2017/01/24

久保憲司さんと長谷川町蔵さんの新刊について

まもなく(1/27)、久保憲司さん、長谷川町蔵さんの初小説集がタバブックスより2冊同時刊行されます。久保さんとウィツチンケアとは第3号(2012年)、長谷川さんとは第4号(2013年)からのおつきあいで、毎号書き下ろし小説を寄稿していただきました。今回の本は、これまで書き溜めたものをベースに新たな書き下ろしを加えて再構成したもの。どちらも小誌掲載時とはまったく違った印象の作品になっています。

あっ、書名には<ウィッチンケア文庫>と冠されていまして、01が長谷川さん、02が久保さんですが、これは私が編集担当作業をしていた際、久保さんより長谷川さんの方がタッチの差で原稿を早く渡してくれたのでその順番になった、と。...とにかく、ここではちょっと横道から、お二人の本を紹介してみます。

01「あたしたちの未来はきっと」 長谷川町蔵



作品誕生のきっかけは、長谷川さんのブログに詳しくまとめられています。ご自身のブログ内で発表した「あたしの少女時代」と、小誌に掲載された4作のうち3作、さらに6作の未発表新作からなる、東京都町田市を舞台にした少女たちの物語。なお本書に掲載されなかった「ビッグマックの形をした、とびきり素敵なマクドナルド」はネット上のnote版ウィッチンケア文庫で読むことができます。

昨日ツイッターで@du_booksさんが<『ヤング・アダルトU.S.A.』長谷川町蔵さんの新刊! アメリカ学園映画、YAカルチャーの分析&批評から、ついに青春小説の創作へと!町田が舞台のサバ―ビア小説?>とコメントしていました。
https://twitter.com/du_books/status/823439943498272768

私もそう思います。本書の紹介文には<映画・音楽コラムの名手が初めて描く青春群像小説>と書かれていまして、もちろん青春小説としてもおもしろいのですが、映画と音楽に造詣の深い長谷川さんが、その知識を駆使して実践に移した...敢えて現代の少女を主人公に設定し、ご自身のホームタウン町田を舞台に、郊外(サバービア)な群像劇を展開してみた、という実験性にもぜひ注目してみてください。敢えて多過ぎる(?)登場人物の緻密な因果関係、敢えてジャンルを超えて選曲された音楽の意味等、謎解きも楽しい小説です。

★長谷川さんの小誌過去掲載作は下記URLから辿れます!
http://witchenkare.blogspot.jp/2016/05/vol702.html

02「スキゾマニア」 久保憲司



小説の語り部「僕」はクボケンさんと呼ばれていることもあり、書き手の自伝的要素も少なからず含まれていそうですが、でも「うそかまことかわからない」部分も多くて、不思議な味わい。小誌に掲載された5作に、あらたにやや長めの2作の未発表新作を加え、1980年代から現在までを社会とコミットしながら語ったアクティブな物語です。なお掲載作のひとつ「デモごっこ」はネット上のnote版ウィッチンケア文庫で読むことができます。

先日ツイッターで@nack_dさんが<にしてもクボケンさんの言語感覚はすさまじいな。サーストン・ムーアというか>とコメントしていました。
https://twitter.com/nack_d/status/820946594996490245

私もそう思います。久保さんの作品の語り口には独特の閃きのようなものがあって、しかもそれはほんとに代えが利かない...ちょっと、「クボケンさん」が発しなければスパークしないようなフレーズが多いのです。政治や社会に対する激しい言葉、あるいは仲間に対する悪ふざけのような言葉も、主人公のキャラクターがあればこそ、なんだなあ、と。本書について久保さんはご自身で<どうか僕を久保人生にしてください>とツイートしていましたが...某作家さん名を踏まえているんだろうこの軽妙なつぶやきとか、なんでぱっと思いつくのでしょうか!?

