2024/03/31

ふてき(ノベライズ・ウィッチンケア第14号)

   ほら、今年もちゃんと「きちゃった」してますから。(9回連続)

……あのねぇ。キミがこうして来るようになって、そろそろ10年なんですけれど。

「それがなに? お待ちどおさま。今年もできたよ、ウィッチンケア第14号。持ってきたんだから、ちゃんと読んでね」

 そう言って彼女は微笑み、真っ白なスニーカーが表紙の本を差し出す。

「いや、その、あの……そろそろ10年ってことは、当然キミもそれだけ歳をとったわけで」

「だから、それがなに? 言いたいことあるなら言ってみれば?」

「...つまり、こんなこといつまでも続けてると、お嫁に行けなくなっちゃわないか、なんて」

「令和6年。不適切にもほどがある。いまの発言、ネットに拡散しとく」

「すっ、すいません」

「しょうがないなあ。じゃ、いまのはここだけの話にしてあげるから、とにかく第14号、隅から隅までしっかり読むように」

「わかりました。でっ、あのぅ、もし読まなかったら今年も?」

「殺す。比喩じゃなく」

○□眼鏡が似合いそうな笑顔を見せて、彼女は去った。僕はウィッチンケア第14号をじっくり読み始める。




表紙、赤いドットのソックスがいい感じだ。ロゴと号数の配置は前々号から安定していて、エディトリアル・デザインを手がける太田明日香の美意識を、発行人が気に入っているに違いない。ちなみに第10号まで表1に配されていた《すすめ、インディーズ文芸創作誌!》というキャッチみたいなのは、今号でも見当たらず。風の噂では発行人が「『インディーズ』とか『オルタナティヴ』とかいう意識がいつのまにかなくなっちゃったんで」みたいなことを宣っていた、とか。


ページを繰ると、ロゴだけのシンプルな扉に続いて、おお、少女の写真と片起こしの「もくじ」。次ページにも見開きの「もくじ」が続く。作品名より人の名前が上なのは、創刊以来変わっていなくて...しかし「もくじ」に3ページを割くとは! と寄稿者数を確かめると42名。第12号と同数なのだが、あの号では2段組み1見開きだけだったから、この変化には発行人のなにがしかの意思が感じ取れる。


そして、次の見開き。なんだ、この不思議な風景は! 思わずピンク・フロイドの「原子心母」かThe KLFの「Chill Out」か、などとイミフなことを呟いてしまいそうになったが、それはまあいいとして、この世界観の源は、今号のヴィジュアルイメージを支配している写真家・張子璇の作風。彼女については2024年3月16日にアップした《写真家・張 子璇さんについて》に目を通してもらうのが一番だと思う。なお、今号は本文のインクの乗りがかなり良いので、この写真を見る際には次見開きとの間にちょいと小指を挟んだりして浮かせてみると、チル度がマシマシになる(チップス)。



