2021/05/03

volume 11寄稿者&作品紹介03久保憲司さん

 写真家/ロック・ジャーナリストの「クボケンさん」こと久保憲司さん。小誌とは第3号からのご縁で、いつも〝振り幅が大きい〟作品を届けてくれます。今回の寄稿作〈電報〉もまた驚きの展開でして、日常っぽい前半部分を読んでいて、まさかGAFAの話題がシームレスに投入されるとは思ってもみませんでした。あっ、今作はわりと短めの一篇でしたが、久保さんの小説世界にどっぷり浸りたければ、これまで小誌に掲載された作品に新たな書き下ろしを増補した「スキゾマニア」という書籍がありますので、ぜひ入手してくださいませ。そして久保さんのリアルタイムな音楽コラムを読みたいかたは「久保憲司のロック・エンサイクロペディア」へ、ぜひぜひアクセスを!

主人公の「俺」(久保さん、と呼ばれている)が体験する、有名なパン屋でのアルバイトの描写にぐっときてしまいました。食パン三つまとめて取り出すさいに火傷をして、声を上げたら怒られる...なんか、斎藤幸平の『人新世の「資本論」』が頭を過ぎりましたが、気のせいかな。そして元DJだという「町田」の後日談も、笑っていいものなのかどうか。久保さんのここ数回の寄稿作は、世の中のシステム(経済etc.)に対してまっすぐに異議を唱えている感じがあったんだけれども、〈電報〉はどこか達観したというか、乾いた笑いで矛盾をやり過ごしているようにも思えて。「俺」や「町田」が抱えている〝闇〟って、じつは深刻だよなぁ。コロナ禍が引き潮のように作用して顕在化された問題、なのかも。

作中には「不動産屋を回っている時に気づいたのだが、京都にはまだ井戸のついた物件がたくさんある」という一節があります。私が前回京都にいったのはもう3年以上まえだけど、あのときは市内のバスを利用しようとしても、外国人の大群が並んでいて乗れるかどうかヒヤヒヤしたっけ。もう、京都にインバウンドな観光客が溢れるなんていう状況はしばらくないと思うので、「俺」にはぜひ、むかしながらの京都の特長を活かした地元密着型新商売で一発当ててほしいと願っています!



 何で高校生くらいのバイトにこんなにもこき使われないといけないのか、今の高校生はこんな辛い思いをして一日三千二〇〇円頑張って手にしているのか、今の世の中とはこんなものなのか、これが格差社会か、しかも俺が作り方を習得したいと思ったバゲットは他の店から仕入れている。俺は食パンなんかで火傷したくないんだと叫んでみたいが、時給九〇〇円、週三日のバイトの俺の意見なんか、シーッと言われるだけだろう。

ウィッチンケア第11号〈電報〉(P019〜P021)より引用

久保憲司さん小誌バックナンバー掲載作品:僕と川崎さん(第3号)/川崎さんとカムジャタン(第4号)/デモごっこ(第5号&《note版ウィッチンケア文庫》)/スキゾマニア〉(第6号)/80 Eighties(第7号)いいね。(第8号)/〈耳鳴り〉(第9号)/〈平成は戦争がなかった〉(第10号)

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