第10号(2019年)以来のご寄稿となった野村佑香さん。前作「二人の娘」はまさにお2人目のお嬢様が誕生する寸前まで、私が「原稿の校正をお願いします」などと、いま思い出しても申し訳ない状況で書き上げてくださった一篇でした。そして3年という月日を経て、ときおりSNSなどで拝見する2人のお子さんの写真(プライバシーに配慮されたもの)は、凡庸な感想ですが「どんどんすくすく育ってる!」という...野村さんご自身、3歳でモデル事務所に所属、小学生のときに「ニコラ」やテレビドラマ『木曜の怪談』シリーズに出演していたはずなので、いやあ(これも凡庸な感想ですが)光陰矢のごとし。あっ、今年2月には文春オンラインに野村さんが登場しまして、「チャイドル」時代のことや現在の関心事について語っています。当時の状況について冷静な口調で振り返っていまして、そうか、「アムラー」と「チャイドル」は眉毛で棲み分けていたのか! 超個人的には、雑誌「PANJA」の名前が出てきたのが懐かしかった。映画特集かなにかで関わったことがあったけれど編集会議がものすごく長くて、記事で書くことはその会議でほぼ決まるという...当時他の仕事では「書く内容はおまかせ」的なのが多かったので、けっこう印象的でした。
野村さんの今号への寄稿作「渦中のマザー」...最初にお原稿が届いたときに「なんと凄いタイトルなんだ!」と思いましたが、読んでみたらまさに当事者(母親として)の、まさしく「渦中」のお話でした。2020年初頭から夏頃までの、この先なにが起こるのかわからないまま日々を過ごさねばならなかった不穏な日常生活。個々の生活様式によって抱えた不安も様々だったでしょうが、野村さんは3世代同居家族の中心となって、いわゆる「ステイホーム」を豊かにするための創意工夫を。「緊急事態宣言下の私は〝限られた家の中という空間でどれだけ遊びつくせるか?〟という、母としてのクリエィティブ心に火が付いた」という作中の一節から、決意のほどが伺えます。
パティ活、と表現されている新居内での多彩な遊び。ピクニック、縁日、苺狩り、運動会の競技のようなことまで! 楽しかった体験として描かれていますが、もちろんこの「楽しさ」は、外出もままならないコロナ禍を逆手にとって、ポジティヴシンキングで生み出したもの。メンタルをやられてしまった人も少なくなかったあの時期、渦中の主役として気丈に振る舞っていた野村さんのしなやかなタフさに、ぐっときてしまいました。
そんなこんなで、多少(!?)の怪我もありながら家族がより親密に、良い時間を過ごせたのはコロナのおかげだ。友達や世界中の賢いお母さんたちのSNSのおかげで、アイディアが尽きずいられたのは本当に助かったし、私の勉強になった。また子供たちが授業を受ける年齢に達していなかったので、比較的ストレスが少なかったことも幸運だった。今後さらに柔軟さと対応力を求められる時代を生きなければいけないことを思うと、〝遊び〟を通して喜びや楽しさを創り出す日々は、親だけでなく、子供たちも、そのための基礎体力作りの第一歩になったのではないか、と思う。
〜ウィッチンケア第12号〈渦中のマザー〉(P104〜P107)より引用〜
野村佑香さん小誌バックナンバー掲載作品:〈今日もどこかの空の下〉(第6号)/〈物語のヒツヨウ〉(第7号)/〈32歳のラプソディ イン マタニティ〉(第8号)/〈二人の娘〉(第10号)
【最新の媒体概要が下記で確認できます】