2024/04/30

VOL.14寄稿者&作品紹介15 絶対に終電を逃さない女さん

 「最近の女性エッセイはわりとお行儀が良いんだけれど、この人の作風はエッジがきいていておもしろいですよ」。私(←発行人)の記憶ですのでこの言葉が一字一句この通りだったかどうかはもう思い出せないのですけれども、ある書店の方がそのようなニュアンスで薦めてくださった本が、「シティガール未満」。著者は、えっ!? 〈絶対に終電を逃さない女〉が著者名なの?!?! つい最近、ペンネームで減点された江戸川乱歩賞候補作の話題がありまして、小誌寄稿者・仲俣暁生さんがSNSで“まさに高橋源一郎の「さようなら、ギャングたち」(←これ人名)の世界が来たな、と思う”と書いていましたが、思い返せば同作をリアルタイムで読んで「えっ!? 『中島みゆきソング・ブック』っていう人名はありなの!?!?」と驚いたときと同じようなのインパクトだったな。それで、そんな〈絶対さん〉ですか〈終電さん〉ですか〈逃女さん〉ですかさんなんですが、ginzamag.comのひらりささんとの対談を読むと〈終女さん〉というキャッチーな略称でもOKとのこと。ですので、以後はそれで。でっ、「シティガール未満」…読んでいて、たしかにざわざわと読者に刺さりそうなエピソードも多く選ばれている。でも全篇を貫いているエッジ的なものの真髄は、終女さんが大事にしている一瞬(刹那)なのではないかな、と。記憶の中で美しく咲く目黒川の桜。サイゼリアやモスバーガーでの「ありがとうございます」。「若い女性」という決定的な一言…etc.。




終女さんの今号への寄稿作は「二番目の口約束」。ご自身が初めて発表した掌編小説、とのことです。“ついさっき一番好きな男に好きだと言った口を、二番目に好きな男の唇に重ねていた”と、冒頭から平常心では読み進められないようなざわつく展開。しかしフィジカルな描写に惑わされつつも、身体を重ねている「彼(飯島)」と「私(麦田)」が発する言葉は極めてクールだし、感情も押さえ目。




終盤の、夜の路地裏での二人のある行動が、白眉。いまやすっかり汚れちまった私に、かつてならすぐに気づいたかもしれなかった「ピュアな刹那」を思い出させてくれました。みなさま、ぜひ小誌を手に取って、終女さんの描いた恋愛に身を委ねてみてください!




  同じ気持ちになってもらえないと思い知るたびに流れた私の涙は、いつも飯島の裸の胸が受け止めた。白くてすべすべの受け皿だった。

 罪悪感はなかった。両想いになれない悲しさよりも愛する喜びが大きく上回っていたからその涙は皿から溢れるほどではなかったはずだし、その受け皿は私だけのものでもなかったからだ。

 飯島が暮らす広めのワンルームに置かれたベッドの深緑色のシーツはよく見ると誰かの体液の白いシミで、白い枕カバーは誰かのファンデーションで、いつも汚れていた。その汚れたベッドがちょうどよかった。お互い一番ではないゆえの気楽さこそが、常にこのベッドを暖めていた。


~ウィッチンケア第14号掲載〈二番目の口約束〉より引用~

 


 

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2024/04/29

VOL.14寄稿者&作品紹介14 武田砂鉄さん

小誌第6号からの寄稿者・武田砂鉄さん。今号でも作品タイトルは〈クリーク・ホールディングス 漆原良彦CEOインタビュー〉でして、これは第7号からの、不動のスタイル。初回はもう8年前(2016年)なので、なぜシリーズ化したのか知らない方も多いかと存じますが、じつは私(←発行人)もよくわからないのです。覚えているのは、第8号でいただいたお原稿のタイトルが前回と同じで、そのことが私的には(...またややマニアックになりますが)peter gabrielという、ある時期まで自身のアルバムのタイトルをすべて「peter gabriel」にしていたミュージシャンに通じる感覚でおもしろいと思って、そのおもしろさがいつの間にか誌面に馴染んで現在に至る、という。初回、ここをクリックすると少し読めますので、新しめの愛読者の方はぜひクリってみてください。そんな武田さんのラジオ番組「武田砂鉄のプレ金ナイト」も放送開始から2年目に入りました。あっ、先日、私が住む町田市の玉川学園の「さくらまつり」に参加したさい、ウィッチンケア第13号を見た御婦人が「武田砂鉄さんが書いてるんですか。『プレ金ナイト』聞いてるとお伝えください!」と。ええと、私は昨年7月、西荻窪の今野書店での「あなたにとってブックオフとは?」(谷頭和希さんとのトーク)というイベントでお目にかかって以来、お原稿のメールやりとりだけでしたので...御婦人さま、いま、ここでお伝えしました! 





