旅も戦いも、まだ続いている...久保憲司さんの初小説集「
スキゾマニア」(ウィッチンケア文庫 02/タバブックス刊)の主人公<僕>は、小誌今号への書き下ろし寄稿作でも健在です。タイトルになっている「いいね。」はフェイスブックでおなじみの、あのボタン。私はわりと気楽に押すタイプですが、ある知り合いは「オレの『いいね!』はコメントを残すよりも重い」と言ってたし...いいね! ってべつにいいからいいね! ってもんでもなくて考えようによっちゃ神経磨り減りますよね。読み逃しなのかスルーなのか判然とさせないままでの「『いいね!』」しない」って意思表示も当然あるだろうし。あとFacebookページ立ち上げ時の<〜の「いいね!」をリクエストしています>って案内は、日本語がこなれてない(いまはやりの「忖度」がたりない!?)と感じます!
<僕>は「いいね!」だけでなく、ツイッターやインスタグラムやユーチューブにも言いたいことをたくさん抱えている。ネット全般への八つ当たりを装い、ユーモアを交えて描かれていますが、本質は〝悲しみ〟なんじゃないかな。<ネットに残っているのはヘイトを撒き散らすレイシストどもと、毎日花と猫とラテアートを投稿する人畜無害なお花畑ちゃんだけだ>。そして、<ネットは社会の鏡だ。理想郷になるはずだったネットの世界は、結局現実そのままの姿を鏡に映し出している。社会の鏡は、現実の世界をより良く変えていくはずだったのに>...この一節は、作中でもひときわアツいです。古〜いたとえ話をすると、ジェファーソン・エアプレインがまわりまわって「
シスコはロックシティ」でした(KBCバンドのオダやんでも可)、みたいな悲しみへの一撃。
物語はネットの話題から京都へ。土木作業と遺跡調査の逸話...私のような関東のヘタレにはひたすらつらい仕事に思えましたが、そういえば
大西寿男さんも以前、考古学を題材にした作品を発表していて、関西は
太田道灌以来の「東のほうの京」とは土の下の厚みが違う!?
作品の舞台は、さらに流れて沖縄へ。この地での<僕>には、ふだんあまり思い浮かばない言葉なんですが「落魄」...ある種のダンディズムを感じてしまいました。デレク・ジャーマンと太陽を並べた色彩感覚は、久保さんならではの鮮やかさ! ...あっ、そして久保さんの「スキゾマニア」収録作品「デモごっこ」は、いま
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久保さんと長谷川町蔵さんの対談レポートも、同書や今号掲載作をより楽しむ一貫として、ぜひぜひ、ぜひ!!
バンドをやっていた頃から、仕事にあぶれたら京都で遺跡掘りのバイトをやろうと思っていた。炎天下、汗をダラダラと流し、白いタオルで顔を拭きながら、労働っていいなとつぶやくのが夢だった……というのは嘘。遺跡掘りなら、細かい砂を落としたりする仕事なんか、きっとサボれるだろうと思ったからだ。そして、サボってボーッとしているうちに、きっと僕のなかの〈物語〉も転がり出すはずだと思っていた。
当時のバンド仲間で、今は遺跡掘りの仕事を発注する側の人間になっているヨンに電話で聞いてみた。
「週二日くらいのバイトでも、やらせてくれるん?」
「うちは構わんよ、はじめっからそういう契約やったら、うちはいつでも人が欲しいから。当日、行かれへんわというのはあかんけど」
「ほんま、月、火とかでもいいの」
「いいよ」
「昔みたいにヒッピーのおっちゃんとかもバイトやったはんの、俺でもやれるかな」
「やれるよ。70のお爺ちゃんでもやってはる人がおるから」
ウィッチンケア第8号「いいね。」(P142〜P147)より引用
https://goo.gl/kzPJpT
久保憲司さん小誌バックナンバー掲載作品
「
僕と川崎さん」(第3号)/「
川崎さんとカムジャタン」(第4号)/「
デモごっこ」(第5号&《
note版ウィッチンケア文庫》)/「
スキゾマニア」(第6号)/「
80 Eighties」(第7号)
※第3〜7号掲載作は「スキゾマニア」(タバブックス刊)として書籍化されました。
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