★久保さんの小誌過去掲載作は下記URLから辿れます!
http://witchenkare.blogspot.jp/2016/05/vol735.html

両書について、発行元のタバブックスがtumblrの特設サイトを開設。作品の一部が試し読みできます。みなさまぜひ、アクセスしてみてください!

https://wtkbunko.tumblr.com


2016/12/31

第8号、そして書籍版<ウィッチンケア文庫>も

東京は好天の年末ですが、私はまさかの風邪っ引き。昨日の午後は熱にうなされすっかり寝込んでました。いやあ、一昨日の夕方、上町〜経堂を薄着のまま徒歩ショートカットしたのが発熱のトリガー? ちゃんと世田谷線二駅、小田急線一駅を温かく移動すればこんなことにならなかったかも。

宮坂のたこ焼き屋さんから肉のおざわに向かって吹き晒しの道を歩きながらそういえばむかしこのへんで三谷幸喜とすれ違ったっけ、なんてことを思い出しました。私が「あっ、三谷幸喜だ」みたいな目を向けたら「『あっ、三谷幸喜だ』みたいな目でオレを見るんじゃねぇよ」みたいな目で見返されましたが...もし今年だったら「真田丸おもしろかったです!」と声かけたかったです。

さて、ウィッチンケア第8号。来年も4月1日に発行します。新たな寄稿者も数名加わり、さらにヴァージョン・アップした内容になるはずですので、みなさまどうぞ御期待ください!

そしてVUといえば、来年(明日からじゃん...)は現在noteを媒体としている<ウィッチンケア文庫>も、より多彩になります。ネットver.に加えて単行本(と電子書籍)ver.も。1人出版者(not社)の私には無理かと思われた展開ですが、近年『かなわない』(植本一子著)『はたらかないで、たらふく食べたい  「生の負債」からの解放宣言』(栗原康著)といった話題の本を出版しているタバブックスさんからお声がかかり実現することとなりました。

2017年1月27日、長谷川町蔵さんの『あたしたちの未来はきっと』と久保憲司さんの『スキゾマニア』が2冊同時刊行。


どちらも小誌BNへの掲載作が礎ですが、さらなる書き下ろし/大幅加筆修正が施され、掲載時とはまったく違った印象の本になるはずです!

...というわけで、取り急ぎ年末のご報告。まずは風邪をしっかり治し、録り溜めた「真田丸」の総集編や読みかけの本とともに穏やかな正月を過ごします。みなさまも、どうぞよい新年を。そして来年のウィッチンケアに注目してください!

2016/06/01

ウィッチンケア第7号のまとめ

Witchenkare vol.7(ウィッチンケア第7号)
★寄稿者38名(37篇)の書き下ろし作品を掲載した文芸創作誌

発行日:2016年4月1日
出版者(not社):yoichijerry(よいちじぇりー)
A5判:218ページ/定価 1,000円(+税)
ISBN: 978-4-86538-047-7 C0095 ¥1000E

http://www.facebook.com/Witchenkare
https://twitter.com/Witchenkare


CONTENTS
004……武田 徹「寄る辺なさ」の確認
010……長谷川町蔵New You
018……インベカヲリ★目撃する他者
022……矢野利裕詩的教育論(いとうせいこうに対する疑念から)
028……ナカムラクニオ大六野礼子断片小説 La littérature fragmentaire
036……姫乃たまそば屋の平吉
042……柳瀬博一国道16号線は漫画である。『SEX』と『ヨコハマ買い出し紀行』と米軍と縄文と
048……朝井麻由美無駄。
052……武田砂鉄クリーク・ホールディングス 漆原良彦CEOインタビュー
058……太田 豊日々から日々へ
068……野村佑香物語のヒツヨウ
074……木村重樹映画の中の〝ここではないどこか〟[悪場所篇]
078……オオクボキイチまばゆい光の向こうにあるもの
088……中野 純金の骨とナイトスキップ
094……三浦恵美子草木の身体感覚について
098……多田洋一午後四時の過ごしかた
104……古川美穂夢見る菊蔵の昼と夜
110……かとうちあき似合うとか似合わないとかじゃないんです、わたしが帽子をかぶるのは
116……我妻俊樹宇宙人は存在する
122……久禮亮太鈴木さんのこと
128……美馬亜貴子MとNの間
134……木原 正ビートルソングスは発明か?
138……出門みずよ白金台天神坂奇譚
144……東間 嶺死んでいないわたしは(が)今日も他人
150……吉田亮人写真家の存在
154……小川たまか夜明けに見る星、その行方
158……辻本 力健康と耳栓と音楽
162……友田 聡独楽の軸からの眺め
166……西牟田 靖30年後の謝罪
172……藤森陽子小僧さんに会いに
176……大西寿男長柄橋の奇跡
180……荒木優太宮本百合子「雲母片」小論
184……谷亜ヒロコ夢は、OL〜カリスマドットコムに憧れて〜
188……円堂都司昭『オペラ座の怪人』の仮面舞踏会
194……久保憲司80 Eighties
200……仲俣暁生夏は「北しなの線」に乗って 〜旧牟礼村・初訪問記
208……開沼 博ゼロ年代に見てきた風景 パート3
214……参加者のプロフィール