今回の〈クリーク・ホールディングス 漆原良彦CEOインタビュー〉、漆原氏は九段理江の『東京都同情塔』を手にして、武田さん(このインタビュアーが「武田」姓であることは第12号で唐突に明かされた)のまえに現れます。そして、開口一番「ほら、だから言ったでしょう」と。コロナ禍のころはもう少ししおらしいというか、ビジネス対する迷いのようなものも感じさせたのですが、株価が33年ぶりの高値をつけるような時代になったからでしょうか、自信に満ちた口調が、テキストからでも目に浮かんできます。


なんというか、漆原氏には、たとえば武田砂鉄さんと武田鉄矢さんは名前が似ているからなんらかの関係性があるはずだ、みたいな思考回路が備わっているのかもしれず、その初期設定で持論を展開するから、インタビュアーの指摘に対してもわけのわからないことを...なにしろ氏曰く、『東京都同情塔』に出てくる「シンパシータワートーキョー」は“私の考え方から影響されたとしか思えない着想”、なんですって。んで、自分がそう考えたから、“それはもう、シンパシーなのです”、とも。ちょっとみなさま、ぜひ小誌を手にして本作を読み、漆原氏に反論してやってください!




──漆原さんがそう思ったら、それはもうその通りなのだと。
 そういうまとめ方をされると、私が独善的に見えてしまいますね。自分の権威性を振りかざしたいわけではありません。そこを誤解してもらっては困ります。形を変えて出てくるものがある。ここに可能性を感じたい、私はそう言っているだけなのです。決して、話題になっているものに便乗しているわけではありません。
──私も、便乗している、と言いたいわけではないんです。あまりにも概念として異なっていると思ったもので。
 今、概念という言葉を使われましたね。大切にしたい言葉です。意味ではなく、概念で動きたい。概念は変容します。人間の動力になる。しかし、意味は固まります。動きを止めてしまう。


~ウィッチンケア第14号掲載〈クリーク・ホールディングス 漆原良彦CEOインタビュー〉より引用~


武田砂鉄さん小誌バックナンバー掲載作品:〈キレなかったけど、キレたかもしれなかった〉(第6号)/〈クリーク・ホールディングス 漆原良彦CEOインタビュー〉(第7号)/〈クリーク・ホールディングス 漆原良彦CEOインタビュー〉(第8号)/〈クリーク・ホールディングス 漆原良彦CEOインタビュー〉(第9号)/〈クリーク・ホールディングス 漆原良彦CEOインタビュー〉(第10号)/〈クリーク・ホールディングス 漆原良彦CEOインタビュー〉(第11号)/〈クリーク・ホールディングス 漆原良彦CEOインタビュー〉(第12号)/〈クリーク・ホールディングス 漆原良彦CEOインタビュー〉(第13号)

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2024/04/28

VOL.14寄稿者&作品紹介13 星野文月さん

 今回が「ウィッチンケア」への初寄稿となった星野文月さん。私(←発行人)はある方から星野さんの著書「私の証明」を薦められて入手しました。帯には“とある普通の人生における、普通じゃない日々の記録”とあり、どんな話なんだろうと読み始めると...待って! いきなり“普通じゃな”さ過ぎるできごと→恋人が脳梗塞で倒れて緊急手術。ええと、私は正直、いわゆる「可哀想な話」はあまり得意ではないので、この先、主人公の「私」が必死に恋人に寄り添って、でもその甲斐もなく、みたいなストーリーだったらどうしようとは思いつつ、でも、ここで止めるわけにもいかず。結局、一気に読んでしまい、読後には「可哀想」とはまったく別の感情に満たされていました。本の最後に〈おわりに〉という一文がありますが、そこで著者が一連の出来事を「〝あの頃〟」と記しているのがある意味で象徴的で、恋人とのことよりも、「私」が圧倒的に生きていた(る)、そのことの記録なのだな、と。それで、星野さんのことをネットで調べたら、小誌をお取り扱いくださっているBREWBOOKSさんのサイトで、店主・尾崎大輔さん、作家・小原晩さんとともにリレー連載〈ばんぶんぼん!〉を展開中。であれば、と尾崎さんを介して連絡をとり、ご寄稿いただけることになったのです。




