2022/05/31

私が言うのもなんですが(第12号編集後記)

ウィッチンケア第12号、予定どおり毎年恒例の《すべての寄稿者/作品紹介》〜編集後記へと辿り着きました。...ここまで長かった、というのが率直な感想。今号はかなり早めに制作準備を始めまして、まずデザイナーの太田明日香さんと最初の打ち合わせをしたのが昨年9月20日。その後、約1ヶ月かけて写真家が白山静さんに決まり、初打ち合わせが11月6日。併行して寄稿者とのやりとりがあり、前号の32名から10名増の42名と決定したのが、大晦日の紅白歌合戦の最中だった記憶あり。あっ、10月〜年末にかけては全国の(おもに独立系)書店様にも、見本誌持参(or送付)でお声がけさせていただきました。

全体の作業量は増えたはずなのに、終始楽しかったんですよね。私はルーティンワークが苦手で落ち着きのない性格だと自認していますが、今号に関してはそれが良い方向に出たのかもしれない。結果、これまでで一番「売れている号」にもなっていそうです、おそらく(今年10月に取次と精算をしてみないと正確にはわかりませんが)。

前号の編集後記をいま読み返すと、けっこう愚痴っぽい。まあ、今号でもほぼ同じ状況での作業だったものの、それでも開き直れたというか、やれることをやってみるしかないと思えたというか...ちなみに昨年“(その女性とは〜中略〜いまは「怪しいヤツ」とは思われていない、と思う)”と記したかたの作品は、今号にしっかり掲載されています。一喜一憂せず「時間をかける」ことも大事だな、とあらためて思いました。

明日(6月1日)には《ウィッチンケア第12号のまとめ》をブログ(&note)にアップします。ぜひ、アクセスしやすいかたちにした《寄稿者/作品紹介》をあちこち読んでみてください。私が言うのもなんですが、小誌は個人主宰誌なので「私がおもしろいと思った作品」しか掲載されていません。ですので、もし42名(42作品)のうちの誰か(あるいはどれかの作品タイトルetc.)に気持ちが動いて小誌を手にしたかたでしたら、それは私と同種のリアクションなので、ぜひ他の(できれば「全然知らない」)寄稿者の作品を読んでみてください! きっと、かなりの確率で「新たな良い出会い」になるはず。そしてまだ小誌を手にしていないかたには...ぜひぜひ、下記URLのリアル店舗やAmazon等のネット書店で入手してくださいね。

引き続き今号の読者を増やすための活動を続けます。同時に、どんな次号がつくれるのかを考え始めます。次号を出せるとしたらVOL.13...「13」という数字をおもしろがるようなことができないかな、なんて、元来編集者気質の私は校了後すぐに思いを馳せていたもののそれをぐっと封印して「第12号を知ってもらうこと」「第12号を売ること」に注力してきましたが、ここからは二刀流で先に進みたく存じます。...なにはともあれ、みなさまウィッチンケア第12号をどうぞよろしくお願い申し上げます!

でっ、テキストだけの後記ではなんとも味気ないので今回もなにか1曲...最近は新しい曲に疎くなっていまして、もう初心忘れるべからず、みたいなのにしまーす。小誌創刊の動機でもある、これ。 



2022/05/18

VOL.12寄稿者&作品紹介42 小川たまかさん

今年2月に『告発と呼ばれるものの周辺で』を上梓した小川たまかさん。同書は性犯罪(...というか、性被害)にまつわる本で、2010年代半ば以降に小川さんが見聞きしたさまざまな立場の人の“声”を、過去の文献やご自身の体験も交え、現在の視線で考察した1冊です。タイトルには「告発」というゴツい言葉が選ばれていますが、私にはむしろ筆者が「周辺」のほうに重きを置いているように読めました。〈あとがき〉にある「本当はもっと近くで聞いてほしい声だった」というニュアンスを漏らさず伝えるために、粘り強く丁寧に執筆作業を続けたのだろうな、と。第4章の「構造への指摘はいつも意図的に無視される」(P151)という指摘、第1章最後の「こんなことがもうずっと繰り返されてきているのだと思った」には、小川さんが抱えているやるせなさが詰まっていると感じたなぁ。...それで、そんな小川さんが小誌今号に寄稿してくださった「女優じゃない人生を生きている」は、「女優」という言葉を軸に「自分をフェミニストだと思っている」という主人公・優里の、職場での日常のできごとを綴った一篇です。


