前号で武田砂鉄さんを紹介したのは「偉い人ほどすぐ逃げる」(文藝春秋/2021.5.21)が出る少しまえでしたが、武田さん、その後も刊行が続いて7月には「マチズモを削り取れ」(集英社)、そして12月には責任編集も手掛けた「開局70周年記念 TBSラジオ公式読本」が。公式読本は大充実の内容なのですが、ないものねだりをひとつするとすれば「パーソナリティ・インタビュー」の項でぜひ久米宏と武田さんの対談を実現させてほしかったなぁ、と。もちろんまったく事情を知らない人間の願望ですが、ある世代にとっての永六輔や大沢悠里のように、私の世代は(良くも悪くも)久米宏の発する言葉に反応して歳を重ねてきたもので(いや、短い寄稿文を収録しただけでも凄い!)。...さて、武田さんの今号寄稿作は、もはや不動の「クリーク・ホールディングス 漆原良彦CEOインタビュー」。じつは今回、驚きの事実が発覚しまして。これまで漆原氏はともかく、このインタビュアーは何者なんだろうと思いつつ読んでいたのですが、今作での対談冒頭で、漆原氏が(ごく普通の感じで)「武田さんは、こういう言葉、嫌いでしょうけれど……」と呼びかけていて、えっ〜!? (創作作品と重々理解した上でも)この人「武田さん」という名字なんだ、と。ここで名を明かされてから以後のインタビュアーの質問や反論が、いつもラジオで聞いている武田砂鉄さんの声や口調に、限りなくシンクロしてくるという...。
世情を鑑みて、今回はリモートでの取材。おそらくリモート取材をしまくってこの環境に慣れていそうな「武田さん」、対する漆原さんは「リモートワークを繰り返しながら」とは言うものの、たぶん誰かがセッティングした環境での、受け身体勢でのリアクションだったっぽい。途中で通信障害が起こるのですが、ツッコマれ過ぎて通信障害のことまで弁明のネタにして、さらにやり込められるという...初登場のころの自信に満ちた意味不明トークを思い出すと、すっかりしょぼくれた雰囲気の漆原氏です。クリーク・ホールディングスの行く末が心配。
ネット上にも《「明けない夜はない」というフレーズを嫌うあまり悪態が止まらない武田さんをインタビュイーが宥める一幕が面白かった》という感想が上がっていたりして、やはり読者はインタビュアー=リアル武田さんだと思っているのかもしれず...私は「これは創作」と心得てはいるものの、少なくともアバター的な何者か、くらいに思って読んでもおもしろいんだと言うことに気づいてしまいました。
──そういうものなのかもしれませんけれど、光源を見つけ出すまでの間、暗闇で息絶えるのは、経営者以外の人たちですね。正社員よりも非正規社員が首を切られる。事実、コロナ禍でそうなっていますよね。ずっと夜が明けないのならば、その暗闇を直視すべきでしょう。