「あの部屋はいつまで空き部屋なんだろうか。ついこの間まではわたしの家だったのに、他の誰かがそのうち住むようになるのだ。」
前号掲載作「パンダはおそろしい」では、積年の大熊猫愛を爆発させた木村カナさん。今号での原稿に関する打ち合わせは昨年秋、西荻窪の木村さん行きつけのビールがおいしいお店でして...その時点では「今度の木村カナは人間について書きます!」みたいな方向性で気持ちよく酔った、という記憶あり...私の引っ越し話はもう出ていたはずですが、木村さんのほうは「引っ越すかも!?」くらいの感じだったかなぁ(曖昧)。でっ、新年を迎え、いよいよ締め切りが近づいてくると、木村さんの転居話は具体的な展開を見せており、けっきょくドタバタのなかで、まさに「人間の揺れる気持ち」を身辺雑記として書き残してもらったような作品となりました。
私は20世紀末から約15年ほど下北沢で暮らし、もう1ヵ月ほどでいよいよ引っ越すのですが、さてそのとき木村さんのように「愛着は変わらないどころかいや増して、夕方の路地を歩きながら、ここがわたしのふるさとです、などと、妙な感傷に陥って」みたいな思いに包まれるのかな? 西荻窪はここ数年で何度か伺いましたが、駅周辺でも古いものと新しいものが上手に共存していて、よい雰囲気の町だなという印象です。いっぽう下北沢はというと...ええとですね、下北沢はここ数年とっても複雑化(かつての原宿に対するウラハラ的発展!?)しておりまして...ってそのへんの話はまた別の機会にとは思いますが、とにかく新しくなった駅から自宅までの南口商店街を歩いて目に入ってくるのは、マクドナルド〜ソフトバンク〜松屋〜ケンタッキー〜ミスド〜日高屋〜ダイソー〜丸亀製麺〜アオキ〜チカラめし〜カラオケの鉄人〜ABCマート〜金のとりから〜センチュリー21...そして餃子の王将と、鮒やザリガニも逃げ出してブラックバスしかいなくなった湖みたいですがな。
同居人の勤務先の移転、というやむをえない事情によって、西荻を離れなければならなくなった。居候の身の上では、どこに住むかを自分で決めることはできないのだった。家主が引っ越すと言い出したら、ついていくしかない。親の都合で引っ越しをすることになった子どもの気持ちがはじめてわかったような気がした。同じ住所に住み続けていた子どもの頃には、転校していく・転校してくる同級生が、羨ましく感じられたのに。
西荻にずっと住んでいたかった。でも、1人になってでも居残りたいわけではなくて、やっぱり2人でいたいのだった。それなのに、結婚はしていないし、結婚したいとも思わないのだった。結婚はしたくないのに、もう10年以上も、2人で暮らしているのだった。
引っ越しが決まってからも、西荻への愛着は変わらないどころかいや増して、夕方の路地を歩きながら、ここがわたしのふるさとです、などと、妙な感傷に陥って、寂しくて、不意に泣き出しそうになったりしていたのだが、そこは生まれ故郷でも何でもなくて、たまたま住みついただけの、本来ならば自分とは何の縁も所縁もない土地なのだった。
ウィッチンケア第4号「わたしのおうちはどこですか」(P096〜P101)より引用
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Vol.14 Coming! 20240401
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