2025/05/07

VOL.15寄稿者&作品紹介12 朝井麻由美さん

 朝井麻由美さん原作のテレビ東京【水ドラ25】「ソロ活女子のススメ」、先月よりシーズン5に突入! このシリーズドラマ、主演の江口のりこさんの出世作にもなっているのがすごいことだと、しみじみ。WIkipediaには、同作が江口さんにとっての〈民放の連続ドラマ初主演〉作だとありまして、たしかに2010年代の彼女は、作中のスパイス的というか、妙な印象を残すバイプレーヤーだったような記憶があるのですが...現在放映中の朝ドラ「あんぱん」でも主人公の母親役として堂々たる存在感だしなあ。俳優とともに大きくなっていく(そしていずれ普遍化=時代のスタンダード)原作だなんて、そんな作品を生み出せる書き手はめったにいないと思います。...そしてもうひとつ、朝井さんのすごいところを。小誌前号での寄稿作「裂けるチーズみたいに」が、年初からのいわゆるフジテレビ問題を先取りするような一篇だったこと。そんな朝井さんは今回、未来小説を書いてくださいまして、この作品もまた、今後「予言の書」のようになっていくのではないかと思うとゾクゾクします。




物語の舞台は西暦2154年の、人類が「感情を制御した」世の中。21世紀に発展したSNSによって、人々は感情に支配されるようになり、人間社会の存続が脅かされる事態となった。感情抑制社会の実現を求める声が民意となり、紆余曲折を経て「感情制御チップ」なるものが人類には装備され...いやあ、なんたるディストピアなのでしょう、冗談じゃないよ! と私(←発行人)は21世紀前半の感情を振り切って怒っていますが、しかし、なにしろ作者は時代の先取り実績のある方ですし、不肖私の現時点での生活感覚でだって、いまのSNSを放置していたら、関東大震災後の福田村事件みたいな惨事があちこちで勃発するかも、みたいな怖さは感じます。


作品の鍵を握っているのは、〈この理想社会を統括する〉ためにある〈「最適管理局(通称:局)〉に勤務する嘉島ハルカと、坂宮レイ。このものたちがどのような環境下でどんな任務を担っているのかは、ネタバレにも繋がるのでここでは解説致しません。とにかくすごい1作ですので、ぜひ、小誌を手に取ってお確かめくださいませ。



ウィッチンケア第15号(Witchenkare VOL.15)
発行日:2025年4月1日
出版者(not「社」):yoichijerry(よいちじぇりーは発行人の屋号)
A5 判:276ページ/定価(本体2,000円+税)
ISBN:978-4-86538-173-3  C0095 ¥2000E



「個体の感情数値が閾値に達しました。対象を発見次第、排除プログラムを執行してください」
 室内では淡々と指示が飛び交う。感情の発現は、社会の秩序を脅かす芽である。芽は早いうちに摘み取らねばならない。
「対象を発見しました」
 無機質な白い部屋。モニターに映るのは、坂宮レイ。感情抑制プログラムに異常が見られ、これから排除される個体だ。その表情はわずかに歪み、口元がかすかに震えていた。……まるで、「感情」を持っているかのように。
「処理を開始します」
 僕は冷静にボタンを押そうとした。しかし──指が止まる。
──なぜだ?
 僕はこれまで何度も、感情に異常をきたした個体を処理してきた。迷ったことはない。これは〝ただの業務〞であり、〝ただの異常〞にすぎない。
……なのに、なぜ?
 迷いの感覚は、僕にとって未知のものだった。
局で働く僕たちは常に「最適解」を求める。一度決定したことに疑念を抱く余地などない。だが、今の僕は、目の前の青年を処理することが「最適解」なのかを疑い始めていた。


~ウィッチンケア第15号掲載〈エモーショナル・ドリーム〉より引用~

朝井麻由美さん小誌バックナンバー掲載作品:無駄。〉(第7号)/〈消えない儀式の向こう側〉(第8号)/〈恋人、というわけでもない〉(第9号)/〈みんなミッキーマウス〉(第10号)/〈ユカちゃんの独白〉(第11号)/〈ある春の日記〉(第12号)/〈削って削って削って〉(第13号)裂けるチーズみたいに〉(第14号)



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Vol.15 Coming! 20250401

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