ウィッチンケア第13号(2023年刊)ではコロナ禍明けの渋谷、第14号(2024年刊)では2023年のハワイを物語の舞台として選び、掌篇小説をご寄稿くださった長谷川町蔵さん。第15号への作品はある時代のある場所が舞台でして、勘の良い人ならタイトルに使われている言葉だけでもピンとくるでしょうか、「ミックステープを聴いた朝」。この「テープ」というのは最近になって一部で再流行しているらしい「カセットテープ」由来の言葉...でも主人公の「俺」が持っているのはMDウォークマンで、入っているディスクの中身は“俺が今日の明け方、2台のCDプレイヤーとDJミキサーで遊びながら聴いた音楽をそのままライン録りしたもの”とのこと。それじゃぁMix TapeではなくMix Discなのでは、なんて言いそうな、そこの若い方! この「テープ」という言葉こそ、アナログ音源主流だった時代の音楽環境(とくにヒップホップ系)の尾骶骨、と受け止めていただければ幸いです。 映像の世界でも、デジタル主流になっても「VTRを巻き戻して」みたいな慣用句が、しばらく続いていたような記憶が...チャンネルやダイヤルは、回さなくなって久しいですが、って話が逸れていく。。
さすが音楽に造詣の深い長谷川さんの作品、「ミックステープ」に収録された曲名を追っているだけでも、「俺」の猟盤度の高さを楽しめるはずです。私は読了後、未聴だっただったじミニー・リパートン「Baby This Love I Have」と、ブランディ「I Wanna Be Down」をゲットしました。それで、本作が何年何月何日を描いているのかは、読了した方には分かるはず。冒頭部分にはキアヌ・リーブス主演の映画「スピード」にまつわる話なども出てくるし...あっ、でも、いや、このへんについてはこのくらいで、未読の方にはぜひ真っ新な状態で接してほしい作品なのです。話、意図的に逸らしてます!
「俺」の不動産ディーラーとしての仕事っぷりも細かく描写されていまして、好感が持てます。一所懸命頑張ってて、きっと給料のかなりの部分が音楽につぎ込んじゃって、みたいな人柄なのだろうな、と。SMAPの名曲「たぶんオーライ」に関する「俺」なりの分析も、今読むからこそ「そんな時代だったよ」とほろ苦くて。...ええと、話を逸らしたまま紹介文を終えます。最後にひと言、この一篇は私(←発行人)が思うに、小誌今号最大の衝撃作ですよ!
そして中居くんほどではないけれど、俺もこの1年それなりに頑張った。その成果こそが、重要書類ファイルに入った購入申込書類一式と、封筒の中に詰まった購入申込金100万円なのだ。
~ウィッチンケア第15号掲載〈ミックステープを聴いた朝〉より引用~
長谷川町蔵さん小誌バックナンバー掲載作品:〈ビッグマックの形をした、とびきり素敵なマクドナルド〉(第4号&《note版ウィッチンケア文庫》)/〈プリンス・アンド・ノイズ〉(第5号)/〈サードウェイブ〉(第6号)/〈New You〉(第7号)/〈三月の水〉(第8号)/〈30年〉(第9号)/〈昏睡状態のガールフレンド〉(第10号)/〈川を渡る〉(第11号)/〈Bon Voyage〉(第12号)/〈ルーフトップ バー〉(第13号)〈チーズバーガー・イン・パラダイス〉(第14号)
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