「少なくとも、時代のアイコンは僕らに勇気を与えてくれる。」
「ベロニカは死ぬことにした」(パウロ・コエーリョ)の翻訳、『ブコウスキー:オールドパンク』の字幕など、海外の文学/映画に造詣の深い江口研一さん。私は「DU2」に掲載されていた「好きな音楽がタイトルになる時」という作品を読み、そのなんとも「洋楽っぽい」文章に惹かれて、一度お会いしていただけませんかと、連絡を差し上げたのでした。同作品はダグラス・クープランドの未訳小説「GIRLFRIEND IN A COMA」(ザ・スミスの曲と同名)を題材に、音楽と小説について書かれたもの。...いや、このへんを語りはじめると一気に字数が尽きてしまいますので、みなさまぜひ「DU2」を入手してください。「音楽好きな作家は数多いるのに、直接的に音楽を引用している例は意外と少ない」(「好きな音楽が〜」より引用)理由についての、興味深い考察です。また、江口さんは世界の料理にも精通していまして、「food + things」と冠されたブログを拝見すると、おいしそうなものばかり! ぜひいつか、江口さんの料理を食べてみたいです。
小誌掲載作「僕はトゥーム・ツーリスト」は、最近の流行り言葉で似たものを探すと、「墓マイラー」なのかな。いやぁ、私は世間に疎いのでほんとうにそんな趣味をお持ちの方とは会ったこともありませんが、江口さんも作品内で「それでも僕には墓をめぐる趣味はない。青山霊園や谷中の墓地は散策にいいが、むやみやたらに人の墓前に立つのも失礼な気がする」と書いていまして、その気持ちは共感できます。しかし、にもかかわらず、江口さんは故人に引き寄せられるように、チャールズ・ブコウスキーやエリック・ホッファーの足跡を辿る旅に...(詳しくはぜひ本編で/こればっかりですいません)。あっ、私も「足跡を巡る旅」みたいなのはけっこう好きですよ。架空の人物と実在の場所を結びつけて、ひとり悦に浸るだけなんですが、たとえば「マンモス西のうどん(泪橋)」「ミサトさんのNERV(箱根)」「キャシーとターンパイク(ニュー・ジャージー)」みたいな。
何よりも興味深かったのが現在はオークランドに移動した港湾機能の仕事の割り振り(ディスパッチ)だった。それは一日二回の朝と夕に行われ、組合員はその日の仕事にありつくために、特殊技能を持っているか持っていないかに分かれて並んだ。若い労働者のほとんどがホッファーを知らなかったが、一番の古株のおじいさんは一緒に仕事したこともあったと話してくれた。組合は今では西海岸全体からアラスカ、ハワイまで影響力があり、全ての仕事を管理している。許可が煩雑なため、その後はオークランドの埠頭で働く組合員の姿を望遠レンズで〝撮り〟、生涯独身で通したホッファーの遺品が寄贈されたスタンフォード大学内のフーバー・インスティテュートのアーカイブに入れてもらえた。小さな文字でみっちり書き込まれた手書きのノートや眼鏡などの貴重な遺品が揃っていた。そして日本への帰国前、僕は彼が眠るコルマのホーリー・クロス・カトリック・セメタリーを訪ねた。受付で地図をもらい、6587944番を探す。見当はついているのになかなか見つからない。そしてようやく見つけた赤い墓石のERIC HOFFER という字は芝屑で埋まっていた。ホワイトハウスまで呼ばれながらアウトサイダーであり続けた時代の哲学者の墓はほとんど誰も訪れることはなく、どんよりと重い曇り空の下で静かに眠っていた。
ウィッチンケア第4号「僕はトゥーム・ツーリスト」(P050〜P055)より引用
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Vol.14 Coming! 20240401
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