ウィッチンケア第13号には「この後はお好きにどうぞ」、第14号には「にんげん図鑑」、そして今号(第15号)には「お薬をお出ししておきますね」と、改めてふくだりょうこさんの寄稿作のタイトルだけ並べてみると、おっとりしているというかほのぼのしているというか...なんですけれども! じつは、号を重ねるにつれて作品内の毒素は強まっているように思えまして、敢えてパワーワードなしで冠されるタイトルが、読後にはステルスに効いてくる...読者さまにおかれましては、多少身構えて“服用”なさることをお薦めします。それで、今作の内容なのですが、巷で言われる2025年問題(「団塊の世代」が全員75歳以上となる)のフィクション内での現実化というか、登場人物の誰に自分の気持ちを寄り添わせるかによって、かなり感想も違ってくる一篇だと思われます。ブラック・コメディ!? いや、考えたくはないけれど、作中の〈荒井実〉さん(76歳)のような方、いま約800万人といわれる団塊さんたちのなかに、少なからずいらっしゃるはずだし。
本作、未読の方にはなんとも事前にお伝えしにくい(したくない)ストーリー構成でして、まず、お話の舞台はとある病院(!?)の診察室。〈荒井実〉さんは娘に付き添われて来院して医師が問診中、なんですれども...なんとも話が噛み合わず。私(←発行人)は娘さんより〈荒井実〉さんに近い年齢のため、ああ、いずれ自分も彼のように、とか考えるとやるせなくなりました。
作中で一番ドライな存在として描かれているのは、〈アシスタントの速水さん〉。もしスピンオフの物語があったら、ぜひ〈速水さん〉が主人公で、作中の医師について多いに語ってもらいたいと思いました。...いや、なんであなたこんな病院(!?)でしれっと勤務してられんの!? みたいなことも、かな。ということでなんとも奥歯になにか挟まった紹介でしたが、衝撃の詳細はぜひ、小誌を手にしてお確かめください!
男は声を潜め、自分が何気なく発した言葉が大変な事態を引き起こすことになってしまったのだと言った。このことはニュースになっているから、
知っているはずだ、と。
「すみません、ここ数日、まともにニュースをチェックする時間がなくて、存じ上げませんでした」
「いけない、いけない! そうやって世間にアンテナが向かなくなると、人間は衰えていくんですから。外からの刺激を受けて、人間は成長するん
です。いけません、いけませんよ、こんな部屋にずっと籠ってばかりいたら」
「そうですね、気をつけます」
「すみません、先生。鼻をかんでも?」
「ええ、どうぞ」
箱ティッシュを差し出すと、男は鼻をかみ、しばらくして動かなくなった。
「疲れてしまったみたいですね」
男が座る車椅子の後ろに立っていた女性がポソリと言った。
~ウィッチンケア第15号掲載〈お薬をお出ししておきますね〉より引用~
ふくだりょうこさん小誌バックナンバー掲載作品:〈舌を溶かす〉(第10号&《note版ウィッチンケア文庫》)/〈知りたがりの恋人〉(第11号)/〈死なない選択をした僕〉(第12号)/〈この後はお好きにどうぞ〉(第13号)〈にんげん図鑑〉(第14号)
※ウィッチンケア第15号は下記のリアル&ネット書店でお求めください!
【最新の媒体概要が下記で確認できます】
https://yoichijerry.tumblr.com/post/781043894583492608/