「最近の女性エッセイはわりとお行儀が良いんだけれど、この人の作風はエッジがきいていておもしろいですよ」。私(←発行人)の記憶ですのでこの言葉が一字一句この通りだったかどうかはもう思い出せないのですけれども、ある書店の方がそのようなニュアンスで薦めてくださった本が、「シティガール未満」。著者は、えっ!? 〈絶対に終電を逃さない女〉が著者名なの?!?! つい最近、ペンネームで減点された江戸川乱歩賞候補作の話題がありまして、小誌寄稿者・仲俣暁生さんがSNSで“まさに高橋源一郎の「さようなら、ギャングたち」(←これ人名)の世界が来たな、と思う”と書いていましたが、思い返せば同作をリアルタイムで読んで「えっ!? 『中島みゆきソング・ブック』っていう人名はありなの!?!?」と驚いたときと同じようなのインパクトだったな。それで、そんな〈絶対さん〉ですか〈終電さん〉ですか〈逃女さん〉ですかさんなんですが、ginzamag.comのひらりささんとの対談を読むと〈終女さん〉というキャッチーな略称でもOKとのこと。ですので、以後はそれで。でっ、「シティガール未満」…読んでいて、たしかにざわざわと読者に刺さりそうなエピソードも多く選ばれている。でも全篇を貫いているエッジ的なものの真髄は、終女さんが大事にしている一瞬(刹那)なのではないかな、と。記憶の中で美しく咲く目黒川の桜。サイゼリアやモスバーガーでの「ありがとうございます」。「若い女性」という決定的な一言…etc.。
終女さんの今号への寄稿作は「二番目の口約束」。ご自身が初めて発表した掌編小説、とのことです。“ついさっき一番好きな男に好きだと言った口を、二番目に好きな男の唇に重ねていた”と、冒頭から平常心では読み進められないようなざわつく展開。しかしフィジカルな描写に惑わされつつも、身体を重ねている「彼(飯島)」と「私(麦田)」が発する言葉は極めてクールだし、感情も押さえ目。
終盤の、夜の路地裏での二人のある行動が、白眉。いまやすっかり汚れちまった私に、かつてならすぐに気づいたかもしれなかった「ピュアな刹那」を思い出させてくれました。みなさま、ぜひ小誌を手に取って、終女さんの描いた恋愛に身を委ねてみてください!
同じ気持ちになってもらえないと思い知るたびに流れた私の涙は、いつも飯島の裸の胸が受け止めた。白くてすべすべの受け皿だった。
罪悪感はなかった。両想いになれない悲しさよりも愛する喜びが大きく上回っていたからその涙は皿から溢れるほどではなかったはずだし、その受け皿は私だけのものでもなかったからだ。
飯島が暮らす広めのワンルームに置かれたベッドの深緑色のシーツはよく見ると誰かの体液の白いシミで、白い枕カバーは誰かのファンデーションで、いつも汚れていた。その汚れたベッドがちょうどよかった。お互い一番ではないゆえの気楽さこそが、常にこのベッドを暖めていた。
~ウィッチンケア第14号掲載〈二番目の口約束〉より引用~
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