2019/05/03

vol.10寄稿者&作品紹介03 小川たまかさん

昨年7月に初の著書『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』を上梓した小川たまかさん。アマゾンのレビューは現時点(2019年5月3日)で20。熱のこもった長文が多く、読者から共感を得ていることが伝わってきます。また本の発売後、イベントやセミナーなどの登壇者として小川さんのお名前を見ることも、ずいぶん増えた印象。Yahoo! ニュース個人(「小川たまかのたまたま生きてる」)やnoteも頻繁に更新されているし、昨年からは小川さんがライターとして追求しているテーマに関連のある#MeToo運動も大きなうねりになっているし...さて、この時期に小川さんはどんな寄稿作を届けてくれるのか、と私はドキドキしながらお原稿が届くのを待っていました。

小誌第8号掲載作〈強姦用クローンの話〉は、性犯罪についてかなり“直球”で切り込んだ作品。次の第9号掲載作〈寡黙な二人〉は、軽妙さのなかに人間関係の意識のズレを漉かして見せるような作品でした。そして今号での〈心をふさぐ〉。これが、ちょっとすごい! おそらく筆者の視線/スタンスは、『「ほとんどない」こと〜』とも、ネット上の記事とも、まったくぶれていないと思うのですが(以下は「あくまで個人の感想」でいきますが)、とにかく、読後感がとても〈切なかった〉んです。でっ、その切なさはなにに起因するんだろうかとあれこれ考えてみて思い至ったのは、けっきょくこの作品が小説...「そこに書かれていることの是非」が文脈に沿って読まれていく、みたいな形式のテキストから距離を置いた、一篇の物語として読まれるものとしてつくられているからだ、と。いやぁ、私は小川さんの「もの書きとしての懐の深さ」にゾクッとしてしまいました。

作品に登場する「喜田」は印象的。ヒールなんですが、でもとても細やかに、この人物の言動(や背景)が描かれています。いままでの小川さんだと、このような人間を、本作のようには扱わなかったんじゃないかな。へんな言いかたですけれど、作者がこのワルに敢えて寄り添ったから、主人公や他の登場人物や散りばめられた逸話が活きて、結果、そのギャップに嵌まった私はみごとに「切ないな〜」と持っていかれてしまったんではないかと。そして最後に一言。ゲラチェック前段階での本作のエンディングは、ちょっと違った表現でした(もう少しわかりにくくて詩的だった)。私はその箇所が好きで、原稿やりとりで「いいですね〜」と(私なりの表現で)言ったつもりだったんですけれど、そのせいかどうか(編集者がなにを言う/言わない、ってムズカシい)、最終的にはいまのようなかたちで読者に届けることになりまして、それでよかったのかどうかはいまは神のみぞ知るですが、ぜひみなさま、本作を読んでみてご判断くださいませ!



 喜田の部屋は狭いけどいつも片付いていて、私はベッドの上に座ることを促されてもスカートの裾についた汚れが気になる。喜田はアパートの通路側に面した窓のカーテンを閉めてから、両足で私の腰をはさんで倒す。
「お前、肌汚いな」
 中学の頃からのニキビが一向に治らない私は何の反論もできない。こうやって脱がされるとき、ブラジャーやパンツって本当に頼りない薄い布なのだと思う。私が身に着けているものは何一つ私を守ることがない。

ウィッチンケア第10号〈心をふさぐ〉(P012〜P018)より引用

小川たまかさん小誌バックナンバー掲載作品
シモキタウサギ
(第4号)/三軒茶屋 10 years after(第5号)/南の島のカップル(第6号)/夜明けに見る星、その行方(第7号
&《note版ウィッチンケア文庫)/強姦用クローンの話第8号)/〈寡黙な二人〉(第9号)

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Vol.14 Coming! 20240401

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