小誌への初寄稿となった編集者・清水伸宏さん。プロフィール欄には「週刊誌を皮切りに、女性月刊誌、書籍、ムック等、手掛けてきたジャンルは広く浅い(笑)」とあり、ええと、私はそのいくつかの誌名も知っていますがそれはそれとして(ムニャムニャと濁す)、作品内に登場する「人気絶頂の女性アイドル」の事件...ある年齢の人──黒柳徹子と久米宏が司会をしていた歌番組を覚えているような──だと、どうしても岡田有希子のことを思い出しちゃいますよね。私は事件のすぐあとにアメリカにいったのですが、ケーブルテレビ(MTVだったと思う)を見ていたら世界の音楽情報みたいなコーナーでも取り上げられていて、びっくり。最近、シティ・ポップの再評価などで「キラキラした80年代」みたいな言われかたもされていますが、いまのリテラシーで振り返ってみると、そんなにいい時代でもなかったよなぁ、と。
清水さんの寄稿作〈定年退職のご挨拶(最終稿)〉は入り組んだ構成の小説。〝事件の真相〟はぜひ通読してご判断いただければ嬉しく存じますが、ここでは「30年以上前」に「二十代」で「週刊誌の記者」だった「僕」、そして「僕」が所属していた編集現場について、少々思うところを。一番印象的だったのは、「僕」(いわゆるデーターマン)と「デスク」「アンカーマン」との関係性でした。データーマンの役割っていうのは「売れる週刊誌のネタを拾い集めること」にちがいなく、しかし「僕」はデーターマンではあるけれどそれよりもまず生身の人間なのでネタに対する心の葛藤は当然あって、でっ、「僕」の立ち位置からだと「デスク」や「アンカーマン」はかなり非情にも感じられますが...この作品は週刊誌という商品をつくる過程では「ないこと」にされがちな人間性みたいな部分を、筆者の体験も踏まえて描いているのだと思いました。
作品内には「臭突」の説明があって、私は「キラキラした80年代」のトイレ事情についても思い出したぞ。若い人は想像できないと思いますが、国鉄(民営化で1987年にJR)のトイレって恐ろしく汚なかったんですよ。たしか民営化のさいに「利用者のご意見を伺います」ってことになって、女性の代表(檀ふみと阿川佐和子じゃなかったかな)から「絶対使わない」って言われて、改善したような記憶が。...しかし、アイドルと臭突。むかしのアイドルは「食べたケーキはケーキの型のまま胃で消えます」みたいなことを信じさせなきゃいけなそうな商売だったから、いろいろきつかったんだろうな。
それから4日間、僕は当てもなくその街を歩き回っていました。日課のように覗いていた書店で、僕の所属する週刊誌の最新号を見つけて手に取りました。Kの後追い自殺に関する記事が掲載されている号です。
僕が取材したKの祖父のコメントは、4ページに渡る特集の締めに使われていました。
「みなさん、天国にいるKの後を追っても、Kが悲しむだけです。孫の分まで生きてください」
僕が取りたくても取れなかったコメントが載っていました。僕のデータ原稿を読んだアンカーマンが、これじゃ使えないと判断して創作したようでした。
僕は週刊誌を買わずにラックに戻しました。
〜ウィッチンケア第11号〈定年退職のご挨拶(最終稿)〉(P080〜P087)より引用〜
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