今号のトップは谷亜ヒロコ。作詞家としての、サブスク時代の真実が赤裸々に語られている。続いて今回初寄稿の鶴見済。花を愛でる...いや、これは実験なのではないかと自問する、壮大なスケールのエッセイ。次も初寄稿の古賀及子が初の小説を...親戚の失踪について語る「私」の人生も、かなりヒリヒリする。木村重樹は、前号で語りきれなかった鬼畜系について、さらに踏み込んだ一篇を。初寄稿となるオルタナ旧市街はエッセイのような小説のような、風変わりなご近所さんについての話を。我妻俊樹の今号への小説は、あっ、わかりやすいぞ前作より。トミヤマユキコの一篇は、タイトルに付いている「み」が味わい深い。初寄稿となる九龍ジョーの小説の、颯爽としたいかがわしさがスタイリッシュ。次も初寄稿の内山結愛は、散歩に関するエッセイ...「ハード散歩」という言葉が鮮烈! 長谷川町蔵は、自身にとって忘れ得ぬ場所への喪失感を綴った。小川たまかは、世間で評判の映画を独自の視点で考察した。コメカの不思議な近未来小説は、メトロン星人が出てきても驚かないかも? 初寄稿の星野文月が描いたのは、親密な友達のある秘密について。武田砂鉄の疑似インタビューは、なんと芥川賞作品がらみの展開。初寄稿の絶対に終電を逃さない女は、自身初となる小説を...これは純愛、それとも...。武田徹は、詩を切り口に立花隆の意外な一面に迫った。初寄稿となる3月クララの小説には、地球の存亡がかかっている!? 加藤一陽の身辺雑記は、ちょっと穏やかならぬ日常について。木俣冬は自分のルーツを探るようなエッセイを。初寄稿となる稲葉将樹は名盤「ナイトフライ」についての、独自の解釈による考察を。次も初寄稿となる武塙麻衣子の小説は、美容室を舞台にした不思議な一篇。発行人・多田洋一は、恥ずかしげもなく大失恋小説を。宇野津暢子は、大好きな武田砂鉄作品のパスティーシュ。中野純は音に対する敏感さで「うるさい」への提言を。すずめ園は、仮想旅行に自由律俳句をブレンドした作品。仲俣暁生は長く住んだ町・下北沢についての思い出を語った。藤森陽子は、亡き夫への追悼の一篇。武藤充はホームタウン東京都町田市について、他では知り得ない逸話を。朝井麻由美はテレビについての愛憎交わる複雑な心情を綴った。宮崎智之は「寂しさ」について、自身の読書体験からの考察を。野村佑香は、10年前の旅行体験を今の視点から振り返る。柳瀬博一は著書『カワセミ都市トーキョー: 「幻の鳥」はなぜ高級住宅街で暮らすのか』を踏まえて、さらに都市論的な論考を。吉田亮人は、訪韓の際に実感したことを率直に語った。美馬亜貴子の小説は、「僕」と海外からの研修生との交流を描いた作品。久禮亮太は開店1周年を迎えた自身の書店について。かとうちあきは自分だけの風呂についての、ちょっと衝撃的な提案も。清水伸宏の小説はエレベーターの階ごとに忌まわしい過去が、何故? ふくだりょうこはかなり怖い日常の近未来像を小説で描いた。荻原魚雷は散歩しながらの思索...視点が文学的だ。蜂本みさの「バイツアート」...なんと壮絶なバトル芸術! 東間嶺はインターネットと世界の関係を小説に。久保憲司はチャットGPTの正体を独自の解釈で見抜いてみせる。  


42篇の書き下ろし後に、今号に関わった人のVOICEを掲載。その後にバックナンバー(創刊号~第13号)を紹介。QRコードが付いているのでWitchenkare STOREでその場で購入できるとは、世の中便利になったものだ。……こんなに読み応えのある本が、じつはまた少し値上げして(本体:1,800円+税)でして、みなさまごめんなさい。諸物価高騰のおり、小誌を続けていくためのこととご理解くだされば嬉しく存じます。


それで、今回もまた繰り返すしかないのだが「ウィッチンケア」とは、なんともややこしい名前の本だ。とくに「ィ」と「ッ」が小文字なのは、書き間違いやすく検索などでも一苦労だろう。<ウッチンケア><ウイッチンケア><ウッチン・ケア>...まあ、漫才のサンドウィッチマンも<サンドイッチマン>ってよく書かれていそうだし、そもそも発刊時に「いままでなかった言葉の誌名にしよう」と思い立った発行人のせいなのだから...初志貫徹しかないだろう。「名前変えたら?」というアドバイスは、ありがたく「聞くだけ」にしておけばよい。


そしてそもそも「ウィッチンケア」とは「Kitchenware」の「k」と「W」を入れ替えたものなのだが、そのキッチンウェアはプリファブ・スプラウトが初めてアルバムを出した「Kitchenware Record」に由来する、と。やはりこのことは重ねて述べておきたい、とだんだん話が袋小路に陥ってきた(というか、いつも同じ)なので、このへんにて。


