昨年6月に「明け方の若者たち」を上梓したカツセマサヒコさんとは数年間、町田のジョルナにあったジャズ喫茶「NOISE」でのとある集まりで、初めてお目にかかりました。座った席の向かいの男性を、共通の知人が「カツセさんです」と紹介してくれて、ああ、カツセさんですか、と、...って文字でそのまま書くと、なんかヘンだなw。私の第一印象。「そのシャツどこで買ったんですか?」と訊いてみたくなった。なんというか、そこいらのセレクトショップでは入手できなそうな質感のもので、でもとても似合っていて、さりげなくお洒落上級者だな、と思いました。でっ、そのとき手持ちの小誌(第9号か10号)を差し上げて、いつかなにか書いてくださいね、みたいな話をしたのを覚えています(寄稿者の数人がカツセさんと知り合いだったこともあって)。その後、小誌が1回休みしているあいだに、カツセさんは上記の本を出して大ヒット、映画化も決まって...状況激変で超多忙のなか、今号にご寄稿くださったこと大感謝です!
寄稿作〈それでも殴りたい〉は、タイトルにふさわしく「デカイ顎」をめがけた「グー」での一撃、の描写で始まります。しかし読み進めるとほどなく、話の舞台はじつはごく日常的な朝の食卓であることがわかり、さらに〝「グー」での一撃〟に思い至った主人公である「私」の心象も語られて。いやぁ、昨年1月のダイヤモンド・プリンセス号での騒動からずっとこの国が引きずっている諸問題、作品の背景に色濃く漂っています。そして「私」の憤りだけでなく、さらに読み手の心をかき乱すのが、物語のもう一人の主要人物である、「私」の夫の所作と言葉。穏やかな口調であることは伝わってくるものの、その内容が...おっと(←駄洒落じゃないです!)、この先は、ぜひ小誌を手に取ってご確認ください。
私は昨日最低限必要なものを買いに近所のホームセンターへといきました。激しく混んでる。レジに木材を持った男性が並んでいて、そこでも思わず本作の一場面を思い出してしまいましたが、これも、読んでのお楽しみ。カツセさん、つい先日、「明け方の若者たち」に続く新作「夜行秘密」が情報解禁でしたね(双葉社刊/6月30日)。おめでとうございます! またリアルでお目にかかれる日を、コロナ禍の〝「ぶん殴りたい」気持ち〟に耐えつつ、楽しみに。
夫の手元にあるマーガリンを見つめる。マーガリンはその中に含まれるトランス脂肪酸が体に良くないと分かっているのに、この国では平気な顔してスーパーに売られている。体に良くないと分かっているのに、我が家の食卓でも、当たり前のように塗られる。良くないと分かっているのに、そこにある。取り除けないものは、至るところで存在している。
「その木材に、釘を打つわけよ。たくさん」
夫が話を続けている。これは、なんの話だろうか。結婚して四年になるが、いまだに夫の発言は、どこから生まれてどこに向かうのか、検討もつかない。
ウィッチンケア第11号〈それでも殴りたい〉(P022〜P027)より引用
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