谷亜ヒロコさんととある場所で知り合ったのは20世紀の終わりごろでして、その時点で谷亜さんはすでに作詞家さんだったのですが、いやぁ、今号への寄稿作を読んで、いろいろびっくりしましたですよ。なんと、すでに10代で作詞を生業としていたとは! でっ、本作ではかなり生々しくバブル当時のおカネの話が記されていまして、出てくる数字、世代によってどう読まれるのか興味津々なんですが、しかしただ傍観者面しているのも失礼なので、私も多少あのころのことを。1980年代後半、私は某出版社がつくってくれた「クリエウティヴ・ディレクター」という肩書きの名刺で広告絡みの仕事をしていました。名刺には雑誌名のロゴがいくつも並んでいて、そのどれでも、見開き(2P)を引き受けると12万円(制作費/経費は別精算)。ページが増えると1Pあたり3万円プラス。谷亜さん、“これ、一ヶ月に2曲やれれば余裕で一人暮らしをして食っていけるなと思った”と書いていますが、私も月に○ページくらいやって食ってた。
2024年の、サブスクでの「作詞の著作権収益」の数字も感慨深いです。“Spotifyだと1再生の作詞の著作権収益は、0・04円ぐらい。1万回再生されたとて、400円の収入だ。1000回再生で40円というのもザラにある”...まさに、タイトルである「フィジカルなき今」の現実。ふと、映画「花束みたいな恋をした」の麦くんがイラストの料金交渉をして「いらすとやさん使うからいいです」と断られたシーンを思い出したりして。いやいや、この先は「AIでやるからいいです」みたいな未来が、すぐそこにある!?
作中の「今や運転免許証やマイナンバーカードなどの証明書がないと、スマホはおろか、銀行口座も作れない。フィジカルがないと、フィジカルなきものを持てない時代」という指摘も鋭いと思いました。まあ、でも、これからはいわゆるデジタル・ネイティヴの人たちが世の中のかたちを整えていくのだと思うので、私も谷亜さんを見習って、世の中から弾き飛ばされないようにいろいろ頑張ってみる所存です(←精神論!)。みなさま、谷亜ヒロコさんの作詞家クロニクル的なエッセイを、ぜひ手に取ってご一読ください。
私の場合、まだまだ人生長そうなので、潜伏生活を送ってはいられない。36年前、作詞の仕事と並行して放送作家の仕事も始めたが、これもバンド時代の友達の紹介があってのこと。この時業界の先輩に教わったのは「フリーランスは、会社員の3倍稼いで、取りっぱぐれたギャラがあっても深追いしないほうがいい」ということ。今、なかなかイケてるフリーランスでも、中高年以上になると3倍は難しい。そして何十年も前に取りっぱぐれたギャラや印税を、私は今でも恨んでいる。昔の常識は何も通用しない。
~ウィッチンケア第14号掲載〈フィジカルなき今〉より引用~
谷亜ヒロコさん小誌バックナンバー掲載作品:〈今どきのオトコノコ〉(第5号&《note版ウィッチンケア文庫》)/〈よくテレビに出ていた私がAV女優になった理由〉(第6号)/〈夢は、OL~カリスマドットコムに憧れて~〉(第7号)/〈捨てられない女〉(第8号)/〈冬でもフラペチーノ〉(第9号)/〈ウラジオストクと養命酒〉(第10号)/〈鷺沼と宮前平へブギー・バック〉(第11号)/〈テレビくんありがとうさようなら〉(第12号)/〈ホス狂いと育児がほぼ同じだった件〉(第13号)
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