 第14号への寄稿作「友だちの尻尾」は、主人公の「わたし」と、「わたし」の家から四十八歩離れたところに住む友だちの「エリ」との交流を描いた掌編小説。2人の通学~校内での様子などが淡々と描かれますが、「わたし」の「エリ」に持つ距離感などは、「私の証明」の「私」が他者との関係性に敏感だったことを彷彿とさせたりもします。そして物語は、雪の降ったある日のエピソードへと。




終盤にさりげなく置かれた“さびしさが形を持ったみたい”という一文が、「わたし」の感受性を細やかに描写しているように思えました。快活そうな「エリ」のどこに、「わたし」は“さびしさ”を感じ取ったのか...ちょっと不思議な表題の謎解きとともに、ぜひ小誌を手に取ってお確かめください。




「お風呂沸いたよー」エリがバスタオルを手渡してくれる。
 光がたくさん注ぐお風呂場はまぶしくて、すこしの間放心していると、浴槽からもうもうと湯気が生まれているのが見えた。濡れて重たくなった靴下とスカート、下着を脱いで床に落とす。シャワーを浴びて、お湯に浸かると硬くなっていたからだがどこまでも解けていくのを感じた。ちゃぷちゃぷと音を立てて揺れる水面を見る。その下には、私の白いからだが沈んでいて、水が揺れるたびにその像も揺れた。
 がしゃ、という音がして、浴室の扉が開く。裸のエリが入ってきて、私の隣に沈んだ。
「エリも入るんだ」
「あれ、だめだった?」
 ちいさな船みたいな浴槽の中で、私たちは同じ方向を見て座っていた。
 

~ウィッチンケア第14号掲載〈友だちの尻尾〉より引用~


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2024/04/27

VOL.14寄稿者&作品紹介12 コメカさん

前号(第13号)が初寄稿、今号が2作目となるコメカさん。私(←発行人)はウェブマガジン《生きのびるブックス》で昨年末から続いている批評ユニット・TVODとしてのパンスさんとの往復書簡「白旗を抱きしめて 〈敗北〉サブカル考」を拝読していまして...elderにとっては、たとえば松本人志の捉え方などがとても興味深いのです。なんであの人があんなにエバっていられたのかが、私なりにわかってきたり。そんなコメカさんは東京都国分寺市にある早春書店の店主様でもありまして、先日訪ねたさい、ちょっと早く着いちゃったんでご近所を散策していたら、フジランチというレトロな洋食屋さんを発見。なかなか趣のあるお店だったので、みなさん、国分寺に行ったらぜひフジランチで腹ごしらえをして、早春書店で良書を大量ゲットしましょう! ...それで、コメカさんの寄稿作「工場」ですが、評論作品かと思いきや、なんとご自身が初めて手がけた小説。冒頭部分の“タバコの匂いが染みついた休憩室で作業着に着替え、タイムカードを切る”を読んだ私は、それからしばらくして、えっ!? まさか、こんなところに連れてこられるなんて!! と、ちょっとびっくりしながら読了しました。 




ご自身が旧Twitter(現X)で「安っぽいフィクション」と語られていますが(私は「安い」とは全然思いませんでしたが...)、かなり目に手の込んだ舞台設定の作品です。正直に告白しますと、私は最初、その仕掛けに気づかずにトロンとした違和感を持ってしまいました。でっ、お原稿拝受後の御礼メールにて、愚鈍な私はその旨を率直にコメカさんにお伝えしまして、それに対するお返事をいただいて、「なんと! そういうことか!!」になった...mmm、ここはネタバレなしで作品に触れて欲しいので、ダンマリ。



主人公の「田中(おれ)」に絡んでくる「小林」が、なんともうざったいです。糊口をしのぐため、と割り切って工場内の単純作業を選んだ「おれ」にとっては、作業そのものよりも、こうした人間関係の方が負担だったりしそうだな...でもまあ人の世は、どこで生きていたってこういうことと無縁ではいられないだろうし、なんてことを考えさせられながら、物語は衝撃の展開へと向かいます。でも、それでも「おれ」は......。みなさま、結末はぜひ小誌でお確かめください。






「田中さんはここに来る前何してたの?」
 休憩時間にへたりこんでいると、小林という年かさの同僚バイトが、タバコを吹かしながら声をかけてきた。伸ばしっぱなしの髪はほとんど白髪になっており、針金のように痩せた腕が作業着から覗いている。
「いや……サラリーマンですよ。普通の」
「営業とかそういうの?」
「まあ、そうですね」
「いや……サラリーマンですよ。普通の」
「営業とかそういうの?」
「まあ、そうですね」

