2019/05/12

vol.10寄稿者&作品紹介11 長谷川町蔵さん

アマゾンの表記は3月28日、しかし書籍の奥付は2019年4月1日(ウィッチンケア第10号の発行日と同じ!)に、『あたしたちの未来はきっと』に続く小説集『インナー・シティ・ブルース』を上梓した長谷川町蔵さん。物語の舞台は渋谷、新宿、六本木、豊洲、葛西など東京の23区内。第一話の「ウッパ・ネギーニョ」はしょっぱなから“渋谷系”まっただなかの「ぼく」(「ジョージ・ガーシュインからジョージ・マイケルまで歴史順にジャンル分けした棚が評判」なノア渋谷にあるレコード店の店主!)が登場して、いやぁ、小誌今号にはやはり“渋谷系”をルーツに近未来の渋谷を描いた柴那典さんの〈ブギー・バックの呪い〉、『渋谷系』の著者・若杉実さんの寄稿作〈想像したくもない絵〉も掲載されていて、こりゃもうPR的には渋谷系文芸創作誌とかあざとく名乗ったほうがいいのか...なんて、嘘です(ごめんなさい)。あっ、それで「ウッパ・ネギーニョ」には渋谷系(オザケン)がらみの記述...「若いミュージック・ラヴァーで満員のパーティは、いつも小沢健二「天気読み」からスティーヴィー・ワンダー「くよくよするなよ」という流れでヒートアップして」なんて箇所もありまして、いやぁ、世の中では「ぼくらが旅に出る理由」とポール・サイモンの関係性のほうが知られていそうですが、私は「天気読み」を初めて聞いたとき、これが「くよくよするなよ」ではない、ということを認識するのに労力がかかった、それはPuff Daddy & The Familyの「I'll Be Missing You」が「見つめていたい」ではないと認識(以下略)。

さて、長谷川さんの今回の寄稿作〈昏睡状態のガールフレンド〉。物語の舞台は東京都町田市です。それも、旭町にある町田市民病院──町田市民以外は知り合いが入院でもしないかぎり訪れないであろうと思われる場所──だったことに驚きつつ、でもラップ/ヒップホップ系アーティストがホームタウン・リスペクトを作品づくりの根幹にしている感覚に近いなぁ、などとも思いながら拝読しました(その町田市民病院、私は大学2年の夏〜冬を過ごした場所だったりもして/大腿骨をしくじって入院してた/旧棟時代)。作品のタイトルは...ザ・スミスが解散前に出したアルバム「Strangeways, Here We Come」に入っていた曲「ガールフレンド・イン・ア・コーマ」の邦題。そして想像力が働く『あたしたち〜』読者ならピンとくるかもしれませんが、そうです! あの物語のなかで眠り続けていた三輪菜穂、そして菜穂と同じ大谷中のバレーボール部友だち・佐々木萌も登場します。

作品内に登場する町田のジャズ喫茶「ノイズ」(『あたしたち〜』収録の一篇〈プリンス&ノイズ〉のタイトルにもなった店)は5月6日に閉店。そして奇しくもその2日後(5月8日)には、町田の老舗古書店・高原書店が閉店というニュースも流れました。私がこどものころに「(降る雪や)明治は遠くなりにけり」という言葉が流行っていたような記憶がありますが、平成も昭和も、後戻りなしでどんどん遠くなっていくんだろうなぁ。でっ、〈昏睡状態のガールフレンド〉の最後は、とても印象的な文章で締めくくられていて、私は深く共感しました(それは長谷川さんのこのツイートとリンクする思い)。みなさまもぜひ、小誌を手にとってその一節に触れてみてください!



 ペデストリアンデッキへの階段を登りながら、ケータイメールをチェックしたら、町田109のデニーズで、部活仲間が騒いでいることを知った。町田109は目の前に立っている東急ツインズのすぐ裏側だ。
 でもその日は彼らに会う気が起こらなかったので、東急ツインズのむかって右側に立つファッションビル、町田ジョルナに入った。エスカレーターで4階にのぼって、父さんに何度か連れていってもらったことがある〈ノイズ〉という喫茶店でアイスコーヒーを注文した。ぼくはアイスコーヒーを啜りながら、さっき買ったばかりの大学ノートにこの日起きたこと、感じたことすべてをシャープペンで書き留めたのだった。

ウィッチンケア第10号〈昏睡状態のガールフレンド〉(P064〜P070)より引用

長谷川町蔵さん小誌バックナンバー掲載作品
ビッグマックの形をした、とびきり素敵なマクドナルド(第4号&《note版ウィッチンケア文庫》)/プリンス・アンド・ノイズ(第5号)/サードウェイブ(第6号)/New You(第7号)/三月の水(第8号)/〈30年〉(第9号)
※第5〜7号掲載作は「あたしたちの未来はきっと」(タバブックス刊)として書籍化!

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Vol.11 Coming! 20210401

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