小誌を第13号からお取り扱いくださることになりました、東京都葛飾区青戸のawesome_todayさん。私(←発行人は)町田市という東京の西のハズレ在住でして、青戸と町田の距離は、もし私が西に向かえば山梨県大月市とか神奈川県足柄下郡真鶴町とか、そのくらい距離がありまして...それでお取り扱いの御礼に伺うのが夏の終わりくらいになっちゃったんですが、店主様に初対面のご挨拶をしていると宅配物が到着、そして「いまとってもおもしろい本が追加で入荷しましたよ!」と。その本が武塙麻衣子さんの「酒場の君」でありました。もちろんゲット、帰路にページを繰ると、登場する酒場は鶴見、川崎、野毛など神奈川県町田...もとい、東京都町田市にも馴染みの浅からぬ京浜チックな町にあるところが多く、妙な親近感も。そしてその内容ですが、いやぁこの人、なんてスマートで熟達した酒(と料理...+映画と本!)の楽しみかたをしているんだろうと、流麗な文章に導かれ、ぐいぐい惹き込まれました。私もかつては自称・夜の帝王として京浜ナイトライフを満喫したものですが(...自称です)、たとえば同作内の《立ち飲みしろちゃん 鶴見》での、アジのさつま揚げではなく焼きそばを注文するような粋な気配りができていたのか? しかも武塙さんが立ち飲みの友として読んでいるのが小池真理子の「追いつめられて」...こんなかっこいい呑兵衛様にはぜひ寄稿依頼しなければ、と横浜の小誌取扱店・象の旅さんにもご協力いただいて連絡をとり、良いお返事をいただけたのです。
武塙さんの小誌への初寄稿作は「かまいたち」と題された掌編小説。主人公である「わたし」は美容室の椅子に固定された状態。でも、そこでの美容師・「祥子さん」との会話から、時空を越えた物語が拡がっていくのです。この感じ、紙束とインク染みでしかない本から無限の物語が醸し出されるような...酒場で読書中の武塙さんの脳内を覗き込んだようなおもしろさです。なにしろ「わたし」、身だしなみを整えてもらいながら自身は“乗っていた船が海で難破し、救命ボート一艘のみで漂流する冒険物語の主人公”になってたり...。
さて、表題になっている「かまいたち」を、筆者は美容室内でどのように登場させるのか? それは、小誌を手にしてのお楽しみ。そして武塙さん、小誌と同時期に発行された「群像」5月号には「とうらい」という短編小説を寄稿、また同誌6月号からは「西高東低マンション」という連載が始まる、とのこと。なんだかとっても、物書きとしてのメートル上がってます(←古い表現でスイマセン…)!
わたしは砂浜に立つ小学校四年生の祥子さんを想像した。突然、左膝から下がぱっくりと切れて呆然としている小さな祥子さんの髪からはぱたぱたと海水がたれ、大人たちは慌てて彼女の体に大きなバスタオルを巻き付けながら彼女の足を調べる。
「止血しなきゃ」
という叔母さんの声。ペットボトルの水と別のタオルを持って、泣きじゃくる祥子さんに走り寄る従兄弟たち。傷口にタオルを押し当てながらお父さんはお盆休みでも開いている近くの病院を必死で思い浮かべようとする。
~ウィッチンケア第14号掲載〈かまいたち〉より引用~
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