 仕方なく時給で働いているだけのこの場所で、ヤニ臭く小汚い老人にあれこれ身の上を詮索されたくない。顔を伏せて会話を打ち切ろうとしたが、小林はしつこく話しかけてくる。
「何売ってる会社だったの? メーカー?」
 答えたくないが、答えないための対応を考えることの方が面倒だ。
「あー……あれですね、ペット用ロボットです」


~ウィッチンケア第14号掲載〈工場〉より引用~


コメカさん小誌バックナンバー掲載作品:〈さようなら、「2010年代」〉 (第13号)

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2024/04/26

VOL.14寄稿者&作品紹介11 小川たまかさん

 昨年5月に『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)を上梓した小川たまかさん。同年8月からはthe letterで日記を配信し続けていて、あっ、でも最新の日記では愛猫の体調不良などもあってしばらくはお休み/原稿執筆に注力する、と...それでも、あいかわらずお忙しそうで、来月刊行予定の雑誌「エトセトラ VOL.11」は表紙に《小川たまか 特集編集》との文字が。また5月19日には京都府乙訓郡大山崎町にある〈大山崎 COFFEE ROASTERS〉にて、小川たまかさんとフェミトーク!というイベントも開催予定です。さて、そんな小川さんが小誌第14号にご寄稿くださったのは「桐島聡のPERFECT DAYS」という、評論的でもある、映画に関したエッセイ。今年1月に死亡した、連続企業爆破事件の被疑者として全国に指名手配されていた男の名前。昨年末に公開されたヴィム・ヴェンダース監督の映画のタイトル。このふたつをを並べて小川さんはなにを語ろうとするのか? 文頭に「※」で“映画『PERFECT DAYS』のネタバレと酷評を含みます。けれど見て感動した人の気持ちを否定するものではありません。LOVE。”との但し書きがあり、そりゃぁ世界最速の読者である私(←発行人)も、心して拝読しましたですよ。




読んだ。小川さんは真面目でまっすぐだな、と感じた。そして私は、この映画からは逃げたままでいたい、と改めて思い直しました。“映画を見に行く際は、事前情報を極力仕入れない。だから知らなかったのだ。あの映画の仕掛け人がファーストリテイリングの柳井正代表取締役会長兼社長の次男・柳井康治取締役だということを”と小川さんは書いています。私には...なぜか過多なくらい事前情報が入ってきていたなぁ。ユニクロや渋谷区の「The Tokyo Toilet」プロジェクトがらみだってことが。そして、なによりも、私はヴェンダース映画、得意じゃないんですよ。唯一いいなと思っているのが、「パリ、テキサス」のサントラ盤の「No Safety Zone」~「Houston In Two Seconds」~「She's Leaving The Bank」あたりの流れくらいで。あと役所広司は「すばらしき世界」「孤狼の血」などで役者さんとして魅力を堪能したので、この映画は最初からパス。


ニュースやテレビのCMで、あー、いまの日本は綾瀬はるかも桑田佳祐も村上春樹もユニクロなんだな、とそれなりに思うところはあります。だから、本作に同意するところは少なくない。でっ、小川さんはご自身の思うところを記す。私は逃げる...「見ない」を通す...「見ない」(…ついでに、「着ない」)もひとつの意思表示ではあると思っている。さて、小誌を手にしたみなさまは、どう感じるのでしょうか。まずはぜひ、小川たまかさんの「桐島聡のPERFECT DAYS」をご一読ください!







 ニコを迎えに来た平山の妹・ケイコ(麻生祐未)は、運転手付きの車に乗っている。久しぶりの再会であるらしい兄妹はぎこちなく言葉を交わし合い、本当にここに住んでいるのか聞きづらそうにする妹は、少し言葉をためてから言う。「たまにはお父さんの様子を見に来てあげて。もう昔みたいじゃないから」みたいなことを。平山は申し訳なさそうに首を振り、妹は仕方ないという顔をして、二人は少し抱き合ってから離れる。妹と姪を乗せた高級車は、狭い路地を帰っていく。

 待て待て待てーい。

 平山さん、いいとこの子だったんですか。

 じゃあ何ですか、質素だけれど丁寧な暮らしはコスプレですか。帰ろうと思えばいつでも太い実家に帰れるってことですか。

 いや、わかるよ。こんな資本主義の世の中ではあるが、別にモノを多く持っていることが幸せではない。そんなことより毎日をつつがなく過ごし、ふとした木漏れ日にも感動を見出すことが、人間の本当の幸せじゃないですか、みたいなメッセージ。私も高価な墓石を建てるより、少しの好奇心を絶やすことなく生きる方が幸せだと思うから。でもさ。


 