『告発と〜』に通じる問題も扱われていますが、より多面体というかきめ細かいというか、優里と他者との関係性や心の揺れを描くだけに留めることで、「Yes or No」的な“結論”から自由になっていると感じました。たとえばあるインタビュー中に劇作家が使った「女優」という言葉。これを先輩のチコさんは原稿化するさいに「俳優」に修正する。そのことに優里は同意している。「緩衝材のプチプチを一個ずつ潰していくように、表現に染み付いた社会的性差を指摘していったらいいのだ」と。しかし他の場面では「女優って言葉には、「女医」とか「女流作家」とは違うリスペクトがある気がする。男優より俳優より、女優の方がメイン、みたいな」とも。でっ、なぜそう思うのかについては「うまく説明できないけど」で、止め。うまく説明することでこぼれちゃうものをすくっていると感じました。救っている/掬っている。

以前インタビューしたことのある19歳の俳優...彼女が平塚らいてうを演じた舞台を観て、優里は心をかき乱されます。この終盤でのたたみかけるような展開が圧巻でして、時空を越えた感情と理性の乱高下を、読者のみなさまはどう解釈するのでしょうか。とにもかくにも小誌今号のクローザーにふさわしい小川さんの書き下ろし小説を、ぜひぜひ、ご一読のほどよろしくお願い申し上げます。


「私、小さい頃、演技をする人になりたかったんですよね。変かもしれないんですけど、レッスンとかオーディションを受けるとか鍛えられることに憧れがあって」
 チコさんが聞いてくれているのを確認して、続ける。
「だから劇団に入りたいとか、オーディションを受けたいって思ってたんですけど、うちはそういう家じゃないって親に反対されて諦めちゃって」
 そう、だからこそ「女優」に憧れる。劇団に入れなくても、もっと外見が優れていればスカウトされて、その道を歩めるかもしれなかった。昔読んだ雑誌で、コラムニストが「美少女はどんなに嫌がってもとっ捕まって芸能界に入れられる、そういう運命なんだ」と書いていて、本当にその通りだと思った。「女優」への特急券を持っている同年代の美少女たちが羨ましかった。

〜ウィッチンケア第12号〈女優じゃない人生を生きている〉(P236〜P243)より引用〜

小川たまかさん小誌バックナンバー掲載作品:〈シモキタウサギ〉(第4号)/〈三軒茶屋 10 years after〉(第5号)/〈南の島のカップル〉(第6号)/〈夜明けに見る星、その行方〉(第7号&《note版ウィッチンケア文庫》)/〈強姦用クローンの話〉(第8号)/〈寡黙な二人〉(第9号)/〈心をふさぐ〉(第10号)/〈トナカイと森の話〉(第11号)

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2022/05/17

VOL.12寄稿者&作品紹介41 谷亜ヒロコさん

谷亜ヒロコさんの今号への寄稿作は「テレビくんありがとうさようなら」。 朝井麻由美さんに続きまたもやテレビ絡みの話になりますが、もう引導渡しちゃってるところが、谷亜さんらしいサバサバしさ(!?)。NHK放送文化研究所が実施した「2020年 国民生活時間調査」によると16~19歳の約半分が「ほぼテレビを見ない」らしく、私の乏しい人生経験に照らし合わせても、たとえば携帯電話が普及し始めた時期、当時の人はなんとなく「家庭(世帯)の固定電話との併用なんじゃないの」と思っていたと思うし、CD(というか、デジタル音源)が出始めたころだって、「フィジカルなメディアはいらない」までには思いが至らなかったと思うのです。いまテレビを見ている人って、おそらく電話とレコード(CDを含む記録媒体)の末路をリアルタイムに知っているはずなんだけれども、でも長年の視聴習慣に引き摺られているだけで、じつはもう、既存の放送局のタイムスケジュールにこちらのほうから生活を合わせてあげるの、かなりキツくなっているはずで、あとは電話→iPhone/音楽再生手段→iPod〜ストリーミング、みたいなイノベーションが...もう私には起こっちゃった、というのが今号の谷亜さんの一篇なんですよね。スイマセン、長々とつまらん講釈垂れまして。


かつてのテレビっ子(谷亜さん)がいまやすっかりYouTube視聴者へ。少しまえまでテレビとは「友達との会話の糸口」だった、と谷亜さんは書いています。でも最近は“「8時だヨ!全員集合」での細かい話、山口百恵は良かったなど、知らんがな、もう芸能界いないわよ、そんな語り尽くされた話には、興味がない。”とも。心当たりがありまして、あのぅ、むかしいた会社の同期会とかって、相互に現時点の情報がないから、その話をすれば有意義だったりもするのでしょうが、ついつい共通の昔話になって「なんか、いっつも同じ話してるな」みたいな。あと、私は20代後半で気づきましたが「懐かしい」は、飽きる。新たな「懐かしい」を頑張って掘り起こす、あるいは自分が発見していない「懐かしい」を知ってる人と交流しないと、テレビの「懐かしアニメベスト」みたいなのの餌食になってCM刷り込まれるだけ。

