ウィッチンケア第10号への寄稿作〈恋愛に興味がないかもしれない話〉で、自らの研究テーマを「労働系女子マンガ」だと語っていたトミヤマユキコさん。じつはトミヤマさん、今年から手塚治虫文化賞の新たな選考委員を務めていまして、先月末(4/28)に第25回受賞作が決定。マンガ大賞は「ランド」(山下和美)でしたが、ネットで公開された選評によると、トミヤマさんの推しは笹生那実「薔薇はシュラバで生まれる【70年代少女漫画アシスタント奮闘記】」。おお、まさに「少女漫画のアシスタント」という労働する女性を描いたマンガ! と納得しつつ、同作については今号への寄稿作〈俺がお前でお前が俺で──マンガ紹介業の野望〉でも言及されていたことをあらためて思い出したのでした。2020年は〝マンガ家による体験記、回想録がとても話題となった〟としたうえで、「松苗あけみの少女まんが道」とともに名を挙げ、さらに同じ系譜でもう一作ということで、庄司陽子の「ゴールデン・エイジ」を紹介していたな、と。
タイトル、そして本文にも出てくる「マンガ紹介業」という言葉、トミヤマさんの仕事へのスタンスを端的に表しているなと思います。大学の先生(東北芸術工科大学芸術学部文芸学科講師)/研究者なのですから、その成果の発表ならもっとアカデミックな響きの言葉で飾っても...いやいや、きっとトミヤマさんは自分が「これだ!」と思ったマンガの魅力を、できるだけ多くの人にきちんと「紹介」することが自らの使命と考えているんだろうな。ポイントは「自分が」と「きちんと」だと推察できて...つまり「世の中で良いとされているから、そういうものとして」紹介するのではなく、自分のお墨付きとして、責任持って紹介したいと。だから、作中にある〝たぶんわたしは「紹介する」という行為に、なんらかのケミストリーを期待しているんだと思う〟という一節に共感しました(ここで言う「ケミストリー」とは、紹介者としての良い意味での「山っ気」だとも私は理解)。
トミヤマさんは4月から朝日新聞の新書評委員にも選出されて、4月10日には「女ふたり、暮らしています。」(キム ハナ)、5月8日には『友達0のコミュ障が「一人」で稼げるようになったぼっち仕事術』(末岐碧衣)を紹介。とてもお忙しそうですが、ぜひ土曜日の朝にもケミストリーを起こしてください!
さらにつらいのは、どうにか読み終えたマンガの中から、みなさんにご紹介する作品を絞り込まねばならないということだ。たくさん連載を持っているわけではないし、媒体それぞれの性格を考えると、「エロすぎるのでダメ」「人が殺されているのでダメ」「シュールすぎてダメ」みたいなケースも当然予想される。また、「まだ1巻なのでダメ」とか逆に「巻数が多すぎてダメ」というのも実はけっこうあるのだった。うう、難しい。
各媒体ごとにカラーがあるのは仕方がないのだが、推したい作品が選ばれないのはやっぱり悔しい。それって食わず嫌いじゃない? 騙されたと思って食べてみたら案外おいしかったってこともあるんじゃない? とか思っている。いちいち言わないけど。
〜ウィッチンケア第11号〈俺がお前でお前が俺で──マンガ紹介業の野望〉(P064〜P066)より引用〜
トミヤマユキコさん小誌バックナンバー掲載作品:〈恋愛に興味がないかもしれない話〉(第10号)
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