小誌第5号からの寄稿者・長谷川町蔵さん。今号での「チーズバーガー・イン・パラダイス」が10作目。物語の舞台はハワイです。ハワイ…私(←発行人)は諸般のしがらみがあって、新婚旅行を彼の地で過ごしました。ほんとうはのんびり自由にあちこち行ったりしたかったのですが、その“諸般のしがらみ”のせいで、到着したらいきなりそうめんのウェルカムランチをツアー客全員で食べなきゃいけなかったり、やたら免税お土産店にいかされたり。でっ、マウイもいけたんですが、そんなパック旅行になっちゃってたんで、どこがなにでどうなんだか…ってな与太話はともかく、編集作業中のやりとりで伺ったところ、長谷川さん、実際に2023年6月にマウイ(とオアフ)に滞在していた、とのこと。であれば、この一篇の顛末は、心に染み入るようなできごとであっただろうとお察し致します。お原稿をいただいたのが今年2月でして、私は何度か旅行や取材で訪ねたことのある、能登半島のことも思い重ねて拝読しました。
作品前半、旅先のクルマで聞くポスト・マローンやストーンズがいつもより魅力的に感じられる描写がありまして、わかるなぁ、とニヤニヤしてしまいました。これは逆のこともありえて、それこそ私、能登先端の禄剛埼灯台(狼煙の灯台)あたりを走行中にスティーリー・ダンをかけていたことがあって、「こいつらダメだなぁ」と思った記憶が。。また音楽がらみですと、中頃に語られている「ラハイナ」にまつわる逸話もおもしろくて。“永ちゃんは風の噂で町の名だけ聞いて曲を作ってしまったにちがいない”…YouTubeで聞いてみて、まったくもって長谷川さんのご指摘通りなのだろう、と納得致しました。ある種のエキゾチカ、なのかな、あの曲は?
ハワイの歴史的な成り立ちなども踏まえた、愛情に満ちた掌編小説。私が紹介したのは音楽にまつわることばかりになってしまいましたが、作品タイトルである「チーズバーガー・イン・パラダイス」というお店も、ストリートの風景も素敵で、主人公である「君」の“近いうちにまたこの場所に来ようと決意する”という気持ちも、すごくわかる。顛末…これは敢えて触れませんので、 みなさま、ぜひ本作を読んで、ご確認のほどお願い致します。
君は一瞬、マウイ島滞在を延長してラハイナ本願寺の盆踊り大会で踊る自分の姿を夢想する。しかし仕事やお金のことを考えてすぐに断念する。さらにワイネエ・ストリートを直進した君は、錆びついたクラシックカーが捨てられている景色に出くわす。車の背後には、何事もオープンなこの島にしては珍しく高い塀が立っていて、中を覗けないようになっている。19世紀、捕鯨基地として栄えていたラハイナの街は、ならず者だらけの鯨取りの蛮行に悩まされていた。ハレ・パアハオと呼ばれるこの施設は、かつて彼らを収容する刑務所だった。
目的地に時間通りに到着できなくなるのを心配した君は見学を諦め、フロント・ストリートに戻ると、今度はラハイナの中心街を逆方向に歩きだす。
~ウィッチンケア第14号掲載〈チーズバーガー・イン・パラダイス〉より引用~
長谷川町蔵さん小誌バックナンバー掲載作品:〈ビッグマックの形をした、とびきり素敵なマクドナルド〉(第4号&《note版ウィッチンケア文庫》)/〈プリンス・アンド・ノイズ〉(第5号)/〈サードウェイブ〉(第6号)/〈New You〉(第7号)/〈三月の水〉(第8号)/〈30年〉(第9号)/〈昏睡状態のガールフレンド〉(第10号)/〈川を渡る〉(第11号)/〈Bon Voyage〉(第12号)/〈ルーフトップ バー〉(第13号)
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