作家デビュー作の「明け方の若者たち」(幻冬舎/2020年)が刊行5周年を迎えたカツセマサヒコさんは、昨年、2冊の小説を上梓しました。6月には新潮社より「夜行秘密」(双葉社/2021年)に続く3作目の書き下ろし長編「ブルーマリッジ」、そして9月には光文社より「小説宝石」に掲載された6篇に書き下ろし1篇を加えた「わたしたちは、海」を。私(←発行人)は両作とも拝読しまして、まず(発売順は前後しますが)「わたしたちは、海」は、いかにもカツセさんらしい、リリカルな風合いが心地好い短編集。各作品は緩やかに繋がっており、すべての物語の舞台である湘南が、時折「「ここはアドリア海かビスケー湾か?」みたいに錯覚に陥りそう...つまり、良質なヨーロッパ映画を鑑賞したような読後感が印象的。そして「ブルーマリッジ」は作者の新境地を感じさせる、ハラスメント/マイクロアグレッション問題をも素材として取り入れた野心作でした。そんなカツセさんの最新刊は「anan」に連載した短編をまとめた「傷と雨傘」(2025年 /マガジンハウス)。そして今月の17日は大阪の梅田 蔦屋書店にて、「明け方の若者たち」5周年記念イベントも予定されています。
小誌第15号への寄稿作「宙を跳ぶ」は、いずれバスケットボールを主題とした作品をと考えている筆者が、その際にはエッセンシャルな核となりそうな〈試合〉について、まずは掌篇小説形式でテキスト化してみた一篇。ウィッチンケアは謳い文句として“書き手にとって、小誌はつねに新しい創作のきっかけとなる「試し」の場”と喧宣していますが、このようなチャレンジングな使われ方をすること、大歓迎であります。今回の「試し」がいずれ大輪を実らせること、願っています。
それにしても本作、なんと躍動感、スピード感、そしてなによりも球技ならではの高揚感、に満たされていることでしょうか。北鴎高校バスケ部最後のタイムアウトでの柳本先生の「ここまで来たら、気合いだ! 絶対に気持ちで負けるな!」という具体性がない指令こそ、もしかするとスポーツの醍醐味なのかな!? みなさま、ぜひ小誌を手に取って、熱闘・北鴎VS帝和大付属の結末を読み届けてください!
確かに僕は、蓮さんほどドライブが得意じゃない。でも、ただのレイアップだったら、中学から死ぬほど練習してきたんだ。
ディフェンスのカバーが追いつく前にジャンプして、ネットにボールを沈めた。
これで、80対81。残り14秒。
ここから、あと二点をもぎ取る。もう一度、蓮さんの言葉を思いだすんだ。
─ 先生の言ったとおり、気合いで。
気合いで、なんて作戦があるか? と思うけど、冷静に考えればわかる。蓮さんは「次の8秒で、相手からボールを奪う」と言っていた。8秒は、ハーフコートからのんびりディフェンスしてたら間に合わないってことだ。
カツセマサヒコさん小誌バックナンバー掲載作品:〈それでも殴りたい〉(第11号)/〈復路、もしくは、ドライブ・ユア・カー〉(第12号)
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