ほぼテレビ話の本作に少し挟まれている、谷亜さんの御父様のこと。お原稿を受け取ったときにはちょっと心が震えましたが、しかしこれも筆者の「書き手としてのスタンス」なのだと理解しました。表題の「ありがとう」はテレビだけに係っているんじゃないのかもなぁ、なんて思ったりも...でした。


 昔からテレビが大好きだった。最初の記憶は、五歳の頃、朝八時十五分から始まる朝ドラが見たくて、幼稚園に行きたくないと泣いた。学生最後という大事な高校卒業式の日も「笑っていいとも!」のゲスト本田恭章が気になりすぎて、友達の誘いを断って速攻帰ってきた。しかし私は特に本田恭章が特に好きなわけではない。「いいとも」という超マスなメジャーの場で、本田恭章がどれだけアウェイ感を醸し出すのかが見たかっただけ。テレビドラマの第一回目は全て録画して見て、そのうちの半分ぐらいは見て最後まで視聴した。朝だけじゃなく、帰宅してもまずはテレビを見ていた。

〜ウィッチンケア第12号〈テレビくんありがとうさようなら〉(P232〜P234)より引用〜

谷亜ヒロコさん小誌バックナンバー掲載作品:〈今どきのオトコノコ〉(第5号&《note版ウィッチンケア文庫》)/〈よくテレビに出ていた私がAV女優になった理由〉(第6号)/〈夢は、OL〜カリスマドットコムに憧れて〜〉(第7号)/〈捨てられない女〉(第8号)/〈冬でもフラペチーノ〉(第9号)/〈ウラジオストクと養命酒〉(第10号)/〈鷺沼と宮前平へブギー・バック〉(第11号)

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VOL.12寄稿者&作品紹介40 朝井麻由美さん

現在テレビ東京【水ドラ25】で絶賛放映中の「ソロ活女子のススメ2」。朝井麻由美さんが大和書房刊の「ソロ活女子のススメ」を上梓したのは2019年3月、同名タイトルのドラマが放映されたのが2021年4月〜6月。その後配信オリジナルのスピンオフドラマ「ソロ活女子のススメのススメ」が制作されたりもして、現在の「2」へという流れですね。江口のりこは「半沢直樹」の白井亜希子国土交通大臣もすごかったけれど「鎌倉殿の13人」での亀の『後妻打ち』もすごくて、今後どれだけ大化けするのか? そんな彼女の民放連続ドラマ初主演番組の原作者が朝井さん...これは、すごいことだ! そして、そんな朝井さんから今号に届いた寄稿作「ある春の日記」には〈今度の新作ドラマの原作者〉という人物が登場しているのですが、これは、きっと偶然だと思います。ええと、本作は〈性別女、制作会社勤務〉(テレビ関係)のかたの素っ気ない雑感メモみたいな体裁の一篇でして、サラリと読めるもののけっこう毒素も含まれているように感じられまして、まあ一番の問題は今作で筆者に毒を吐かれているその当事者が「それって毒を吐かれるようなことなの?」という認識のまま存在していることだと思いました。“会議で「価値観のアップデート」とよく言うくせに、〝アップデートしてるクリエイターな俺〟が好きなだけで、根っこの部分はただの昭和のおっさんなんだよな”...ガツーン!


「恋愛はドラマの基本じゃないですかァ?」と語るプロデューサー。私(←発行人)は2003年1月~2022年04月までの民放ドラマ高視聴率ランキングを調べてみました。あきらかにラブストーリーだと思えるものは「ラストクリスマス」(2004年/18位)と「電車男」(2005年/25位)くらいしかないぞ。ちなみに彼が想定していそうな「基本」のやつを拾ってみると「Beautiful Life」(2000年)、「ロングバケーション」(1996年)、「東京ラブストーリー」(1991年)、「男女7人秋物語」(1987年)...やはり困った存在です。

あと、作中の〈三月十七日〉のフッくんの件が心に残りました。私は十数年前、下北沢のたこ焼き屋のテイクアウトに1人で並んでいて、そのとき店内にいた女がなにかの拍子に振り返って目が合って、しばししてその女がもう一度確認するように振り返って、その後隣にいた男に「ダチョウ倶楽部かと思った」と言った声が聞こえて、この話のポイントは女は「ダチョウ倶楽部」としか言っていないのに私にはそれが「肥後でも寺門でもない」とわかったことで、やっぱりこんな時間にたこ焼き食べようとするからこんなこと言われるんだと落ち込んだことがある程度には親しみを感じていた人がつい先日なくなってしまって、いまや黄昏てるテレビ業界であのポジションを続けていくのはさぞかしつらかったんだろうな、とちょっと同情したことをここに記しておきます。



