前号(第13号)が初寄稿、今号が2作目となるコメカさん。私(←発行人)はウェブマガジン《生きのびるブックス》で昨年末から続いている批評ユニット・TVODとしてのパンスさんとの往復書簡「白旗を抱きしめて 〈敗北〉サブカル考」を拝読していまして...elderにとっては、たとえば松本人志の捉え方などがとても興味深いのです。なんであの人があんなにエバっていられたのかが、私なりにわかってきたり。そんなコメカさんは東京都国分寺市にある早春書店の店主様でもありまして、先日訪ねたさい、ちょっと早く着いちゃったんでご近所を散策していたら、フジランチというレトロな洋食屋さんを発見。なかなか趣のあるお店だったので、みなさん、国分寺に行ったらぜひフジランチで腹ごしらえをして、早春書店で良書を大量ゲットしましょう! ...それで、コメカさんの寄稿作「工場」ですが、評論作品かと思いきや、なんとご自身が初めて手がけた小説。冒頭部分の“タバコの匂いが染みついた休憩室で作業着に着替え、タイムカードを切る”を読んだ私は、それからしばらくして、えっ!? まさか、こんなところに連れてこられるなんて!! と、ちょっとびっくりしながら読了しました。
ご自身が旧Twitter(現X)で「安っぽいフィクション」と語られていますが(私は「安い」とは全然思いませんでしたが...)、かなり目に手の込んだ舞台設定の作品です。正直に告白しますと、私は最初、その仕掛けに気づかずにトロンとした違和感を持ってしまいました。でっ、お原稿拝受後の御礼メールにて、愚鈍な私はその旨を率直にコメカさんにお伝えしまして、それに対するお返事をいただいて、「なんと! そういうことか!!」になった...mmm、ここはネタバレなしで作品に触れて欲しいので、ダンマリ。
主人公の「田中(おれ)」に絡んでくる「小林」が、なんともうざったいです。糊口をしのぐため、と割り切って工場内の単純作業を選んだ「おれ」にとっては、作業そのものよりも、こうした人間関係の方が負担だったりしそうだな...でもまあ人の世は、どこで生きていたってこういうことと無縁ではいられないだろうし、なんてことを考えさせられながら、物語は衝撃の展開へと向かいます。でも、それでも「おれ」は......。みなさま、結末はぜひ小誌でお確かめください。
「田中さんはここに来る前何してたの?」
休憩時間にへたりこんでいると、小林という年かさの同僚バイトが、タバコを吹かしながら声をかけてきた。伸ばしっぱなしの髪はほとんど白髪になっており、針金のように痩せた腕が作業着から覗いている。
「いや……サラリーマンですよ。普通の」
「営業とかそういうの?」
「まあ、そうですね」
「いや……サラリーマンですよ。普通の」
「営業とかそういうの?」
「まあ、そうですね」
休憩時間にへたりこんでいると、小林という年かさの同僚バイトが、タバコを吹かしながら声をかけてきた。伸ばしっぱなしの髪はほとんど白髪になっており、針金のように痩せた腕が作業着から覗いている。
「いや……サラリーマンですよ。普通の」
「営業とかそういうの?」
「まあ、そうですね」
「いや……サラリーマンですよ。普通の」
「営業とかそういうの?」
「まあ、そうですね」
仕方なく時給で働いているだけのこの場所で、ヤニ臭く小汚い老人にあれこれ身の上を詮索されたくない。顔を伏せて会話を打ち切ろうとしたが、小林はしつこく話しかけてくる。
「何売ってる会社だったの? メーカー?」
答えたくないが、答えないための対応を考えることの方が面倒だ。
「あー……あれですね、ペット用ロボットです」
~ウィッチンケア第14号掲載〈工場〉より引用~
コメカさん小誌バックナンバー掲載作品:〈さようなら、「2010年代」〉 (第13号)
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https://note.com/yoichijerry/n/n08f19b55d090
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