2024/03/16

写真家・張 子璇さんについて



今号の表紙を含むすべての写真は上海にお住まいの、Kosenさんこと張子璇(Zhang Zixuan/カタカナ表記だとツァン・ツシェン)さんの作品です。


小誌は第9号以降、寄稿作(テキスト)以外のほぼすべてが写真家の作品発表スペース(紙のギャラリー)となるようなレイアウトに変更しました。vol.9の菅野恒平さん、vol.10の長田果純さん、vol.11の岩田量自さん、VOL.12の白山静さん、VOL.13の千賀健史さん、そして今号では、海を渡ってみました。


張子璇さんは1993年生まれで、中国安徽省出身。2017年から武蔵野美術大学映像学科写真コースへの留学経験があります。学生時代は東京都国分寺市に住みバスで武蔵美まで通っていた、と。現在の活動拠点は中国で、近年は浙江省の宁波市で写真展を開いたりしていますが、また写真家として日本にいらっしゃるかもしれない、とのことです。


あるご縁で張子璇さんのポートフォリオを拝見する機会がありまして、さらに「Kosen」さん名義のInstagramにもアクセスし、美しい色彩に魅せられました。日本ではちょっと見かけないような動植物や風景、オブジェなども登場して、なんとも不思議な気分に。ウィッチンケアは、テキストは「日本語」に縛られていますが、でもヴィジュアルに国境はないぞ! と思い、写真での参加をお願いしたのです。


ちなみに「どんな音楽が好きですか?」と尋ねたら、いま気になっているのはKayba/Lomme のExplore というアルバムだと。さっそくSpotifyやYouTubeで聞いてみたら、これはいわゆるロフィ(Lo-Fiヒップホップビート)とかチルホップとかいわれている...じつはいまこれを書いているときのBGMが「Explore」でして、心地好くてチルしそうだ。




表紙画像の他に、張子璇さんの最近の作品をもう1枚、掲載します。これは、第14号の中でかなり重要な場所にある作品。誌面ではモノクロでの掲載ですが、ここでは許可を得て、カラーで。そして、ぜひ張子璇さんのInstagramにもアクセスしてみてください。





ウィッチンケア第14号は現在印刷工程。完成までもう少しお待ちください。前号をお取り扱いいただいた書店の多くからも、再びご注文をいただいています。またアマゾンでも予約受付中。みなさま、どうぞよろしくお願い致します。

★ウィッチンケア第13号を手に取れる書店

https://note.com/yoichijerry/n/n51bd3f9f975b

★Amazon予約ページ

https://tinyurl.com/yzau6mcf



2024/03/14

ウィッチンケア第14号校了!

暖冬気味なのかと思われた2024年初頭、しかしながら3月になってもけっこうしつこい寒さが続くなか...本日午前、ウィッチンケア第14号無事校了です。寄稿者、制作関係者のみなさま、ありがとうございました。そして、ここからは(ネットを含む)書店のみなさまのお世話になることに。みなさまあっての小誌、と今回もあらためて肝に銘じます! ひとりでも多くの読者に届くことを、切に願いつつ。



今号ではモノクロ面の紙が変わりました。《オペラホワイトマックス》から《アズーリ AT》へと。また今号の表紙まわりはグロスPPで仕上げました。

真っ白なスニーカーがアイキャッチの第14号。取次会社の(株)JRCと取引のある大型書店さま、また弊者(yoichijerry/not「社」)と直取引のある独立系書店さまでは、早ければ3月29日(金曜日)頃から並び始めるはずです。



 

ウィッチンケア第14号(Witchenkare VOL.14)
発行日:2024年4月1日
出版者(not「社」):yoichijerry(よいちじぇりー/発行人の屋号)
A5 判:248ページ/定価(本体1,800円+税)
ISBN::978-4-86538-161-0  C0095 ¥1800E


