2018/05/21

vol.9寄稿者&作品紹介22 西牟田靖さん

西牟田靖さんの小誌今号寄稿作。主人公・高梁は、いわゆる「もの書き」です。数年間に渡る取材をもとに書き上げた小説を発表しようとしたが<出版社に圧力がかかり、出版停止>。その影響で私生活もほころんでしまい、失意の生活に。そんなとき<格闘技の写真を撮っている業界の後輩に誘われ>て、気分転換にもなるからとホテルの清掃員として働き始めた、と。作中では清掃作業のディテールがかなり描かれています。「におい」や「湿り気」に敏感に反応していて、そうそう、と思いました。

というのも、私も学生時代に2年ほど、東京都港区の、業界関係者からは陰で「駅前ホテル」と呼ばれていたところでアルバイトをした経験があるのです。最初は夜勤のハウスキーピングで、その後、夜勤のベルボーイに。深夜に「空室づくり」の清掃、やりましたよ。とにかく、スピーディに終わらせなくちゃいけなくて、職場の先輩からいくつかの裏技も教わったり。ベルボーイをやっていたときは、不思議な人間模様に出くわすことも少なくなくて(高梁ほどヘヴィな光景を目の当たりにすることはありませんでしたが)、いま振り返れば社会勉強になった、かも。なので<見たことのない世界をのぞけるのが、彼にとって刺激的だった>という一節には、リアリティを感じました。

タイトルに関わる連続放火犯は、物語の後半に登場。といっても、その人となりは高梁の作業相方である<インストラクターさん>からの伝聞でほとんど語られてしまい(高梁も会ってはいるが、自分の心は開かなかったよう)...清掃のディテールは生々しいのに人間の情念は希薄...というか、虚実ないまぜのような世界がそこにあり、各々が自身の勤めを淡々とこなしていて事を荒立てない、というムードが作品に通底していまして、だから連続放火、というショッキングな事件が起きても、それは日常の一つのできごとのよう。

この「鈍感が支配した物語」のなかで、高梁だけが、言葉少なくも抗っているように、私には感じられました。他の方はどんな感想を持つのだろうか? みなさま、ぜひ小誌を手にとって本作を読んでみてください!



「あ、足の不自由なおじいちゃんだね。タオル濡らしてくるよ」
 インストラクターさんはそう言って、洗面台でバスタオルを少し濡らし、立ったまま足を動かして素早くバスタオルで床を拭き始めた。するとあっという間にくさくなくなった。
「もうこんなの慣れっこだからね。高梁くんも早く慣れてね」
 途中、掃除をする部屋がなく、2階の待機室で電話を待っていた。なので、午後8時までの2時間で、5部屋しかやっていなかった。休憩時間は15分。午後10時頃にも
15分。2回の休憩を挟んで、高梁は0時まで働くのだ。
 高梁は家から持ってきたパック詰めしたご飯と、マルハのグリーンカレー缶を温めてすぐに食べきると、ふたたびインストラクターさんと組んだ。

ウィッチンケア第9号「連続放火犯はいた」(P138〜P144)より引用
goo.gl/QfxPxf

西牟田靖さん小誌バックナンバー掲載作品
「報い」>(第6号)/「30年後の謝罪」(第7号)/「北風男」(第8号)

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Vol.9 Coming! 20180401

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