2022/05/07

VOL.12寄稿者&作品紹介17 蜂本みささん

 蜂本みささんとは仲俣暁生さんを介して知り合い、今号への初寄稿となりました。ジェレミー・ウールズィーさん紹介のさいに書いた「自分では絶対に思いつかない才人」との出会い作戦、ですね。蜂本さんは『たべるのがおそい』の編集長だった西崎憲さん主宰のブンゲイファイトクラブ(BFC)にて、第1回では準優勝、第2回では優勝という実力者。仲俣さんは第1回でのジャッジを引き受け、蜂本さんの「遠吠え教室」という作品を読み大ファンになった、と。早速私も、同作をはじめネットにアップされたいくつかの作品を拝読。「せみころん」「目には見えない光」といった作品にも感銘を受けました。また蜂本さんは大阪府豊中市庄内にあるギャラリー+本とかのお店「犬と街灯」店主・谷脇クリタさん、SF作家の北野勇作さんとともにツイキャスを使った「犬と街灯とラジオ」を配信していまして、そちらのアーカイブも拝聴。ぜひ小誌次号に寄稿していただきたいと思い、連絡をとったのでした。蜂本さん、送付した見本誌やnote版〈ウィッチンケア文庫〉の諸作品も丁寧に読んでくださったようで、OKとのお返事(とくに我妻俊樹さんの「腐葉土の底」は印象的だったご様子)。...そして年が改まり、届いた書き下ろし作が今号に掲載した「イネ科の地上絵」なのです。




約4000字という短さなのに、読み応えとしては90分前後の日本映画をじっくり観たような感じ。高校2年生の1学期〜そろそろ年末、という期間のできごとを、主人公である「おれ」の(ほぼ)1人語りで通しているのですが...学園生活でなら大事件だねということがいくつも起こるし、登場人物もめったやたらと多いし、それなのに「おれ」の体温や心拍数はなにが起きても誰と対峙しても一定なような、不思議な安定感に貫かれていて。...これ、作者の力量なのだと思います。語り部のキャラ設定が秀逸、っていう時点で、すでに物語が煌めいている。

今作を読んで初めて、田んぼアートのことを知りました。グーグルで画像検索しながら再読してみたりすると、「六月の終わり、久々に雨が上が」ったころの、校舎から見えた“地上絵”のインパクトが倍増。そして「女子をかっこいいと思ったのは初めてだった」と「おれ」に言わしめた女子バドミントン部・鴨居の魅力、ぜひ多くの方に読んでもらいたいです。普段はおとなしそうだけど、「獣の威嚇じみ」た笑顔も見せるようで、こちらも秀逸なキャラ設定だなぁ。


 紐が張ってある以上やることはない。みんなバスの時間だからとあわてて帰っていったが、おれと鴨居は明日の準備で居残った。久しぶりに話した。鴨居はやっぱりバド部だった。田んぼ委員になったのは染岡の指示だという。そういえば委員の女子にはバド部が妙に多かった。「部のお荷物は田んぼ委員でもしてろってことだよ。わたし万年補欠だから」「万年って」とおれは笑った。鴨居は笑わなかった。「五年補欠だよ。五年も万年も一緒だよ。染岡はさ」しばらく待ったが続きはなかった。鴨居はナッキーって呼ばないんだな、と思った。

〜ウィッチンケア第12号〈イネ科の地上絵〉(P092〜P096)より引用〜

【最新の媒体概要が下記で確認できます】

https://bit.ly/3vNgnVM

Vol.14 Coming! 20240401

自分の写真
yoichijerryは当ブログ主宰者(個人)がなにかおもしろそうなことをやってみるときの屋号みたいなものです。 http://www.facebook.com/Witchenkare