2021/05/23

volume 11寄稿者&作品紹介25荻原魚雷さん

 昨年8月に荻原魚雷さんが上梓した「中年の本棚」は、紀伊國屋書店のPR誌「scripta」での連載を纏めた1冊。書名から素朴に連想すると「けっこう〝敷居の高い〟本についての本かな」と感じるかもしれませんが──たとえば「ロックのレコード棚」だとビートルズ、エリック・クラプトン、クイーンとかかなと思えてもこれが「ハードロックのレコード棚」だとブラック・サバス、ブルー・オイスター・カルト、ユーライア・ヒープとか...って、たとえになってるのか──取り上げられているのはむしろ新刊書店で入手しやすい、アップツーデートな著者のものが多いのです。とくに荻原さんがジェーン・スー(「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」)や酒井順子(「センス・オブ・シェイム 恥の感覚」「中年だって生きている」「駄目な世代」)といった〝曲者〟の書について考察しているのが、私にはおもしろかった。そして私信でもお伝えしたのですが、最終章が橋本治だったこと、とっても納得がいきました(ここがもし糸井重里だったりしたらずいぶん違う印象を持っただろうな、オレ)。

荻原さんの今号への寄稿作〈古書半生記〉にも、コロナ禍が影を落としています。「古本屋も古書会館も休みだと、なんのために東京に住み(もともと仕事は在宅ワークだし)、安くはない家賃を払っているのかと空しくなる。もうすこし郊外に引っ越そうか、いっそ地方移住するか、新型コロナの自粛中、そんなこともよく考えた」...7年まえに20年近く住んだ下北沢から町田市の実家へと戻った私としては、痛いほどわかる心境です。もはやレコードや本はネットのほうが充実した時代ではありますが、しかし、そこで引いてしまうと、「もう一度出る」っていう気力体力経済力etc.を再充電すること、ものすごくたいへんなのでありまして。私は最近、いまだに通っているシモキタの歯医者さんにいくときなどは、ちょっと余所行き目の恰好をするような人間になってしまいました。

終盤で「はじめて古本の買取をしてもらった」店(都丸書店/昨年末に閉店)のことが語られています。ブックオフ〜トレファクやメルカリなんかを気軽に利用できるようになった時代とは、ちょっと違う緊張感。おカネのこともですが、私は店主に「オマエはこんな本を買ったのか」「オマエはこれを売ってもいいと思ったのか」と無言で言われているようで、査定の時間がいたたまれなかったです、若いころ。



 今は読みたいとおもった本の大半はネットの古本屋で入手できる。交通費を考えると送料込みでもネットで買うほうが安いことも多い。とはいえネットでは知らない本は買えない。棚を見ながらタイトルや装丁がピンときた本を買う。未知の本を読んでいるうちに本と本とのつながりが生まれ、読みたい本が増えていく。
 旅先で買った本は背表紙を見るたびに「どこそこで見つけた本だ」という記憶がよみがえる。この先、読み返す機会がなさそうな本でも買ったときの状況をおもいだすとなかなか手放せない。

〜ウィッチンケア第11号〈古書半生記〉(P162〜P168)より引用〜

荻原魚雷さん小誌バックナンバー掲載作品:〈わたしがアナキストだったころ〉(第8号)/〈終の住処の話〉(第9号)/〈上京三十年〉(第10号)

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Vol.14 Coming! 20240401

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