんは書籍だけでなく、動画配信プラットフォーム「シラス」にも《綿野恵太の失われた批評を求めて》というチャンネルを持っていますので、こちらにもぜひアクセスしてみてください!
寄稿作「ロジスティクス・ディストピア」は、物流倉庫での仕事体験をベースに、職場での人的コミュニケーションを考察した一篇。タイトルにもあるように、最新のテクノロジーによって人間の労働がコントロールされている体制を、綿野さんは「管理監視社会のディストピアだ」と書いています。しかし、本作が一筋縄ではいかないのは、ディストピア=悪場所=なんとかしなければ、といったありがちな問題提起ではなく、ある種の人間にとってはこのディストピアがユートピアなのかもしれない、という仮説へと話が繋がっていくこと...こうした思考回路を「逆張り」などと言っては、それはあまりに短絡的!?
身辺雑記のような柔らかい語り口ながら、「ポストフォーディズム」「情動労働」といった学術的な言葉も織り込まれていて、著者の思索が懐の深いものだと伝わってきます。また作品後半で言及されている、男/女の愛嬌についての考察も...いやいや、そのあたりは小誌を手に取って、ぜひご一読のほどよろしくお願い致します。
だからこそ、物流倉庫では働く人たちをバラバラにする。テクノロジーを駆使して。働く時間が被らないように巧妙にシフトをずらす。業務を完全に個人単位で完結させる。他人と関わらないようにデバイスに指示させる。集団で働かせるが、労働者どうしで横のつながりはつくらせない。ウーバーイーツの配達員のように、バラバラの個人のままに留めておく。きみたちは、モノを右から左に動かすだけでいい、余計なことはするな、というわけだ。
~ウィッチンケア第15号掲載〈ロジスティクス・ディストピア〉より引用~
https://note.com/yoichijerry/n/n9089f16965e1
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