久山めぐみさんとは小誌寄稿者、そして校正を担ってくださっている大西寿男さんを介してお目にかかり、寄稿依頼しました。曽根中生や荒木一郎の書籍を手がけてきた編集者。小誌今号への寄稿作で論じられている「ロマンポルノ」にも造詣が深く...久山さんと話して痛感したのは、私がぼんやりとリアルタイム体験してきた事象の数々が、後年の世代によってきっちりと研究/議論され文化的蓄積が進行しているんだな、ということでした。なので次の段落は資料的に白子の鱗ほどにもなりませぬが、あー、でもこんな機会なので、ちょっと書きたくなった。
ロマンポルノを封切りすぐに観にいった、という記憶はなくて、というか、いつどこでなにを観たかも、ほぼ忘れちゃった。覚えているのは館内で煙草吸ってたこととか、周囲にビールやカップ酒飲んでる人がいたことかなので、二番館、三番館でいきあたりばったりに観てたのかなと。今回ちょっと真剣に記憶を辿ってみたら、たぶん18禁の頃に、地元(町田市)までまわってきた「サード」(ATG)を観て、森下愛子にときめいちゃったんだろう、と。それで「もっとしなやかに もっとしたたかに」と「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」をやってた高田馬場駅近くの映画館(←これはよく覚えている)まで遠征して、それがロマンポルノの初体験だったみたい。森下愛子と竹田かほり(三浦瑠麗って顔似てないか?)は、当時キャンディーズやピンク・レディーのつくりものっぽさに全然乗れなかったオレにとって身近に感じられたのですが、しかしたくろうとかいばんど...(号泣)。
仕切り直し。久山さんの寄稿作は<〈ロマンポルノが何を描いてきたのか?〉考えるため、神代辰巳と小沼勝という二人の映画監督>を取り上げ、具体的な作品やインタビューを読み解きつつ<両者がどのような物語形式を生み出していったかを比較することでロマンポルノの実相を照らしてみる、試論とした>ものです。今号掲載作でもっとも分厚い、熱き一篇! 神代については、<映画全体に強い主観性を感じる><神代のインモラル、魔境は彼方にあるものではない。観客自身にとても近いところにあ>る、小沼については<性を映画の形式性のうちに囲い込むことで逆説的に解放した><小沼の映画を動かしていたのは、見る/見られるという視線のダイナミクス>という指摘がなされていまして、みなさま、ぜひ小誌を手にとって眼光紙背いただけますようお願い申し上げます。
全10ページの評論の冒頭、久山さんはかなりの字数を割いて、昨今の<女性がロマンポルノを見ていることそのものが称賛されてしまうきらいのある現状>についての私見を述べています。私はとても大事なことを書いてくださったと思っています。上記の「白子の鱗ほどにもな」らぬ個人的記憶...四半世紀を経てそれがヒップ(死語)に消費されたり、褒められ過ぎちゃうのは、それはちょっと違うんでないか!? という。
確かにわたしたちにはいま、ロマンポルノを見るための席が用意されている。わたしたちは、家でひっそりソフトを再生するのではなく、堂々と、名画座やミニシアターで、休日の愉しみとして、ロマンポルノを味わう自由がある。しかし、女性がロマンポルノを見ていることそのものが称賛されてしまうきらいのある現状、わたしたちの鑑賞行為自体が、ロマンポルノの搾取的な側面から目をそむけるアリバイや免罪符になる危険がある。数年前、NHKの連続テレビ小説に出演していたとある若い女優がロマンポルノやピンク映画を映画館で見ていたことがSNSを中心に話題となった、奇妙な出来事を覚えている方もいらっしゃるだろう。なぜ、若い女性がロマンポルノを見ているというだけで、そのように騒がれ、もてはやされなくてはならないのか。
わたしが、どうやら女性の名前であろうことを容易に伝えてしまうわたし自身の名前でロマンポルノを語るとき、何を語ったとしてもこのループのなかに回収されてしまうのではないかという懸念を頭から追い出すことができない。それでもやはり語りたいと思うのは、「性という人間にとって根源的なものを描いているのだ」とか、「作家と呼ばれる監督の作品には、性的搾取とは別次元に語られるべき芸術的な価値があるのだ」とか、「プログラム・ピクチャーの職人的な技術を堪能することができる貴重なフィルム群なのだ」とか、はたまた、「女性を主に描くから女性映画なのだ」とか、ロマンポルノの価値についてのさまざまな言説に、いまひとつ納得のいかないままに形の上での同意を示しつつ、自分たちのために設けられたふかふかの女性専用席に座ってしまう前にやらなければならないことがあるように思うからだ。
ウィッチンケア第9号「神代辰巳と小沼勝、日活ロマンポルノのふたつの物語形式」(P152〜P161)より引用
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Vol.14 Coming! 20240401
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