2018/05/27

vol.9寄稿者&作品紹介30 久保憲司さん

久保憲司さんの小誌今号への寄稿作「耳鳴り」は、以下のような一節から始まります。<同人誌にコツコツと小説を書いていたら、『スキゾマニア』という本になった。子供の頃の夢の一つが「小説家になる」だったから、食えてないとしても嬉しいことだ>。思い返せば、久保さんの最初の小説「僕と川崎さん」が小誌に掲載されたのは、2012年4月発行の第3号でした。震災の翌年、民主党・野田佳彦首相の時代(この年の11月から現在までずっと安倍政権...)。短くはない時間の積み重ねが書籍というかたちになって世に出たこと、私も発行人として嬉しい限りです。

今作には、その『スキゾマニア』にも収録された「80 Eighties」での逸話がより詳しく語られています。関学の野外ライブで、町田町蔵(現在の町田康さん)に怒られた話。<そりゃ布袋さんと喧嘩するわと思う>なんて、ちょっと揶揄するようなことも書いていますが、作品全体を読むと、いかに<俺>が町田さんをリスペクトしているか伝わってきます。...しかし<俺>、昨年の青山ブックセンターでの長谷川町蔵さんとの対談の翌朝、<NHKの方に歩いていくと、町田康さんが僕の横を通りすぎた>って、そんな奇遇なことが! 詳しくは、ぜひ小誌を手にとってお確かめください。

嫁のつくった黒い焼きそばを食べている最中に、突然始まった耳鳴り。キーンという音のなかで、<俺>は革命を夢見ます。「日本の借金1000兆円とか騙されるな」「俺たちはついに金のなる木を手に入れたのだ」「インフレ率2%まではマネタリーベースを増やすことができるのだ」等々、いろんな人たちに説いて回りたくなる。町田さんの話から世界経済へと飛躍していって、いったいこの一篇はどこに着地するんだろう、というジェットコースター的展開ですが、最後には「なるほど」と、アクロバット的に耳鳴りとの関連性が明らかになり、そして安倍晋三首相まで登場...ああ、耳鳴りだけでなく目眩もしそうだ。

もうひとつ。作品の中盤に出てくる、<俺>がポラロイドを見せられた逸話も印象深いです。「でもあれ、全部やった男の写真やろ」と<ロッキング・オンの山崎さん>に言われて、<俺はそういうのに全部疎かったから、ああそういうことかとびっくりした>と。この<そういうの><そういうこと>について、もう少し詳しく教えてほしいなぁ、と思ったのでした。なんとなくわかるような気もするんだけれど、でも私も<疎>いもんで。久保さん、機会があればぜひぜひ!



 そんな俺だが、唯一の自慢は昔バンドをやっていた頃に、町田さんから怒られたことがあるということだ。俺が17歳、町田さんが19歳くらいの頃である。先日自分がやっていたバンドのベース(元カノ)と久々にツイッターで喋り交流を再開した。その人は今、京都精華大学で教えているので、俺にも職の口がないかと相談しにいったときに、「あんた昔、町田さんに怒られたことあるよな」と言われた。俺はまったく記憶になかったので、「エッ、どういうこと」て訊くと、関学の学園祭で町田さんがやっていたINUというバンドを見たとき、ライブ終わりに挨拶をしにいったら、「お前か俺のモノマネをしている奴は」と怒られてたよ、と言うのだ。たしかにその頃の俺はリザードというニュー・ウェィブ・パンク・バンドのモモヨさんの歌い方から、町蔵さんのようなセックス・ピストルズのジョニー・ロットンを新世界のチンピラ風にした歌い方に変えていた。「町蔵さんに怒られて、俺どうしてたん、俺キレたん?」と訊くと、「ヘラヘラしてたよ」と言う。たしかに俺の性格だと「あっ、そうなんです。真似さしてもらってます。どうもすいません。ハ、ハ、ハ、ハ、ハ」と笑ってそうだ。

ウィッチンケア第9号「耳鳴り」(P188〜P191)より引用
goo.gl/QfxPxf

久保憲司さん小誌バックナンバー掲載作品
僕と川崎さん」(第3号)/「川崎さんとカムジャタン」(第4号)/「デモごっこ」(第5号&《note版ウィッチンケア文庫》)/「スキゾマニア」(第6号)/「80 Eighties」(第7号)/「いいね。」(第8号)

http://amzn.to/1BeVT7Y

Vol.14 Coming! 20240401

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