不穏な表紙ヴィジュアルを装ったウィッチンケア第13号、総ページの終盤になって、なぜか動物の話が続くのです。かとうちあきさんの「おネズミ様や」のバトンを受けた山本莉会さん作品の冒頭は、ネズミの「ちがいます、ぼくじゃありません!」という叫び声で始まって...あっ、私(発行人)、「なぜか」なんてとぼけてますが、もちろん編集者として、ここは繋げてみたかった(種明かしw)。でっ、登場する《かわいいみんな》=動物は子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥+ネコで13種(にんげんは除く)。《おだやかでない話》...これが、じつは、なにが起こったのかよくわからない。よーく目を凝らすと、犯人だけは瞭然なのですが、とにかく具体的には語られていない。作者はおそらく十二支にまつわる我が国での言い伝え(民話?)を下敷きにしていると想像できて、だからこの物語における《【はんにん】》として最初に疑われたのは、“ウシの背中から抜け駆けした”とされるネズミだったんだろうし...まあ、その先は読者の想像力にお任せするのが楽しそうです(わたしもあまり深く考えず、目で楽しみました!)。
それでも、作中で気になるのは、なんと言ってもウシの記憶です。《天蒼蒼野茫茫風吹草低見》...平原には放牧された牛や羊...《あの日とまるで正反対》の天気? 《まっしろいかげ》?? ちょっとググってみると、《【はんにん】》らしき動物の代わりに《おだやかでない話》には加わっていない動物が十二支とされている国もあるようだし。2023年の主役は、可愛いなりして、じつはけっこう凶暴なのかも...そういえば前回主役だった年って、あんなことが(そこまで作者が考えていたとは思わない...)。
その他にも、まだまだ謎めいた箇所がいくつもある一篇です。たとえばトリがサルを説くシーン。《ほんとうにあなたはむこうみずなサルですよ。調子に乗ってるといたい目にあうと、モモタロウさんやサンゾーホーシさまに言われていたでしょう。トリの世界では水を知る者は水に溺る、鵜の真似をするトリということわざもあってですね……》...烏じゃないの? とか考えると、ますます山本莉会さんの術中に嵌まりそうで...どうぞみなさま、ぜひ小誌を手に取って、この《おだやかでない話》の真相を突き止めてください!
話しかけられたヒツジは、やれやれといった風にメェといった。とはいえ、ウシのハナシがながいのはいつものことだ。ひづめで土を蹴っては被せ、落ち着かない様子のイノシシを尻目に、ヒツジは胃に蓄えていた草をげええっぷと出して、再咀嚼する。げええっぷ、の前に「しつれい」と言うのを欠かさなかったが、それでも露骨に嫌な顔をするどうぶつもいた。なにごとも、気にしてはいけないとヒツジは思っている。群衆は眼中に置かない方が身体の薬、である。
「ちなみにその日、はらっぱにいたのは?」「私と、ヒツジさんと、ウサギちゃんだったと思います。おしゃべりもせず、みんな草に夢中で」「ふうむ、その3人だと、そうでしょうなぁ」。ヒツジは恥ずかしそうに小さくメェといった。
*
「そういえば、ことしはウサギ年だね」「こんな場でなんだけど、あいさつをききたいなぁ」「わーい、さんせい」。ウサギはびっくりして、ぴょこんとはねてウマのうしろにかくれてしまった。「わ、あいかわらずかわいいや」「ほーんと、見てるだけでいやされるなぁ」。ウサギのしっぽがウマの足もとからのぞいている。
〜ウィッチンケア第13号掲載〈かわいいみんなのおだやかでない話〉より引用〜
※ウィッチンケア第13号は下記のリアル&ネット書店でお求めください!
【最新の媒体概要が下記で確認できます】