※下記URLをクリックすると、小誌の内容がダイジェストで読めます。
http://witchenkare.blogspot.jp/2016/03/blog-post_20.html
※発売前後関係者etc.のTwitterまとめ
http://togetter.com/li/960345

写真:徳吉久
アートディレクション:吉永昌生
校正:大西寿男
編集/発行:多田洋一
取次:株式会社JRC(人文・社会科学書流通センター)
http://www.jrc-book.com/list/yoichijerry.html

※小誌は全国の主要書店でお取り扱い可能/お買い求めいただけます(見つからない場合は上記ISBNナンバーでお問い合わせください)。
★【書店関係の皆様へ】ウィッチンケアは(株)JRCを介して全国の書店での取り扱い可能。最新号だけでなくBNも下記URLのPDF書類で注文できます。
http://www.jrc-book.com/order%20seet/yoichi/yoichijerry.pdf
http://www.jrc-book.com/list/yoichijerry.html  
※BNも含めamazonでも発売中!
http://amzn.to/1BeVT7Y

2016/05/31

アルバムって覚えてる?(第7号編集後記)

まる1ヶ月かけて「カモメの7号」37篇の掲載作品を紹介し終えました。第6号のときは<おまけ>のノベライズを書きましたが、今号では<つかみ>で先手打っちゃったし...まあ、ふつうに。

今晩は港区赤坂にある双子のライオン堂さんにてイベントがあります。店主の竹田信弥さんは小誌に理解を示してくださり、ありがたい限り。対談するのは人と本屋のインタビュー誌『HAB』編集人/H.A.Bookstoreの松井祐輔さんで、最新号を読んでいたら、小誌2〜3号の頃一緒に書店まわりをしてくださったツバメ出版流通・川人さんが登場してびっくり! 世の中は広いようだがどこかでどこかがどこかと繋がってできている。そして私は久禮亮太さんの寄稿作紹介でも書いたように長らく「ダム近辺」に棲息していたので、お話が伺えることとっても楽しみです!

5/31(火)19:30〜『Witchenkare』×『HAB』<リアル編集後記2>
http://liondo.jp/?p=857

多くの新しい書店さんとの取り扱いが始まったり、これまでお取り扱いいただいてきたお店の方ともあらためていろいろなお話ができた、第7号であります(現在進行形!)。おかげさまで拙宅の在庫も残り少なく...いまのペースでより多くの方の手に届くこと、発行人として強く願います。

年初にデヴィッド・ボウイが★になり、そろそろ今年も寄稿作紹介を、という頃に今度はプリンスが。悲しいですが、しかしオレんちの壁面の少なくないスペースを占めている作品はstill matterです。

昨年のグラミー賞「最優秀アルバム賞」でプレゼンターだったプリンスは、壇上で「Albums, Remember Those? Albums still matter. Like books and black lives, albums still matter/アルバムって皆覚えてるかい? アルバムはまだ大事だ。本とか黒人の命と同じようにアルバムって重要なんだよ」とスピーチしたとか(http://goo.gl/ADwWicより)。

発行人は小誌をプリンスが言っているような意味での<アルバム>だと思っています。2016年の春に、寄稿者38名と写真家の徳吉久さん、デザイナーの吉永昌生さん、校正/組版の大西寿男さんと一緒に、紙のメディアとしてつくったアルバム(誌)。掲載作ひとつひとつは独立性/拡張性が高いのでコンピレーション・アルバムに近いですが、それでもたんなる「寄せ集め」ではなく、各々が新たな方向性を探ってみるような、チャレンジングな一篇を書き下ろし、それらを編集してこのかたちにまとめたもの。

明日、<第7号のまとめ>をアップ予定です。紹介文内の私の戯言はともかく、ぜひ各寄稿作の引用部分を、多くの方に読んでいただきたいです。そして「カモメの7号」をぜひ書店で手にとって...買って読んでくださいね!


