2024/05/13

VOL.14寄稿者&作品紹介37 清水伸宏さん

 前号への寄稿作では、失踪した妻を探す男の心情を切なく描いた清水伸宏さん。第14号掲載の〈業務用エレベーター〉...これは、ある意味での〝自分探し〟のお話なのかな!? ワン・シチュエーション設定なのですが、主人公の「僕」は理不尽な体験を次々と被って...というか、全篇ほぼ「私」視点の展開なので登場する「僕」以外の人々にもそれなりの言い分がありそう...というか、この人たちはホントにいるの? みたいな、虚々実々摩訶不思議な一篇です。おもしろいのは、エレベーターが停まって誰かが登場すると、「僕」にとっての忌まわしい過去が必ず甦ってくること。たとえば、宅配便の業務員の目つきが実家のある新潟で暮らす弟に似てる、それで、相続で揉めた記憶が、みたいな。「僕」は年下の上司に辞表を叩きつけたばかりで気が立っているのはわかるのですが、しかし、社外の人たちに八つ当たりをしているとしか思えません。...でも、本作はその八つ当たりの原因が〈自分の問題〉であると気づかないとどういう目に遭うか、ということを描くのが主題なのかもしれず。。。清水さんの意図や、いかに。


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それにしても、「僕」と二番目に乗り合わせた飲料販売の女性(「僕」曰く“いまじゃそんな言い方したらジェンダー的にあれでしょうが、よく「〇〇おばさん」なんて呼ばれていた、あの業者”)がお気の毒です。「僕」は社内で彼女の○○を一度も買ったことがない。そんな彼女とエレベーター内で乗り合わせて、挨拶すらしないからと、離婚した妻とのトラウマまで思い出して憤慨するなんて。ああ、私、冷蔵庫に入ってるヤクルト1000を飲みたくなってきたぞ。


結末、ものすごく書きたいですが「それを言っちゃあ、おしまいよ」なので堪えます。悪態をつきまくった「僕」を、作者はどこへ導いたのか? クスリと笑わせつつも、一抹の切なさを醸し出す清水さんの作風...この感じは、小誌への初寄稿作〈定年退職のご挨拶(最終稿)〉(第11号に掲載)から一貫しているようにも思えます。ぜひ小誌を手にして、本作をどうぞお楽しみください。

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 エレベーターに乗り込んだ彼女とすぐに目が合いました。しかし、驚いたことに彼女は、お辞儀もせずに目を逸らして、階数表示に視線を向けました。一度も買ったことがないとはいえ、僕のデスクの横を毎日のようにペコペコしながら通っているわけで、僕の顔を知らないはずがありません。それなのになぜ急にシカトするのか。業務用エレベーター内では、自分のほうが偉いとでも? 
 その表情がない横顔を見ていると、今度は離婚話をいきなり切り出したときの妻の能面みたいな表情が脳裏に浮かびました。あの五年間の結婚生活はいったいなんだったのか。大学のサークル仲間だった元妻は、僕と離婚してすぐ、同じサークルの後輩だった男と再婚したそうです。


~ウィッチンケア第14号掲載〈業務用エレベーター〉より引用~



清水伸宏さん小誌バックナンバー掲載作品:〈定年退職のご挨拶(最終稿)〉(第11号)/〈つながりの先には〉(第12号)



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Vol.14 Coming! 20240401

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