美馬さんの寄稿作はいつも「白衣をまとった理科の先生が試験官を振り、しばし中身を目視」のようなクールさが漂い...主人公の女性は作者から距離を置かれ、観察結果レポートのように、物語の中で辛い目に遭います。今作でのサワコさんは〝小悪魔〟っぽい自分を体現したくて社内のハンサム君(トオル)と付き合い〝どS〟振る舞いをしてみたものの...。
最初にタイトルを見たとき、私はN=普通だと思って読み始めました(無知!)。作中には<飲み会でしばしば繰り広げられる「SかMか」談義>とありまして、えっ、そんな話しながら盛り上がって酔ったら、サワコとトオルみたいに実証したくなったり〜、って、あっ、いいのか、合コンとかなら。じつは私「合コン」って一度も参加したことがないので、ちょっと検索。世代的に「コンパ」は普通にあった(「新歓コンパ」「追いコン」とか)けどポパイやHDP買ったことない学生だったし、<1970年代、「合コン」は相手を見つけるという目的は露骨ではなかったが、1980年代は、相手を見つけることがより切迫した課題になっていく。「ねるとん」はその象徴である>...なるほど、流行り初めてはいたけど、お呼びが掛からなかったんだな。
仕事でお笑いさんの解説、みたいなときに<○○というコンビの芸風はツッコミ●●のS性が...>といった分析をその筋の識者に伺い、すごく納得したことがありました。この場合は<見せる芸>として演じていても、その根幹にあるのは個々の人間性としてのSやMだと(作者も<人間関係の、特に“ねじれ”の部分にとても興味があ>るようです)。そして本作を読んで、さて自分は? まあ、オレもNだろうなと。あはは、美馬さんが試験官を振ると、読者も観察されちゃうんですね。ぜひみなさんも観察されてください(って、Mかw)。
相変わらず多忙そうな美馬さんですが、今作執筆と同時期に編集担当された『「ビートルズと日本」熱狂の記録 ~新聞、テレビ、週刊誌、ラジオが伝えた「ビートルズ現象」のすべて』(大村亨 著)がアマゾンでも☆☆☆☆☆ずらり、と話題です。こちらもぜひ、ご一読のほどを!
サワコにとって、これまで恋愛とは「相手に尽くしてなんぼ」のものだった。真心を示せば、それに見合った愛情という名の対価がかえってくる〝ギヴ&テイク〟の関係。だが、そう信じて尽くしたところで、大抵の男はこちらが与えた分さえまともに返してくれない。なのにトオルは尽くされるよりも尽くすことが好きな性分らしく、あまつさえ、サワコがワガママを言えば言うほど「そこがカワイイ」と喜ぶのだ。〝どM〟の彼氏、最高である。
かくして増長、という言葉が正しいかはわからないが、「特別な存在」として扱われることに慣れたサワコの〝小悪魔プレイ〟が段々にエスカレートしていくのは当たり前のことだった。
この間は「ホワイトデーだからお返し、ちょうだい♡」と、トオルをジュエリー・ショップに引き込んで3万2000円もするピアスを買わせた。
ウィッチンケア第7号「MとNの間」(P129〜P133)より引用
http://yoichijerry.tumblr.com/post/143628554368/witchenkare-vol7
美馬亜貴子さん小誌バックナンバー掲載作
「ワカコさんの窓」(第5号)/「二十一世紀鋼鉄の女」(第6号)
http://amzn.to/1BeVT7Y
Vol.14 Coming! 20240401
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