2023/05/17

VOL.13寄稿者&作品紹介35 かとうちあきさん

ウィッチンケア第13号に、語り手「わたし」と同居鼠(!?)との共棲についての一篇を寄稿してくださったかとうちあきさん。前号(第12号)への寄稿作「鼻セレブ」は恋愛、そして政治の気配すら漂っていたのに、今作はすっかり《おネズミ様》イシューでして...まあ、私(発行人)も悩まされた経験があるので他人事とも思えずに拝読致しました。10年前まで住んでいた下北沢の家では、殺鼠剤を置いたら台所でお亡くなりになったお姿を発見して、そのあまりにも切ない死相がトラウマになって「今後はあやめず出ていってもらう方法を考えよう」と決心したものの、いまの家に出没したやつには生やさしい対応過ぎて、ついにエアコンの電気回路を破壊され、なにかのはずみで姿を発見して箒で窓辺に追い詰めたら、ばーんと外に飛び出してそれっきりなんですが...お願いだから、もう戻ってこないで。ネズミは、いにしえの「Tom and Jerry」だけで充分です。浦安のほうに棲んでいるネズミも、あれが可愛く思えたことないし。


 ...それにしても、「わたし」。作品冒頭の《こうした生活の些事の中、わたしの慄きを聞いてくださる、それがおネズミ様だ》という感じで、昨今ニュースで見かける言葉を使うなら、グルーミングされてませんか? いや、もうちょっと症状は深刻で、洗脳されている? いやいや、憑かれているのかも。なんだか一瞬、イザベル・アジャーニの「Possession」なんて映画を思い浮かべちゃったりして心配になりましたが、でもまだ自分とおネズミ様の関係性を冷静に語れているので、大丈夫なのかな。

Twitterや公式サイトを拝見すると、かとうさんの主宰(!?)する「お店のようなもの」でのイベントなども、少しずつ活性化しているようです。「鼻セレブ」のころはアベノマスクに怒っていたりと、コロナ禍のやるせなさが寄稿作から滲んでいましたが、世の中の空気も少しずつ変わってきているし...あっ、でも、今作でも物価高騰にはもの申しているんですよね、語り手の「わたし」が。極私的な事柄を題材にしてもふんわりと社会性を帯びている、そんなかとうさんの作品を、ぜひ小誌を手にして読んでみてください。


「業務スーパーの納豆と豆腐も値上がったんです。重要なたんぱく源だからか、納豆が売り切れのことが多くって、きょうも買えなかったんです」
 塩を使うことは諦め、若干薄味の野菜炒めを肴に缶ビールを呑みながら、お話しする。
「第三のビールの値上がりが激しいから、わたしは本物のビールを一缶だけちびちび呑むって決めたんです」
 おネズミ様は、もうどこにだっていらっしゃる。
「トイレットペーパーの値上がりもヤバいです。これからは大企業のトイレから、一個ずつかっぱらってきたいって思いました」
 トイレに行っても、お話しする。
(やっぱりあと一缶だけ呑んじゃおう)って一階へ降りてゆくと、冷蔵庫の脇のコンセントに刺さった「ネズミ駆除機」が青白い光を放っている。やたら安かったし、これは超音波なんて出さずにただ光ってるだけなんだって、薄々わたしは気づいている。それでも外さない、付けたままにしておく。眠れない夜なんかに、ぼおっと瞬く青白い光を見るのは、無駄に物悲しくて悪くないから。

〜ウィッチンケア第13号掲載〈おネズミ様や〉より引用〜

かとうちあきさん小誌バックナンバー掲載作品台所まわりのこと〉(第3号&《note版ウィッチンケア文庫》)/〈コンロ〉(第4号)/〈カエル爆弾〉(第5号)/〈のようなものの実践所「お店のようなもの」〉(第6号)/〈似合うとか似合わないとかじゃないんです、わたしが帽子をかぶるのは〉(第7号)/〈間男ですから〉(第8号)/〈ばかなんじゃないか〉(第9号)/〈わたしのほうが好きだった〉(第10号)/チキンレース問題〉((第11号)/〈鼻セレブ〉(第12号)

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Vol.14 Coming! 20240401

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