2025/05/18

VOL.15寄稿者&作品紹介31 稲葉将樹さん

 ウィッチンケア第14号ではドナルド・フェイゲンの魅力について、多角的な視点で考察した「人工楽園としての音楽アルバム 〜ドナルド・フェイゲンとケニー・ヴァンス〜」という一篇をご寄稿くださった「DU BOOKS」の編集長稲葉将樹さん。同作でのキーワードのひとつが、タイトルにも使われた〈人工楽園〉という言葉であったと思うのですが、誰かの背後にある〝それ〟を理解するためには、受け手側にもそれなりの教養というか学識というか、ざっくり言い表せばカルチャーみたいなものが備わっていることが必須であるように思われ、では稲葉さんの場合の〝それ〟はいったいいつ頃からどのように育まれたのだろう、などと思っていたら...小誌今号への寄稿作、本にまつわる筆者の文化的クロニクルとも言えそうな内容でして、興味深く拝読致しました。稲葉さんのご出身は〈茨城県の下妻市という ところで(大学浪人生として上京する1994年まで過ごした)、映画もヒットした嶽本のばら『下妻物語』の舞台で知られ「田んぼとヤンキー」で形容される町〉とのこと。市内には5件の書店があり、おもに小、中、高校時代にどんなを読んでいたのかが、詳しく語られています。




すごいな、と感じたのは、親しんだ本の内容(テキスト)はもちろんですが、出版社名やシリーズタイトル、さらに装幀、装画、挿絵なども含めての鮮明な思い出が記されていること。たとえばポプラ社の「少年探偵団」シリーズについてだと〈柳瀬茂の表紙は80年代でもレトロな戦前の面子のような配色で雰囲気があった〉。〈偕成社のシャーロック=ホームズ全集も当然のごとく読破したが、こちらは原著初版のシドニー・パジェットのイラストのままで良かった〉...私(←発行人)もホームズはたぶん全部読んだ記憶がありますが、イラストより謎解きだけに夢中だったような(無粋...)。本を「クリエイティブなフィジカル・アイテム」として受容していた稲葉さん、そりゃ蓄積される(文化的)情報、豊かなはずですよ。


作品後半では、5件の書店それぞれの特長も、個人的な思い出とともに語られています。なかでも4件目に紹介されている外山書店というのに、興味津々。〈ここはゲームブックの品ぞろえが豊富で、ミステリーやSFなどともに、アダルトなちょっと後ろ暗い趣味の本や雑誌も併売されていた〉...たしかに、私も小学生の頃、とある本屋(たぶん古本屋)に迷い込んで、アングラな漫画誌を手に取って、描かれた裸の男女が何をしているのかわからず目を見張ったこと、とかあるし。みなさま、ぜひ小誌を手に取って本作を読み、ご自身の本屋の記憶と重ね合わせてみてください。



ウィッチンケア第15号(Witchenkare VOL.15)
発行日:2025年4月1日
出版者(not「社」):yoichijerry(よいちじぇりーは発行人の屋号)
A5 判:276ページ/定価(本体2,000円+税)
ISBN:978-4-86538-173-3  C0095 ¥2000E

 それと並行して読んでいたのが子ども向けSF全集で、あかね書房の「少年少女世界SF全集」と岩崎書店の 「SFこども図書館」が図書室にあったが、私は「SFこども図書館」の方が断然好きで、表紙のイラストがモダンで、子ども心にもおしゃれな印象があり、自分の部屋に置いておきたいなと思わせてくれた。当時は描き手の名前まで意識していなかったが、装画は、和田誠、真鍋博、井上洋介などの若き日の仕事で、グラフィカルで大好きだった。とくに印象深いのが『合成人間ビルケ』。なかなかグロいロシア産SFだが、『くまの子ウーフ』の井上洋介の絵がかわいいので、その印象で読めてしまう。井上洋介のイラストに入っている署名は、アーチ状にカーブさせたリボンに「ヨースケ」と書かれてあって、この署名の入れ方に私はフェティッシュな魅力を感じていて、ノートの余白などにマネして自分の名前を書いたりしていたのだが、その後、大ブームとなるビックリマンシールのネーム部分がこのリボン形式で、これはヨースケのパクリではと勝手に思い込み、シール蒐集にもはまっていくのだった。


~ウィッチンケア第15号掲載〈下妻〝書店〞物語 1980年代〉より引用~

稲葉将樹さん小誌バックナンバー掲載作品:〈人工楽園としての音楽アルバム 〜ドナルド・フェイゲンとケニー・ヴァンス〜〉(第14号)

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Vol.15 Coming! 20250401

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