~ウィッチンケア第14号掲載〈桐島聡のPERFECT DAYS〉より引用~



小川たまかさん小誌バックナンバー掲載作品:〈シモキタウサギ〉(第4号)/〈三軒茶屋 10 years after(第5号)/〈南の島のカップル〉(第6号)/〈夜明けに見る星、その行方〉(第7号&《note版ウィッチンケア文庫》)/〈強姦用クローンの話〉(第8号)/〈寡黙な二人〉(第9号)/〈心をふさぐ〉(第10号)/〈トナカイと森の話〉(第11号)/〈女優じゃない人生を生きている〉(第12号)/〈別の理由〉(第13号)

 


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2024/04/25

VOL.14寄稿者&作品紹介10 長谷川町蔵さん

 小誌第5号からの寄稿者・長谷川町蔵さん。今号での「チーズバーガー・イン・パラダイス」が10作目。物語の舞台はハワイです。ハワイ…私(←発行人)は諸般のしがらみがあって、新婚旅行を彼の地で過ごしました。ほんとうはのんびり自由にあちこち行ったりしたかったのですが、その“諸般のしがらみ”のせいで、到着したらいきなりそうめんのウェルカムランチをツアー客全員で食べなきゃいけなかったり、やたら免税お土産店にいかされたり。でっ、マウイもいけたんですが、そんなパック旅行になっちゃってたんで、どこがなにでどうなんだか…ってな与太話はともかく、編集作業中のやりとりで伺ったところ、長谷川さん、実際に2023年6月にマウイ(とオアフ)に滞在していた、とのこと。であれば、この一篇の顛末は、心に染み入るようなできごとであっただろうとお察し致します。お原稿をいただいたのが今年2月でして、私は何度か旅行や取材で訪ねたことのある、能登半島のことも思い重ねて拝読しました。





作品前半、旅先のクルマで聞くポスト・マローンやストーンズがいつもより魅力的に感じられる描写がありまして、わかるなぁ、とニヤニヤしてしまいました。これは逆のこともありえて、それこそ私、能登先端の禄剛埼灯台(狼煙の灯台)あたりを走行中にスティーリー・ダンをかけていたことがあって、「こいつらダメだなぁ」と思った記憶が。。また音楽がらみですと、中頃に語られている「ラハイナ」にまつわる逸話もおもしろくて。“永ちゃんは風の噂で町の名だけ聞いて曲を作ってしまったにちがいない”…YouTubeで聞いてみて、まったくもって長谷川さんのご指摘通りなのだろう、と納得致しました。ある種のエキゾチカ、なのかな、あの曲は?


ハワイの歴史的な成り立ちなども踏まえた、愛情に満ちた掌編小説。私が紹介したのは音楽にまつわることばかりになってしまいましたが、作品タイトルである「チーズバーガー・イン・パラダイス」というお店も、ストリートの風景も素敵で、主人公である「君」の“近いうちにまたこの場所に来ようと決意する”という気持ちも、すごくわかる。顛末…これは敢えて触れませんので、 みなさま、ぜひ本作を読んで、ご確認のほどお願い致します。





 君は一瞬、マウイ島滞在を延長してラハイナ本願寺の盆踊り大会で踊る自分の姿を夢想する。しかし仕事やお金のことを考えてすぐに断念する。さらにワイネエ・ストリートを直進した君は、錆びついたクラシックカーが捨てられている景色に出くわす。車の背後には、何事もオープンなこの島にしては珍しく高い塀が立っていて、中を覗けないようになっている。19世紀、捕鯨基地として栄えていたラハイナの街は、ならず者だらけの鯨取りの蛮行に悩まされていた。ハレ・パアハオと呼ばれるこの施設は、かつて彼らを収容する刑務所だった。

 目的地に時間通りに到着できなくなるのを心配した君は見学を諦め、フロント・ストリートに戻ると、今度はラハイナの中心街を逆方向に歩きだす。

 


~ウィッチンケア第14号掲載〈チーズバーガー・イン・パラダイス〉より引用~



長谷川町蔵さん小誌バックナンバー掲載作品:〈ビッグマックの形をした、とびきり素敵なマクドナルド〉(第4号&note版ウィッチンケア文庫》)/〈プリンス・アンド・ノイズ〉(第5号)/〈サードウェイブ〉(第6号)/〈New You(第7号)/〈三月の水〉(第8号)/〈30〉(第9号)/〈昏睡状態のガールフレンド〉(第10号)/〈川を渡る〉(第11号)/〈Bon Voyage〉(第12号)/〈ルーフトップ バー〉(第13号)



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Vol.14 Coming! 20240401

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