2022/05/03

VOL.12寄稿者&作品紹介10 ジェレミー・ウールズィーさん

数号に1回、他者のお知恵を拝借して寄稿者を決めることがあります。なぜなら、自分だけでいくら「今度は誰に?」と考えても、自分のフィルターバブルの外側にはみ出せないから。今号では木村重樹さんに頼ってジェレミー・ウールズィーさん、そしてすずめ園さんに「書いてください」とお願いしました。もちろん、お名前を伺ってからどんな活動をなさっていらっしゃるのか調べるのですが、とにかくこの方法、「自分では絶対に思いつかない才人」と出会えて楽しいのです。さて、ジェレミーさんは1991年、アメリカのワシントン州シアトル生まれ。東京芸術大学大学院国際芸術創造研究科を卒業後、現在はマサチューセッツ州ボストン近郊の町・サマービルに住み、Harvard University East Asian Languages and Civilizations在学中。日本のサブカルチャーや雑誌について研究しています。あっ、私、ハーバード大学にいったことあります、観光で(キャンパス近くの中古レコード屋でボストンの「Don't Look Back」買ってロブスター食べてみただけ、という...)。



 ジェレミーさんは『美術手帖』の第16回芸術評論募集にて「インターネット民芸の盛衰史」で次席入賞するなど、評論活動もおこなっています。小誌今号への寄稿作はアメリカのPMC(Professional–Managerial Class/知的職業階級)についての歴史と私感をまとめたもの。筆者によると、この呼称は「現代アメリカの政治状況を取り上げる保守系の記事」が、「テック企業やNPO産業に関わる」「エリートかつリベラルな価値観の持つ人を揶揄するために」使われることが多い、とのこと。日本に置き換えて厳密に当てはまるかどうかちょっと確信が持てませんが、いわゆる虎ノ門系なネット・インフルエンサーが一時期、リベラルっぽい学者さんや社会活動家のことを「パヨク」呼ばわりしていた光景を想起させます。

PMCの語源に遡って、ジェレミーさんは私論を展開。混同されやすい「プチブル」との違いを説明し、PMCとは本来「さまざまな専門的な知識を武器にプロレタリアートと資本家の関係を調整」できるポジションの人を指す言葉ではなかったのか、と。学問的考察が続きますが、小誌が専門誌ではなく“なんでもあり”誌だからでしょうか? 冒頭と最終盤にはエッセイ的な「ぼやき」と言いますか、にわかでググった英語だと「mutter」「grumble」みたいなニュアンスが感じられるのがおもしろいです。キーワードになるのは「鶏」...U.S.A.版もののあはれ的な情趣!? ぜひ本書を手に取って、内容をお確かめください!




 20世紀初期のいわゆる革新主義時代に急速に広がった、官僚制に携わる公務員、医者、弁護士などの多岐にわたる職業がPMCに属しており、エーレンライクはこの新階級を、主に二つの対立するグループで構成されていると論じた。一つは所有と経営が完全に分離されていた近代企業の経営者や技術者などが代表とされるグループ、そしてリベラルアーツやサービス部門に関わる専門家のグループ、の二つである。前者は資本主義の合理性を象徴しているのに対して、後者は資本主義による経済発展がもたらすアナーキーに批判的で、これを計画経済によって乗り越えることを訴えていた(このことは大恐慌まで主流派に無視されていたのだが)。

〜ウィッチンケア第12号〈PMCの小史〉(P054〜P057)より引用〜


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Vol.14 Coming! 20240401

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