2016/05/30

vol.7寄稿者&作品紹介37 開沼博さん

小誌今号のしんがりは開沼博さんに勤めていただきました。寄稿作は「ゼロ年代に〜」のパート3。初めて寄稿していただいたさいはまだ「アラテン(around 2010)」でちょっと前の話のような気がしていましたが、次回東京オリンピックが射程に入った感もある今年からすると、遠くはないが近いとも言えない。タマちゃん、ベッカム様、ちょいモテオヤジ、鈍感力...<失われた20年>なんて言い方からもずいぶんはみ出してきちゃったし。

今作には、ある意味でゼロ年代をもっとも象徴するような企業の逸話も登場します。<失われ>ているはずなのに<いざなみ景気>と名付けられた、小渕総理が急死してから自民党が野党に転落するあたりまでの時代。開沼さんはパート1(第5号)で予言的なことを書いていまして、ちょっと長いけど引用しますと...<いわゆる論壇の中で「ゼロ年代」と言えば、少なからぬ人が東浩紀さんや宇野常寛さん、濱野智史さんらが中心となって作品を生み出してきた情報社会論・コンテンツ論系の議論を思い浮かべるだろう。あるいは、歴史認識論争の末期や9・11からイラク戦争に向かう流れ、小泉政治や北朝鮮問題といった断続的に起こってきた個別の議論を上げる人もいるかもしれない>。そして、それを受けて<しかし、おそらく、そうではない「ゼロ年代」があるのではないかと私は思っている>と。

今作にも開沼さんが実際に見てきた、この時代の煌めいた(しかし歪んでいる!?)風景が描写されていますが、それだけではなく、パート1で漠然と感じていた<そうではない「ゼロ年代」>の気配が、具体的な言葉で考察され始めています。これも1からの引用ですが、<その後に既にやってきている現代を詳細に読み解く鍵が眠っているのではないかと感じている>と直感で捉えていたものの正体を、露わにし始めているような。

じつは今作での、最初の原稿やりとりで、私の能力では開沼さんの意図を読み切れない箇所がありました。P212の下段の<理念やイメージを表面的に語る既得権益者の欺瞞を告発し、リアリズムと対峙する中に、社会の閉塞感の解消が模索される>。もう少し詳しく、とお願いしてその前段に<「反戦」でも「弱者を守れ」でもいい。>との一文を追加していただけたので、読み解く鍵はさらに1行前の<「現代らしさ」が淡々と進んでいった>だと判断して理解した(したはず?)のですが...<淡々と進んでいった>ものごとに自身を最適化した人々が、いまの社会で働き盛りの世代にいるんだな。開沼さんのこの考察を、ぜひ多くの方に読んでいただきたいと願っています!



(前略〜)合理性と成果主義、個人の利害の最大化を皆が目指すことの何が悪いのか。それこそが社会の進展にもつながる。そんな上気した感覚があった。それは、リーマン・ショック以降も通奏低音のように続き様々な形で社会を規定していった。いまにも続く何かなのかもしれない。
 小泉純一郎が大衆的な支持を保ちながら5年5か月の総理大臣を務め上げたのが2006年。赤木智弘さんが2007年1月の月刊「論座」に寄稿した〝「丸山眞男」をひっぱたきたい──31歳、フリーター。希望は、戦争。〟が話題になり、ロスジェネ論壇と呼ばれるムーブメントが起こる一方、2008年には橋下徹が38歳で大阪府知事になり活動をはじめる。それら、あるいはその影にあった様々な新しい社会現象を「ネオリベ」「ポピュリズム」というありものの言葉で語ることは、確かに正しいのだが、その先に待っていた「現代らしさ」が淡々と進んでいったのも確かだった。「反戦」でも「弱者を守れ」でもいい。理念やイメージを表面的に語る既得権益者の欺瞞を告発し、リアリズムと対峙する中に、社会の閉塞感の解消が模索される。

ウィッチンケア第7号「ゼロ年代に見てきた風景 パート3」(P208〜P212)より引用
http://yoichijerry.tumblr.com/post/143628554368/witchenkare-vol7
開沼博さん小誌バックナンバー掲載作
ゼロ年代に見てきた風景 パート1」(第5号)/「ゼロ年代に見てきた風景 パート2」(第6号)
http://amzn.to/1BeVT7Y

Vol.7 Coming! 20160401

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