三月九日
 プロデューサーが怒っていた。今度の新作ドラマの原作者と揉めているらしい。プロデューサーはドラマの中で主人公に恋愛をさせたいらしいけど、原作者はそれを嫌がっている。原作に一切ない展開なのだから、当たり前だろう。
「恋愛はドラマの基本じゃないですかァ?」と気持ちの悪い顔して電話している。いかにもな昭和のプロデューサーで吐き気がする。しかも、カーディガンを肩で巻いてる。初めて見たとき、プロデューサー巻きする人って本当に存在するんだ、と驚いた。電話を切ったプロデューサーが「恋愛にしないと数字が取れない」とブツブツ言っている。

〜ウィッチンケア第12号〈ある春の日記〉(P228〜P230)より引用〜

朝井麻由美さん小誌バックナンバー掲載作品:〈無駄。〉(第7号)/〈消えない儀式の向こう側〉(第8号)/〈恋人、というわけでもない〉(第9号)/〈みんなミッキーマウス〉(第10号)/〈ユカちゃんの独白〉(第11号)

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2022/05/16

VOL.12寄稿者&作品紹介39 清水伸宏さん

 清水伸宏さんの小誌前号への寄稿作「定年退職のご挨拶(最終稿)」は昭和の時代を思い起こさせる、アイドルにまつわる一篇でした。今号への書き下ろし新作「つながりの先には」は、バリバリの令和ストーリー。ことの始まりは今作の主人公・ケンジがFacebookで“1990年代後半に人気が出たイギリスのロックギタリストC”について語り合うグループをつくったことなんですが...音楽好きが多いと思われる小誌読者、ここでもう惹き込まれません? 誰? Cって(ザワザワザワ)!  この後の説明では“Cが所属していたバンドは、イギリス本国では当時日本で大人気だったロックバンド、オアシス以上に評価が高かったが、いかんせん曲がポップではなかったため日本ではブレイクしなかった”と。私(←発行人)はクーラ・シェイカーのCrispian Mills! 一択なんですが、果たして正解は? それはともかく、このグループのメンバーである山口康夫、水上みなみとケンジとの関係性を軸に話は進んでいきまして、ええと、ネタバレなしてその後の展開を説明するのがなかなかむずかしいので、スイマセン、Cで胸がざわついたみなさま、ぜひ小誌を手に取って衝撃の結末をお楽しみください!


前作の主人公・「僕」は週刊誌の記者でした。今作のケンジさん、素性がはっきりしませんが、「僕」に負けず劣らずな取材力を身につけています。酒が好きで、多少の物事には動じない。東京五輪に熱狂するわけでもなく、新型コロナウイルスに過剰な反応を示すわけでもなく。作中で一箇所だけケンジの感情がバーストする描写があり(スマホを放り投げる)、おおっ! と波乱を期待したのですが、でもすぐクールダウンしちゃったので、これはやはり「沸点の低い人生慣れ」とでも言いますか、いにしえの刑事ドラマ「太陽にほえろ!」にたとえれば露口茂が演じた「落としの山さん」と、イメージがかぶる。

ケンジさん目線で語られる物語なので「ケンジさんの言動」はすべてケンジさん的に整合性がとれているのだと思います。ただ、客観的に見ると語られてないなぁと感じられることが一点あるんですよね。もし私がこの作品に割り込むことが可能なのだとしたら、ひとつだけ(できれば物語前半で)ツッコミたい。「ケンジさん、水上みなみのこと、まんざらでもないんでしょ?」と。...いや、筆者は「そんなこと言わずもがな」で、書いたのかも知れないけれど。


 翌日、メッセージが着信したマークがついていたので、すぐに開いてみたら水上みなみではなく山口からだった。昨日の今日のことなので、思わず身構えたが、時候のあいさつのような内容だった。
 その翌々日になってようやく水上からメッセージが来た。ケンジのアドバイスに従って山口をブロックしたこと、これからも頼りにしていいかといったことが書かれていた。ケンジはあとでじっくり返信の文章を考えようと思い、取り急ぎ「ハート」マークをつけた。
 山口はその後もケンジのグループはもちろん、水上みなみが所属しているすべてのフェイスブックグループで、彼女が投稿した記事にコメントをつけていた。相手からブロックされても、グループへの投稿は見られるらしい。

〜ウィッチンケア第12号〈つながりの先には〉(P230〜P237)より引用〜

清水伸宏さん小誌バックナンバー掲載作品:〈定年退職のご挨拶(最終稿)〉(第11号)

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Vol.16 Coming! 20260401

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