2013/05/04

vol.4寄稿者&作品紹介04 堀井憲一郎さん

「机の上にね、殴り書きがあって、もうだめだ、と書いてあったね」

コラムニストの堀井憲一郎さんは小誌第4号に短編小説を寄稿してくれました。「花火」という題名の、ご自身が長く生活している高田馬場近辺を舞台とした物語。殴り書きを遺したのは、主人公である「おれ」のスタッフだった大学五年生の田城。八月のある日のエピソードが綴られています。私は以前から堀井さんの本をかなり読んでいますが、小説というスタイルの作品に触れたのは初めて。それでも、不思議なことに読後感は、たとえば「若者殺しの時代」「ねじれの国、日本」など、現実社会と向き合った著作と同じようで...なんというか、やるせないんだけどネガティヴにはならない、と言いますか。でもその堀井さんには、いっぽうで東京ディズニーリゾートや落語といった「おとぎ」を題材にした作品も多数ありまして...懐が深いなぁ。

私、元気をもらった、なんて言い回しは好かんのですが、ちょっと厭世的な気分のときに堀井さんの著書を読むと、絶望感を先送りしたくなるというか、人間生きててナンボ気分というか...あっ、そういう感情の揺れを世間一般では「元気をもらった」「勇気をありがとう」と表現/共有しているんですよね、失礼致しました(べつに誰もオレの「好き嫌い」には関心ないんだし)。堀井さんとは、ずいぶん前に雑誌の仕事で事務所に伺ったことがあります。玄関に使い込んだバットが立て掛けてあったのが印象的でした。そして一昨年、私が編集スタッフとして関わった「ALWAYS三丁目の夕日’64」の公式本でもインタビュイーを引き受けてくださり、そのご縁で不躾にもお原稿を依頼したのでした。ご寄稿、心より感謝致します!

 みんなと夏の旅行に行ったときに駅でロケット花火を上げるのを手伝ったのは田城だった。栃木県の駅にしばらく停車したとき、そういえば、このあたりには知り合いが住んでるから、というよくわからない理由で、ホームでロケット花火を勝手にあげることにした。空き缶にロケット花火を差して発車間際に火を付けてホームに置けば、列車が発車したあと、上空でぱーん、ときれいに破裂するだろう、と田城と二人盛り上がって、他の連中には知らせないまま、上げることにした。
 人がホームにはまったくいなかった。ただ、そんなに小さい駅でもない。田城が花火を差した空き缶を持って、おれが火を付ける。発車ベルが鳴った。鳴り終わって、ひと呼吸をおく。ライターで着火した。しゅーっという音がする。その空き缶を田城がホームに置いた。ドアが閉まり始めた。同時に、空き缶が傾きだした。「あ、あああ」と二人、声が出る。ドアが閉まるのと、空き缶が倒れていくのがシンクロしていた。ドアが閉まって列車が動きだした瞬間にしゅっと音がして、ロケットが前方に飛んだ。前のほうで「ぱん」と鳴った。


ウィッチンケア第4号「花火」(P026〜P029)より引用
http://yoichijerry.tumblr.com/post/46806261294/4-witchenkare-vol-4-4

Vol.9 Coming! 20180401

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