2014/05/22

vol.5寄稿者&作品紹介24 多田洋一

今号でもまた自分で自分の書いたものを紹介する順番がまわってきました。おーい誰か私の代わりに書いてくれませんか? っていう気持ちがかなりありまして、だってこのような形式の文章ではうまく書けないことを書くためにあのように書いたのですから...とにかく読んでください〜。

掲載作の「萌とピリオド」は、<変化>について書いてみようと思って書きました。前号に掲載した「危険な水面」と自分のなかで緩やかに繋がってはいますが...とにかく<変化>。「変わること」と「変わらないこと」の関係性というか、「自分が認識している変化」と「外側から眺めた自分の変化」の齟齬というか。でもって、なんでそんなに<変化>に文字を費やすほどに興味があるかというと、ここ数年の自分のなかで起きている<揺らぎ>について、書き留めておきたいと思ったからではないかと。

少し具体的に書いてみますと、たとえば今日の私は「iPhoneを持っているのがあたりまえ」で外出しましたが、しかしその「あたりまえ」は短くもない人生のたかだか4年くらいのそれでして(小誌ブログにもこんなこと書いてるし...)、でっ、たかだかiPhoneひとつでも、人とのコミュニケーションのさいの<たかだか「ものさし」のようなもの>ですら、ものすごく変化していまして、私が「これが私である」と認識しているところの私は、そういう(iPhoneに限らないさまざまな)変化に“正しく”対応できているのだろうか、みたいな。...ほら、うまく説明できないから、やっぱり「萌とピリオド」を読んでください〜。

チャイムは誰が」「まぶちさん」「きれいごとで語るのは」の主人公は、まあ「思っていることと言ってることとやってることがバラバラ」ではありますが、それでも「オレはオレで、世の中はまあこんなもんだろ」みたいな認識で活動しています。でも最近のふたつは、その認識自体が揺らいで足下がすくわれている感じでして、そこを書くのがおもしろいです(「まぶちさん」はnoteにもアップ)。そして「萌」という字に「きざし」とルビ振ろうかなとも思ったのですが、でも「モエピリ」と読まれちゃってもまあいいかなと思い直して、いま使ってみたい漢字をそのまま放置しました...萌(タイトルは起点と終点、みたいな意味合いで捉えていただければ)。

 上原さんと出くわした通りまで戻ると、僕は妙にさばさばした気分になっていた。オイルと蝋燭を買いにいかせたのは宏美。確証はないが、僕の中ではもう繋げてしまった。人の心を試すようなことをされるのに耐えきれず僕は宏美から逃げ出したんだけれど、たぶんそんな僕と入れ違いで、なにかのきっかけで上原さんを出入りさせるようになったんだと思う。まあ、いい。まあ、上原さんの買って帰ったのが特殊な折檻のためのオイルと蝋燭だったりしないことを、密かに祈ってはいる。でも、そんな趣味があったのかどうか少なくとも僕は知らないし知りたくもないし……しかし、世の中を牛耳ったみたいに楽しそうに見える人って、たとえば上原さんのような「光線を出している人」なんだな、とつくづく。その光線は数式や言葉の整合性と合い口が悪いらしく、それらで解析すればするほど「理不尽な部分」へと分裂し実相から遠ざかる。
 ドーナッツ店のまえで、僕はまず夜に入れていたアポ二件を電話でキャンセルした。時間を都合して日暮れまえに宏美を突然訪ねてみるつもりだったが、そんな気持ちは微塵も失せた。
 画面をスクロールしてこれから会えそうな数人に連絡してみた。最初に色よい返事をくれたのは荏原だった。僕はネクタイを少し緩め、人目を気にせず背伸びしてから胸のフラップポケットに電話をしまう。
 地下鉄に乗る頃には、もう明日以降出社しない決心がついていた。それより、数年ぶりに会う荏原に皺や肝斑が増えていませんように。腕や腰が弛んだり……あと、歯がくすんだり欠けたりしてないことも願いながら二子玉川で大井町線を待った。自由が丘より先にいくのは初めてで、荏原がいま住んでいるという駅名になんのイメージも持てなかった。あっ、でも品川区なんだ。品川といえば教習所とプレートと新幹線だ。
 改札で迎えてくれた荏原が、僕の手を強く握って部屋まで連れていく。途中で花豆とドライフルーツを買うと言い出し、アーケード街の青果店に寄った。荏原はあいかわらずなんだかよくわからない雑貨と人形と本とともに暮らしていて、外見はほとんど変化を感じさせなかった。むしろ頭髪の薄さと白さを会ってすぐに笑われ、僕のほうが傷ついていた。
 甘い香りが強いお茶を淹れてもらいしばらく会話していたが、二人きりでのお楽しみはひとつしかなかった。


ウィッチンケア第5号「萌とピリオド」(P0168〜P175)より引用
http://yoichijerry.tumblr.com/post/80146586204/witchenkare-5-2014-4-1

Vol.8 Coming! 20170401

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