2016/05/21

vol.7寄稿者&作品紹介26 小川たまかさん

最近はヤフー個人(「Yahoo!ニュース 個人コーナー」が正式名称なのかな)で小川さんの記事を読むことが多く、そこでのご自身のプロフィール欄には<ライター>と記されていますが、読み手側の素朴な印象としては「ジャーナリスト、でもいいのでは?」と感じることもしばしば...いや、文筆業の呼称については書き出すととっても長くなりますので〜、ええと、小誌での小川たまかさんは第4号以来一貫して小説の作者です。

今号への寄稿作、私は↑の仕事とのバランスの中で、フィクションの可能性を探るようにして生まれたのかなと感じました。綿密な取材を踏まえて明確な論旨でレポート/意見表明、というのとは違うやりかたで、でも「書きたいこと」を表現してみる。ご本人がどのくらい意識的だったかは不明ですが、これまでの3作に登場した女性の属性...大雑把に言うと<きちんと働いている女性>という前提、みたいなものは、今作ではすべて取っ払われたまま物語はスタート〜完結します。

主人公は「女」。寝間着を着たり、パジャマに着たり、全裸だったり。<これまで何人かの男や女と寝>る経験をしていたり。生活の端々は見え隠れするのですが、名前すら明かされないのですから年齢(これは見えそうだが隠される)/容姿/職業なんてとてもとても...。あっ、<仰向けで眠ること>ができない、という女の悩みは最初に提示されます、って私の野暮なストラクチャー解説より、ぜひ素で作品を読んでくださいね。

寓話性が高い、しかし決してある種のメルヘン、みたいな流れには向かず、ちょっと苦いがとてもハッピーな気持ちになれる...私が一番印象に残った一節は<ぷちりと。女は慌てるでもなく、人差し指で男の腹をつついた>。比喩的な表現ではありますが、これを許す/許される人間関係のきっかけが、なんとも美しい逸話なのでした!



 驚いたのは、寝ているときの表情だ。みんな健やかな顔をしている。微笑を浮かべている者さえある。そしてすっきりとした顔で起き、爽やかに「おはよう」と言い、家に招いた方がコーヒーを淹れて、飲み終わったら別れた。誰からも二度と連絡が来ることはなかった。
 朝が来て昼が過ぎ、夜になる。いつしか春が夏に変わり、夏に秋が近づき、秋を冬が覆う。一年、もう一年が過ぎるうちに、女はやがて自分の年齢を忘れた。無理に人を誘って寝ることも、人の誘いに乗ることも、いつの間にかやめていた。親兄弟も遠くで満足に暮らしていると聞くだけで、心を揺らすことはない。一日一日をただそのまま見送ることに慣れ始めていた。上を向いて寝ることへの願望も今は薄れ、遠くで輝く星のようにただ眺めるだけになった。

ウィッチンケア第7号「夜明けに見る星、その行方」(P154〜P157)より引用
http://yoichijerry.tumblr.com/post/143628554368/witchenkare-vol7
小川たまかさん小誌バックナンバー掲載作
シモキタウサギ」(第4号)/「三軒茶屋 10 years after」(第5号)/「南の島のカップル」(第6号)
http://amzn.to/1BeVT7Y

Vol.14 Coming! 20240401

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