【寄稿者/掲載作品】〜「もくじ」より〜

008 谷亜ヒロコ/フィジカルなき今
012 鶴見 済/植物実験をしていた頃
018 古賀及子/えり子さんの失踪
024 木村重樹/〝ほどほど〟のススメ/あるいは/続「本当は優しい鬼畜系」の話
030 オルタナ旧市街/長い長いお医者さんの話
034 我妻俊樹/ホラーナ
040 トミヤマユキコ/人体実験み
044 九龍ジョー/ウルフ・オブ・丸の内ストリート
052 内山結愛/散歩、あるいはラジオ
056 長谷川町蔵/チーズバーガー・イン・パラダイス
062 小川たまか/桐島聡のPERFECT DAYS
068 コメカ/工場
074 星野文月/友だちの尻尾
080 武田砂鉄/クリーク・ホールディングス 漆原良彦CEOインタビュー
086 絶対に終電を逃さない女/二番目の口約束
092 武田 徹/立花隆の詩
098 3月クララ/ゼロ
104 加藤一陽/俺ライヴズマター、ちょっとしたパレーシア
108 木俣 冬/アナタノコエ
112 稲葉将樹/人工楽園としての音楽アルバム ~ドナルド・フェイゲンとケニー・ヴァンス~
118 武塙麻衣子/かまいたち
124 多田洋一/優しい巨人と美味しいパン屋のころ
134 宇野津暢子/休刊の理由~「港町かもめ通信」編集長インタビュー
140 中野 純/うるさいがうるさい
144 すずめ 園/まぼろし吟行
150 仲俣暁生/そっちはどうだい?
156 藤森陽子/富士の彼方に
162 武藤 充/街の行く末
166 朝井麻由美/裂けるチーズみたいに
170 宮崎智之/人生の「寂しさ」について
176 野村佑香/地中海の詩
182 柳瀬博一/湧水と緑地と生物多様性 ~「カワセミ都市トーキョー」の基盤~
188 吉田亮人/そこに立つ
192 美馬亜貴子/拈華微笑 ~Nengemisho~
198 久禮亮太/フラヌール書店一年目の日々
204 かとうちあき/A Bath of One’s Own
208 清水伸宏/業務用エレベーター
214 ふくだりょうこ/にんげん図鑑
220 荻原魚雷/妙正寺川
224 蜂本みさ/おれと大阪とバイツアート
230 東間 嶺/嗤いとジェノサイド
236 久保憲司/吾輩の名前はチャットGTPである
242 参加者のVOICE
247 バックナンバー紹介 

編集/発行:多田洋一
写真:張 子璇(Zhang Zixuan/Kosen)
Art Direction/Design:太田明日香
取次:株式会社JRC(人文・社会科学書流通センター)
印刷/製本:株式会社シナノパブリッシングプレス

《2010年4月創刊の文芸創作誌「Witchenkare(ウィッチンケア)」は今号で第14号となります。発行人・多田洋一が「ぜひこの人に!」と寄稿依頼した、42名の書き下ろし作品が掲載されています。書き手にとって、小誌はつねに新しい創作のきっかけとなる「試し」の場。多彩な分野で活躍する人の「いま書いてみたいこと」を1冊の本に纏めました!》


★書店関係の皆様、小誌第14号(BNも)のご注文は(株)JRCの下記URL、

http://www.jrc-book.com/list/yoichijerry.html

またはBOOKCELLAR、

https://www.bookcellar.jp/publishertop/list/740

にて、よろしくお願い致します。


そして、アマゾンでの予約も開始しました!

みなさま、どうぞよろしくお願い申し上げます!


[公式SNS]

【Twitter】

 

Vol.14 Coming! 20240401

自分の写真
yoichijerryは当ブログ主宰者(個人)がなにかおもしろそうなことをやってみるときの屋号みたいなものです。 http://www.facebook.com/Witchenkare