2018/05/03

vol.9寄稿者&作品紹介03 長谷川町蔵さん

昨年1月に小誌掲載作+書き下ろしの小説デビュー作「あたしたちの未来はきっと」を上梓した長谷川町蔵さん。現在はEYESCREAM WEBで「インナー・シティ・ブルース」という連作小説も執筆中で、ますますご活躍の幅が拡がっています。そんな長谷川さん、今回はどんな作品を寄稿してくださるのか? 私はどきどきしながらお原稿が届くのを待っていました。「あたしたち〜」と関連づけられた、東京都町田市が舞台の続編かな? あるいはまったく別の物語が始まるのかな? と。

ものすごい作品が届きました。「30年」というタイトルが象徴するように、まさに2018年(平成30年)の東京を舞台にした、仮想現実の小説。みなさま、この作品はとにかく、まず一度できるだけ早めに読んだほうがいいですよ。GW中にでも、ぜひぜひ。...種明かしするわけにはいきませんが、いまの世情で本作のリアルタイム感(平成30年感)を味わい、そして世の中に変化が訪れた後にまた読むと、絶対に「一粒で二度おいしかった!」と感じていただけると思うのです。

主人公の「わたし」はパレスホテル(東京都千代田区丸の内)の一室に呼び出され、あるCMへの再出演をオファーされます。「あなたがCMに出演するかどうかに、日本の存亡がかかっている」と、依頼主の男は言う。「ここ数年、政府はこの国の将来のために、再びバブル景気を創出すべく様々な方策を打ってきました」とも...って、ここで私が唐突に要約するとなにやら荒唐無稽なサスペンスみたいに思われてしまうかもしれませんが、いやいや、長谷川さんのストーリーテリングの絶妙さで、きっと誰もが持っていかれちゃうはず。ちなみに依頼主の男の肩書きは<京南大学 工学部カオス理論研究所 主任教授>なのですが、この大学名にピンときた方は、「あたしたち〜」の読者のはず。

30年前に「わたし」が出演していたCMとは? ある程度の年齢の読者でしたら、本作の仮想現実を、散りばめられたキーワードをヒントに現実と紐付けてみるのも楽しいはず。ピシッと重なり合う瞬間が、きっとありますよ。また、物語の中盤に出てくる「テレビや新聞でよく見かける男」...いやぁ、発行人である私は小誌の発行(4/1)以降、いつこの2人組が現実のほうで「見かけた男(過去形)」になっちゃうのかハラハラしていましたが、これがなかなかしぶとくて、そのしぶとさがまた、本作のリアルタイム感を引き立てることになっていたりして。でっ、これ以上書くとほんとにネタバレになりそうなので私はそろそろ退場しますが、本作にはこの2人組が霞んでしまうほどさらに重要な役割を果たす方も登場しますよ! まさにザ・平成...では、口を噤みます〜。



「ワレワレニホンセイフハケッシノドリョクニヨルカイカクヲケツゼントススメ、ケイキカイフクガマサニセイコウシツツアルワケデスガ、ソノショウチョウトナルベクサイゴノシアゲトシテ、ゼヒトモアナタニゴキョウリョクネガイタイ」
 彼はわたしの方を向いてそう話しかけてきたけど、自分でも何を言っているのか分かっていなかったんじゃないだろうか。その証拠に、彼の目はわたしではなく虚空に向けられていた。この人は自分の頭で真剣に物事を考えることなんかなく、他人が書いた文章を言わされて生きてきたのだとわたしは思った。
「ワハハ、それじゃあ何言ってるか分からねえよ!」
 大声を上げながら、今度は彼の盟友が部屋の中に入ってくると、わたしの方を向いて言った。
「ようするにだ。アンタがあのコマーシャルに出てくれないと日本が潰れちまうんだ。そうしたら元も子もない。それは分かってるよなあ?」
 この男は、上流階級の生い立ちとベランメエ口調の落差によって、ある種の人々を惹きつけてきたのだろう。でもわたしにはマンガだけで世界を知った気になっている知性の浅さばかりが鼻についた。

ウィッチンケア第9号「30年」(P018〜P025)より引用
goo.gl/QfxPxf

長谷川町蔵さん小誌バックナンバー掲載作品
ビッグマックの形をした、とびきり素敵なマクドナルド」(第4号&《note版ウィッチンケア文庫》)/「プリンス・アンド・ノイズ」(第5号)/「サードウェイブ」(第6号)/「New You」(第7号)/「三月の水」(第8号)
※第5〜7号掲載作は「あたしたちの未来はきっと」(タバブックス刊)として書籍化!


http://amzn.to/1BeVT7Y

Vol.9 Coming! 20180401

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