2021/05/16

volume 11寄稿者&作品紹介16多田洋一(発行人)

 さて、今回も自身での自作紹介。多田洋一の〈捨てたはずのマフラーどうしちゃったんだっけ〉、略称〈捨てマフ〉について。いまになってみて、自分は今回「経年」について書きたかったんだよなと思っています。もうちょっとあけすけな言葉...まあ「劣化」とかでもハズレじゃないな、とも。書き始めるまえ、とりあえず「東日本大震災のころのことは記す」「コロナについてはダイヤモンド・ プリンセス号にまつわる件あたりまでしか記さない」と決めました。あらかじめ起承転結を決めてそれに合ったエピソードを配して、みたいな書きかたではないので、とにかく2020年初春の土曜日の午後、男女を伊豆半島でクルマに乗っけて、あとは「うまく走ってくれよ」と願いつつ行き当たりばったりで完成させました。わりと早い時期にできて、しばらくほったらかしにして、粗熱がとれたあとの推敲にかかった時間のほうが長かったくらい。

第11号正式発行の前日、noteに「でっ、誰にもらったマフラーなんだよって話を」をアップしました。これはぜひ読んでほしい。そして、第2号への寄稿作「まぶちさん」(←noteで無料公開)にまで遡ってもらえると、政治がらみな箇所なんかも少し違った感じで受け止めていただける、かな。...あと、人の名前。今作を書く過程で調べて初めて知った名前、書いたことで記憶の隅から甦った名前、確信犯での名指し。いろいろ混じっています。敢えて名前を記していない人が何人かいて、そのうちのおひとりについては「口さがない表現でごめんなさい」と、作中の「僕」に代わって謝りたいです(2005〜2006年、土曜日の朝は「ベリーベリーサタデー!」を楽しく見ていました/報道で、ちょっと眩暈が...)。それにしても、人の記憶なんてあてにならないもの。私は地震の直後、下平さやかさんが懸命に速報を伝えていたのははっきり覚えています。でも、そのとき家にあったテレビが地デジに対応した新しいものだったか、「テレビなんて映りゃいいよ」と長きに渡って使っていたブラウン管のやつだったか、もう思い出せなくてびっくり。

毎回、自分の書いたものについては「誰か代わりにお願いしますよ、酷評でもいいから〜」と思いつつ、ここまで引っ張ってけっきょく自分で、なんだよな(第6号掲載作だけ、三浦恵美子さんによる紹介)。本は手にしたが多田のは読んでない、って人がどれくらいいるのか、なるべく考えないようにはしています。なんでウィッチンケアを出してるんですか? と訊かれたさいにはいつも「それはオレの書いたものを読んでもらいたい、が半分です」と答えるようにしています。



 どこまでいくつもりなんだっけ? と麻耶ちゃんに訊かれた。「石廊崎まではいってみようと思って」と僕。「石廊崎になにがあるの?」「むかしいったときには椰子の木が生えていたような記憶がある」「椰子の木見てどうするの?」「いや、たんに半島の先っちょまでいってみたいだけ。それで今日はつきあわせてる」
 一瞬の沈黙があって、麻耶ちゃんが「先っちょ」を繰り返した。「なんか、いやらしい」

〜ウィッチンケア第11号〈捨てたはずのマフラーどうしちゃったんだっけ〉(P094〜P103)より引用〜

多田洋一小誌バックナンバー掲載作品:〈チャイムは誰が〉(第1号)/〈まぶちさん〉(第2号)/〈きれいごとで語るのは〉(第3号)/〈危険な水面〉(第4号)/〈萌とピリオド〉(第5号)/〈幻アルバム〉(第6号&《note版ウィッチンケア文庫》)/〈午後四時の過ごしかた〉(第7号)/〈いくつかの嫌なこと〉(第8号)/〈銀の鍵、エンジンの音〉(第9号)/〈散々な日々とその後日〉(第10号)

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Vol.14 Coming! 20240401

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